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18話 郭嘉という男


 これは少し前の話。


「殿、少しよろしいか」


「荀彧殿、どうされました?」


 またどっさりと書簡を届けに来た荀彧に少し引いていると、まるで世間話でもするかのように手招きをされる。

 何だか古の学生時代を思い出すな。何てことない顔で教師に呼ばれたかと思うと、何故か別室で説教されるアレな。


「このままだと、恐らくですが殿はただの木っ端の将軍に成り下がると思います」


「へ? どうしたの急に」


「軍を動かすにも、政治を動かすにも、必要なのは官位と爵位です。今や殿は董承の捨て駒に過ぎません」


 急に、胸に突き刺さることをコイツ。もう少し気を使ってほしい。

 でも荀彧の言うことはいつも真っ当で、何一つ間違いが無い。だからこそツラいんだけどね。


 俺はあくまで曹操の嫡男に過ぎず、曹操を継げるほどの功績は何一つ持っていない。

 荀彧や夏侯惇が支持してくれているから、辛うじて今の地位についているだけの、いわばお飾りなのだ。


 張繍との戦があれば、その旗頭として相応しいだろうなぁ、くらいの利用価値しかない。

 手っ取り早く功績を挙げるには戦に勝つしかないんだが、今はそんな余力もなく、戦になっても董承は俺に活躍の場を与えないだろう。


「時間が経てば経つほど、政治機能は董承に握られていきます。そうなるともう、私や夏侯惇殿では、殿を支えることは出来ません」


「しかし内側の混乱を招けば、呂布や袁術、それこそ張繍に攻め込まれる。どうすればいい」


「そこで一つ、策を提示させていただきたく」


 すると、俺の居室に一人の男がぬらりと入城してきた。

 髭も眉も整えられ、衣服を着崩し、前髪を垂らしたイケオジだ。女性人気凄いだろうな、って感じの。



「殿に拝謁いたします。郭嘉に御座る」



 その類稀な智謀は、まるで未来をも見通していたかのような天才軍師。

 ただ才能だけが傑出しており、その素行はまさにろくでなし。


 それでも、史実で曹操が最も愛した配下といっても良い。それが、郭嘉だ。


 リアル転生者って感じのチートをやってのけてるんだから、恐ろしいよなホント。

 そんな天才が今、俺の目の前に。ヤバい。サイン書いてもらいたい。


「郭嘉には今回の策の要を担っていただきます」


「え、あ、おう。それで、その策は?」


「簡単です。機を見て、董承を殺すのです」


「ふぇ?」


 変な声が出てしまった。涼しい顔して、荀彧は何を言ってるんだろう。

 しかし荀彧も郭嘉も、さも当然といった表情をしていた。え、俺がおかしいのかな、これ。


「そんな、簡単に言うけどさぁ」


「殿は今まで、董承の前では愚を演じておられたではないですか。てっきり、殿はその気なのだと思っていましたが」


 いや、まぁ、うーん。油断してほしいとは確かに思っていたけどさぁ。

 でも人間って急にさ、そこまで極端に思考が飛躍しないじゃない? 生きてる時代の差ってやつか、これ。


「董承は今、私と夏侯惇を注視し、殿や郭嘉、董昭は甘く見られております。故に今回は、郭嘉に策謀を一任いたします。没我の使用権限も預けましょう」


「分かった。えっと、それで郭嘉。算段はすでに付いているのか?」


「つい先日の事、殿はお聞きになられましたか? 袁術が即位したという一報を」


 揚州方面にて力を擁する袁術は、自身の持つ家柄の良さなどを理由に、落ち目の漢王朝に取って代わるべきと宣言して、皇帝に即位した。

 これは史実とも同じ流れだ。名門である「汝南袁氏」は、代々「易学」の習得に力を入れてきたという特色がある。


 その色を濃く受け継ぐ袁術は、自身こそが漢に代わる者という根拠を予言や吉兆に見出し、ついに皇帝に即位した。

 現在の漢帝「劉協」を擁する俺らにとって、それは決して許すことの出来ない話であった。


「この件で袁術と我々は完全に反目することとなりました。そこで、これを利用しましょう。董承が袁術と裏で通じていたという罪を被せるのです」


「董承だって馬鹿じゃない。そんな分かりやすい罪を犯すとは思わないが」


「されど董承は、曹操様と手を握る前までは、袁術にすり寄っていた男です。そして陛下も、それは十分に知っている」


 確かに、李カク政権から逃れるために長安脱出を図った劉協は、新たな庇護者を求めていた。

 その時に動いたのが、曹操と袁術であり、董承は袁術寄りの立場であったとか。劉協もそれは分かっている。


「証拠は、掴んでるのか?」


「確たるものは見つからないでしょう。董承はその辺りには抜け目がない。されど、騙す対象は董承ではなく陛下なので問題ないかと」


「真実に、嘘を混ぜるわけか」


「目に見える形で作り出してしまえば、陛下とて擁護は出来ますまい。それに董貴人は身ごもられたばかり。貴人の命の保証さえすれば、陛下も董承を強く擁護できますまい」


「良く知ってるな。後宮の事情とか、普通は聞かないだろ」


「女遊びが取柄ですので」


 コイツ、たしか嫁も子供もいたはずだろ。なにやってんだよ。

 とはいえ郭嘉に常識の話をしたところでしょうがないのは、三国志にも記されてある。


 董昭が金を使うなら、郭嘉は女か。

 なるほど、どうりで周囲から嫌われやすいわけだ。



・郭嘉

未来予知ができる。絶対できるよこの人。ってレベルのリアル転生者。

でも素行が悪くて、真面目な陳羣にめちゃんこ怒られてる。

この人が長生きしてればなぁ……って話によく出てくる。


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― 新着の感想 ―
[一言] 郭嘉は 戦国時代でいうと 毛利元就か織田信長かってレベルですからね 歴史マニアぐらいの現代人では 同時代まず勝てないっす
[一言] このSSでの董昭のキャラを見た後、その時点では未登場だった郭嘉はどんなキャラなのか、登場が楽しみでした。 ちなみに私は、昔ニコニコ動画などで流行ったアイマス三国志動画などで、 ノリが軽くてち…
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