マネージャー、稽古する。
「ほら、みんな、もっと声を出して!」
エリの声が、稽古場にとどろいた。
今日の稽古には、部員11人全員がそろっていた。
ミサキを入れれば12人。
俺は、12人それぞれのセリフや動き、舞台全体の演出をチェックしている。
顧問の宮田先生はいなかったが、エリがみんなを上手に指導している。
「ミサキちゃん、そこに立って。このセリフを読んでくれる?」
「は、はい、わ、わたしは」
「ミサキちゃん、この役は、セリフは少ないけど大事なキャラなの。もっと大きな声で」
ミサキは、緊張に顔を赤らめ、開いた口がそれ以上広がることも閉じることもなかった。
「もういいわ。つぎ、クミコ、読んで」
エリが、副部長のクミコに声を移した。
「はーい」
「はーいじゃなくて、はい、ね」
「はい」
クミコがスラスラとセリフを読み出すと、他の部員たちも波長をあわせるように、各々のセリフを読み始めた。
ただ、ミサキだけが顔をふせたまま、無言で立ち尽くしている。
俺は、スキを見てエリの背後に近づき
「なあ、エリ、俺、このセリフ、もう少し短いほうがいいかなと」
「じゃ、次のシーン行くわよ」
エリは、俺を見ることなく声をあげた。