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輾転草・令和百物語  作者: 胤田一成
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泥田坊

泥田坊

 むかし北国(ほくこく)(おきな)あり。子孫(しそん)のためにいささゝかの田地(でんぢ)をかひ(おき)寒暑(かんしよ)風雨(ふうう)をさけず時々(ときどき)の耕作(こうさく)をおこたらざりしに、この(おきな)()してよりその子酒(さけ)にふけりて農業(のうぎやう)(こと)とせず。はてにはこの田地(でんぢ)他人(たにん)にうりあたへければ、()な夜な()の一つあるくろきものいでゝ、()をかへせかへせとのゝしりけり。これを(どろ)田坊(たぼう)といふとぞ。

                               鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』より


一、懸命に生きる


 煮売り屋のお(はつ)は、近ごろ、めっきりと細くなった髪を(つくろ)いながら、ホウッと溜息(ためいき)をついた。もとより繁盛(はんじょう)とは程遠い小商(こあきな)いぶりだったが、夫と死別してからというもの、日々の暮らし向きは貧しくなる一方だった。分厚(ぶあつ)い帳簿を(めく)ると生活の貧窮は具体的な数字となって両肩(もろかた)()()かってくる。お(はつ)はまたもや、ホウッと一息(ひといき)ついた。

 油が勿体(もったい)ないので、そろそろ暖簾(のれん)を下ろそうかと思った矢先(やさき)に、一人の男がフラフラとした足取りで店に入ってきた。お(はつ)はその男――陣内(じんない)(へい)()が銭にならない客であると知っていながらも、安手の徳利(とっくり)半合(はんごう)ばかりの酒を(そそ)ぐと、楚々(そそ)とした所作(しょさ)で男の前に差し出した。それは、彼女なりの抗議の流儀だった。

「いらっしゃいまし――、また随分(ずいぶん)と召し上がって来たみたいでございますね。そういう遊びも若いうちだけの楽しみですよ」

 陣内平太(じんないへいた)片頬(かたほお)()()らせるような笑みを浮かべると、酒で焼けた(のど)をヒュウヒュウと鳴らして声を()(しぼ)った。

「お生憎(あいにく)(さま)だね。今さら、直そうとしても無駄だよ。とっくに駄目になっちまっているんだから。それにしても、ちょっと酒が少ないんじゃないかい」

 お(はつ)愛想(あいそ)(わら)いを崩さぬように努めつつ、突き伸ばされた猪口(ちょこ)に酒を()いだ。加賀(かが)毛勝山(けかちやま)の雪解け水を用いた地酒(じざけ)をグイと()()すと、平太(へいた)は皮肉屋らしい暗い双眸(そうぼう)で彼女をジッと見詰(みつ)めた。瞬間、うなじを氷で()ぜられたような怖気(おぞけ)が走った。お(はつ)は彼の眼付きが嫌いで仕方がなかった。

「世間は暦が改まったといって騒いでいるが、慶安(けいあん)とはまた大仰(おおぎょう)な名前を授けたもんだ。(まった)く、笑わせてくれるね」

 平太(へいた)はそう言うと、空になった猪口(ちょこ)を差し伸ばした。お(はつ)はこの男が何を言いたいのか分かるような気がした。

 確かに、この界隈(かいわい)に住む人々の暮らしぶりは豊かなものとは言い難い。毛勝三山(けかちさんざん)から流れ込む片貝川(かたかいがわ)の勢いは急であり、度重(たびかさ)なる洪水によってろくに農業を(いとな)むことも出来やしない。

 (わず)かに残された農地で()(ほそ)った作物を取る日々に、片貝川(かたかいがわ)流域に(きょ)(かま)える皆が苦しみ(あえ)いでいる。少なくとも、お(はつ)は太平とは()(はな)れた生活を送っていた。

「お(かみ)が決めなさった事に文句を言うもんじゃありませんよ。誰が聞いているか分かったもんじゃありませんからね」

 陣内平太(じんないへいた)寛永(かんえい)飢饉(ききん)で母親を亡くしてから(のち)、父親の()衛門(えもん)と二人きりで暮らしている。

 古人(いにしえびと)らしい頑強(がんきょう)な老父である左衛門(さえもん)とは異なり、息子の平太(へいた)はどことなく頼りない風貌(ふうぼう)をしており、気質(きしつ)もそれに伴うかのように(ゆが)()がっているらしかった。

 単なる天ノ(あまのじゃく)とは根本から違う、堕落を()(こう)から見詰(みつ)めるかのような性情(せいじょう)を、お(はつ)は以前から内心で怖れていたが、今夜の平太(へいた)は危ないまでの妖気を身に(まと)っているように見えた。

女将(おかみ)さんはもうあの(うわさ)を聞いたかい。何でも、加賀藩(かがはん)のお殿様(とのさま)はこの片貝川(かたかいがわ)開墾(かいこん)御布令(おふれ)を出すつもりでいるというじゃないか。家の親父は気が早いことに(くわ)の手入れなぞを始めているよ」

