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10話 漢皇帝劉協

歴史ジャンル、日間ランキング1位、本当に嬉しいです!

この期待に応えられるよう、これからも頑張っていきたいと思います! ありがとうございます!(≧▽≦)


「すいません、夏侯惇殿。我儘を言って、参内の日をずらしてしまって」


「いえ、御母堂との面会を誰が非難できましょうや」


「それで陛下が俺の官位をどのように任じるつもりか、分かってることはありますか?」


「国政を実権を担う尚書の席は荀彧殿の息のかかった者達が独占しているので、恐らく軍を率いるに問題はない。しかし、大きな問題もある」


「問題とは」


「陛下の義父であられる、董承だ」


 宮殿へと足を急がせながら、手短に夏侯惇と言葉を交わす。

 曹操の戦死という非常時の為か、すれ違う官僚や役人達の顔には鬼気迫る様子が見て取れた。


 董承。当然、名が上がるだろうなと心構えていた人物である。

 三国志では一般的に、献帝の忠臣として名が挙がる筆頭格たる重臣として有名な男だった。


 ただ史実を見てみると、穏健な忠臣というよりは、野心家とも見れるような行動も多い。

 最終的には曹操と対立し、謀反の罪で一族諸共処刑されているという人物であり、今の俺の要注意人物でもある。


「殿よりも董承の方が高位に就く、それは免れますまい。何卒、気を荒げる事の無いよう」


「もう昔の曹昂ではありません。ご安心ください」



 剣を衛兵に預け、速足で宮殿へと足踏み入れる。

 そこには数多の文武百官が並んでおり、皆が俺の姿を一点に見つめていた。


 そしてそんな数多の官僚らを見下ろせる玉座の位置に、簾に隠れた人物が一人。

 恐らくあれが時の皇帝である「劉協」なのだろう。俺は速足のまま百官の間を進み、その場に膝をついた。


「曹昂が陛下に拝謁いたします」


「曹司空(曹操)が不幸にも戦死し、天地も混迷に渦巻く中、よくぞ戻った。面を上げよ」


「ありがたき幸せ」


 依然として、劉協の顔は分からない。ただ、声はまだ幼さが残るくらいに若い。それなのに、異常なほどに落ち着きもある。

 そんな劉協の側で、百官達よりも上座に座る男が立ち上がり、俺と劉協の間に立ち入ってきた。


 年齢は、五十を過ぎたくらいか。身体が大きく、顔や腕には生々しい戦傷が刻まれている。

 明らかにその姿は軍人そのものだ。そしてその目も、あからさまに野心でぎらついていた。


「では、この董承がこれより、陛下に代わり詔を告げる! 司空、曹操の功績は天下に響き渡り、後世に渡って伝えられるものであった。その忠誠を評し、王侯の礼をもって国葬を執り行うものとする。更に嫡男である曹昂は、武平侯の爵位を継承することを許す」


「ははーっ」


「司空の地位は、曹操の才に並ぶ適任が居らぬため、現時点では空位とする。車騎将軍の位は董承が継ぎ、開府を許可する! そして曹昂は、尚書令・鎮北将軍に任ずるものとする!」


 馬鹿みたいな役職に任じやがってコイツ……

 鎮北将軍は北方の軍事を担う役職だが、北の地は今、袁紹や公孫瓚の手中にある。


 加えて尚書令は朝廷の政治の中枢を担う高級官位だが、もちろん任地は都だ。

 都に居ればいいのか、北に赴けというのか、絶対に兼任不可能なでたらめなことを言いやがってマジで。


 張繍との前線に赴任させるつもりなら鎮南将軍に任じるはずだが、それも無し。

 俺から軍事的な実権を完全に取り上げようという、露骨な嫌がらせだ。


 しかも官位では完全に、車騎将軍となった董承に上をいかれてしまった。

 得意げにこちらを見下ろす董承。背後に控える夏侯惇が怒りを抱いているのが何となく伝わってくる。


 だが何よりも、董承が「開府」を許されたということが決定的だった。


 日本で言えば幕府だ。自分の好きなように、自分の為の人材を集められる。オリジナルの、もう一つの朝廷が作れるわけだ。

 こうなると天下の人材が董承の方に集まりだすこととなる。逆に俺は、ただの官僚の一人に過ぎない立場となってしまった。


 これからの漢王朝の支配者は、曹操が切り開いたこの勢力域は、全て董承のものだ。

 そう言わんばかりの人事である。俺は下を向きながら、必死こいて目を赤くし、怒りの形相で董承へと顔を向けた。


「董車騎(董承)殿! 何卒、この曹昂に父の仇を討たせてくださいませ! その為ならばこの曹昂、将軍の下で一兵卒として奮戦する覚悟に御座いまする!!」


「お、おう、その気持ちはよく分かっておる。必ずや、司空の仇を共に討とうぞ。貴殿と同じく、私も、そして陛下も、怒りに震えておるのだ」


「ありがたきお言葉に御座る! この曹昂、身命を賭して陛下に尽くす所存に御座います!!」


 喉がどこかへ吹っ飛んでいきそうなほどに声を張り上げ、無理やり涙を流し、俺は劉協と董承に頭を下げ続けた。

 曹操に対する憧れはあれど、情はない。そんな俺だからこそ出来る、精一杯の演技だ。


 曹操に忠誠を尽くしてきた者はきっと、今の俺の姿を苦々しく見ていることだろう。

 もう曹氏は終わりだと落胆する者も居るだろうが、それでいい。そう思う人間が多ければ多いほど、董承は安堵する。


「皇帝陛下! 万歳! 万歳! 万々歳!!」


 元からプライドも何もない。曹操が死んだ時点で終わったも同然の足場なんだ。

 だったらこれくらいはやっておかないと。驚きつつも満足げな董承の顔を前にして、俺は頭を地にこすりつけたのだった。



・劉協

後漢最後の皇帝。諡の「献帝」で呼ばれることも多いよね。

董卓に擁立されたので凄く立場が弱く、色々と大変な生涯を送った人。


・董承

劉協の義父という立場から、朝廷で権勢を握った人物。

忠臣で描かれたり、野心家で描かれたりと、中々に評価が分かれる印象。


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面白いと思っていただけましたら、レビュー、ブクマ、評価など、よろしくお願いします。

評価は広告の下の「☆☆☆☆☆」を押せば出来るらしいです(*'ω'*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 史実の三国志に詳しい久保さんがなろうに凱旋したこと [気になる点] 史実のエピソードも盛り込まれるのでしょうか [一言] 劉協、士徽主人公やの様な起承転結のうち承転抜きではなくみっちり書い…
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