マネージャー、奮闘
「あ、ありがとうございます」
ミサキは、左腕をスローモーションようにゆっくり伸ばして袋をとるとドアを閉めた。
「お、おい」
俺は、ドア越しのミサキに口を開いた。
「もうすぐ文化祭が始まるぞ。こいよ。楽しいぞ」
「うそ、演劇のことでしょ」
ドア越しに返事がきた。
「まあ、そうだけど」
「やっぱり」
「わたし、でませんよ」
「あいつらがイヤなのか?大丈夫、俺たちがついてるよ」
数秒の沈黙。
「絶対、やです」
「ガンコだな。つーか、このままじゃお前、留年しちゃうぞ」
「宮田先生も心配してたぞ。お前、気に入られていたじゃないか」
しばらくの沈黙。心の揺れが感じられた。
「アキラさん、マネージャーじゃないですか。よろしく言っておいてください」
俺は、頭が熱くなった。
「ふっざけんな、自分で言えよ。わかってんだろ、このままだと去年の二の舞で活動休止になっちまうかもしれないんだよ」
「頼むよ、今度の発表会に出てくれ」
ややあって、ドアが4分の1ほど開いた。
「隣の人に聞こえますよ」
俺はハッとした。
「ごちそうさま」
ミサキは、空になったコーラのペットボトルを俺に渡すと、ふたたびドアを閉めた。
もう飲んだのか。
俺は、空のペットボトルを振り回しやけになっていると、ドアがまた少しだけ開いた。
ミサキが左手の人差し指をくちびるにあてて、考えながら小さな声を発した。
「わ、わたし、人前ではあがってしまうし」
「すぐに慣れるよ、心配ない」
「み、みんな、わたしのこと忘れてるし」
「エリたちは、ちゃんと覚えている」
「ど、どうせ留年は決定だし」
「宮田先生は、まだ間に合うっていってる」
ミサキは、驚きにうるんだ視線を俺にむけた。
「ほ、ほんとうですか?」
「ああ、俺はウソは嫌いだ。早く部屋から出て一緒に学校に行こう」
「練習は、3時からだ。下のコンビニで待ってるから」