 夫に死なれてから世間との交流を絶った気でいたお(はつ)は、この(しら)せを聞いて、少なからず驚いた。(ぞう)木林(きばやし)に囲まれた辺境(へんきょう)の土地である東山麓(ひがしやまろく)を、加賀(かが)殿様(とのさま)は見捨ててはいなかったという事実に動揺したのだ。

 しかし、お(かみ)は暴れ川として有名な片貝川(かたかいがわ)をどのようにして(おさ)めるつもりなのだろうか。その脅威(きょうい)を知っている人々の一員である彼女にとって、その御布令(おふれ)はあまりにも無謀(むぼう)なものに思えてならなかった。

「でも、どうやって――」

 そう()(よど)むお(はつ)一瞥(いちべつ)すると、平太(へいた)は面白くもなさそうに鼻を鳴らしてから、誰にともなく冷たく言い放った。

「馬鹿が考える事なんてたかが知れているさ。盛土(もりど)だよ。俺たちに土嚢(どのう)(かつ)がせて、ひたすら土を盛らせるつもりなのさ。でも、そうやって(こしら)えた田畑も所詮(しょせん)(はん)の物に違いはない。(ひたい)に汗して開墾(かいこん)しても、年貢(ねんぐ)はきっちりとむしり取るつもりでいやがる。何のために働くのか分かっている奴なんざ、これっぽちもいやしないんだ。(まった)く、骨折(ほねお)(ぞん)のくたびれ(もう)けだよ」

 この男は自分の父親を(さげす)んでいるのだ、とお(はつ)(ほど)なくして気が付いた。左衛門(さえもん)は妻を飢饉(ききん)で亡くしている、と考えると老父の気持ちも分からないでもない。少しでも飯の種が増えるのなら、彼は(いさ)んで苦役(くえき)(のぞ)むのだろう。お(はつ)はそれを思うと、いじらしさで胸が苦しくなってしまった。

「家の親父は馬鹿な野郎の筆頭(ひっとう)だね。土嚢(どのう)背負(せお)って暴れ川を(しず)めても、結局(けっきょく)は自分の首を()めることになるんだからな。加賀(かが)殿様(とのさま)(もてあそ)ばれているということに気が付かないで、せっせと(くわ)を磨いて(えつ)(ひた)っているが、その時が来ればどんな顔をするのやら。いやいや、(まった)く馬鹿げた話さ」

 お(はつ)は自身の頭にカッと血が(のぼ)るのを感じた。同時に、この冷血漢(れいけつかん)(しゃく)をしている自分が情けなくも思った。彼女はしばらく考えた(すえ)に、自身が()すべきこと定めると、思い切って行動に移した。

 お(はつ)は客の前に置かれた徳利(とっくり)を取り上げると、中に(そそ)がれた(わず)かな酒を、ピシャリと平太(へいた)()びせ()けた。

「店を閉めるので帰ってください。言っておきますが、貴方(あなた)のお父上(ちちうえ)は立派な方です。(さき)飢饉(ききん)で亡くされた奥様を(しの)んで(くわ)を振るうのです。それが子供の貴方(あなた)には分からないのですか。一生懸命(いっしょうけんめい)に生きようとしている人を(ゆび)さして笑うのですか。貴方(あなた)は恥を知るべきです」

 お(はつ)の感情の発露(はつろ)を見ても、平太(へいた)の表情はまるで変わらなかった。酒を()びせ()けられたことに気が付いてないようですらあった。

 陣内平太(じんないへいた)はただ、片頬(かたほお)()()らせて微笑(びしょう)していた。彼は猪口(ちょこ)に残された最後の酒をグイと()むと席を立った。

女将(おかみ)さんが思うほど親父は美しくないよ。あれは(どろ)(うみ)を泳ごうとしている老人に過ぎない。それ以上でも以下でもない妄念(もうねん)(かたまり)だ。それに、一生懸命(いっしょうけんめい)に生きることの何が(えら)いっていうんだい」

 憤怒(ふんぬ)()られたお(はつ)冷笑(れいしょう)を浮かべる平太(へいた)の後ろ姿を見送ると、門口(かどぐち)から暖簾(のれん)を下ろして塩を()いた。

 誰もいなくなった店の中で彼女は帳簿を開き、陣内平太(じんないへいた)酒半合二文也(さけはんごうにもんなり)と下手な筆で書き(しる)した。

 越中国(えっちゅうのくに)加賀藩(かがはん)新川郡(にいかわぐん)の夜は深々(しんしん)と()けていく。先刻(せんこく)から降り始めた小糠雨(こぬかあめ)片貝川(かたかいがわ)に落ちて水嵩(みずかさ)を高めるのだろう。春夜(しゅんや)の雨といえども油断(ゆだん)はできない。

 お(はつ)は暴れ川の機嫌(きげん)を思い(わずら)い、あまりの(なや)ましさに、ホウッと嘆息(たんそく)をついた。



二、流れる血潮


 陣内左衛門(じんないさえもん)が煮売り屋を訪れたのは、慶安(けいあん)四年の冬の夜更(よふ)けのことだった。左衛門(さえもん)は細くやせ(おとろ)えた腕で暖簾(のれん)()()け、髪に白い物が()じり始めた(とし)(ころ)のお(はつ)を驚かせた。

「まあ、驚かせないで下さいな。それにしてもお久しぶりですこと。今日はもうお店を閉めようとしていたところですのよ。あまり、上等(じょうとう)な物は(こしら)えられませんが、ごゆっくりなさっていって下さいな。左衛門(さえもん)さんなら、いつでも歓迎(かんげい)致しますわ」

 お(はつ)徳利(とっくり)に酒を並々(なみなみ)と(そそ)ぐと、寒空(さむぞら)の下を歩いてきた老人を思いやり、早々(はやばや)と(かん)にする支度(したく)を始めた。

 左衛門(さえもん)座敷(ざしき)(こし)()ろすと(ふところ)から煙管(きせる)を取り出して、震える手で(きざ)煙草(たばこ)をゆっくり丹念(たんねん)に丸めてから火を(とも)した。

 北陸の古人(いにしえびと)黙然(もくねん)として容易(ようい)には話そうとしない。お(はつ)はそれが何とはなしに嬉しかった。自分も歳をとったのだ、とお(はつ)は思う。

左衛門(さえもん)さんたちのおかげさまで、最近は暴れ川も随分(ずいぶん)と穏やかになりました。段々(だんだん)とですが、田畑も()えだしたようで助かっております。三年という月日の(あいだ)に世の中はすっかりと様変(さまが)わりしました」

 徳利(とっくり)(たた)えられた燗酒(かんざけ)(ぼん)()せて運びながら、ふと老人の()(ふる)された藁沓(わらくつ)を見ると、まだ乾き切っていない泥が付いていた。道は霜が降りるほどに()てついているはずである。藁沓(わらくつ)の首の辺りまで泥が()ねるようなことは()ずあり()ない。

 ――ああ、左衛門(さえもん)さんはまた田圃(たんぼ)に寄って来たんだわ――

 三ヶ年前に陣内平太(じんないへいた)が煮売り屋を訪れて以来(いらい)、お(はつ)はこの老父のことを気掛(きが)かりに思っていた。夫と死別してから世間との紐帯(ちゅうたい)を絶ったつもりでいた彼女であるが、陣内家(じんないけ)の事情については(ひそ)かに耳を(かたむ)ける(くせ)のようなものが、()らぬ()にすっかりと身に付いてしまった。

陣内左衛門(じんないさえもん)開墾(かいこん)()()かれている」

 東山村(ひがしやまむら)の人々は健気(けなげ)な老人を指さして笑っていた。お(はつ)にはそれが悔しくて(たま)らなかった。冬枯(ふゆが)れの山麓(さんろく)(わず)かに(たがや)された田地(でんち)(いと)おしみ、昼夜(ちゅうや)()わずして土を(いじ)る老人の姿を思うと、お(はつ)胸中(きょうちゅう)(かな)しみと(あわ)れみでいっぱいになるようだった。

 ――一生懸命(いっしょうけんめい)に生きようとする左衛門(さえもん)さんは立派だわ――

 左衛門(さえもん)墾田(こんでん)への専心(せんしん)を馬鹿にする者は存外(ぞんがい)に多かった。お(はつ)客連中(きゃくれんちゅう)が老父の暮らしぶりを口さがなく噂し合うのを聞く(たび)に、彼の息子のことを思い出さずにはいられなかった。相変(あいか)わらず、平太(へいた)は父親の苦役(くえき)(さかな)にして、酒に(おぼ)れるようにして()ごしているらしい。


一生懸命(いっしょうけんめい)に生きることの何が(えら)いっていうんだい』


 冷笑(れいしょう)と共に放たれた言葉をお(はつ)は忘れていなかった。あれ以来、平太(へいた)が煮売り屋を訪れることはなかったが、左衛門(さえもん)(うわさ)を耳にする(たび)に、平太(へいた)青白(あおじろ)(ひたい)(よど)んだ双眸(そうぼう)幻影(げんえい)を思い起こしてしまう。お(はつ)はそれが(たま)らなく(いや)であった。何か高潔(こうけつ)なものが(いたずら)(けが)されたような気がしてならない。そいった気分を味わう(ごと)に、彼女の髪は白くなっていくのだった。

左衛門(さえもん)さんも随分(ずいぶん)(さみ)しい思いをなさっているようですわね。何せ、息子さんがあの様子では――さぞかし、()()にも()ってきたことでしょう」

 お(はつ)は言ってしまってから後悔した。これでは口さがない客連中(きゃくれんちゅう)と変わらない。(しゅ)(まじ)われば(あか)くなる、とは言うが彼女にとってそれは屈辱(くつじょく)(きわ)みだった。片頬(かたほお)()()らせて笑う平太(へいた)のシタリ顏が脳裏(のうり)(よぎ)った。

 お(はつ)は非常な羞恥(しゅうち)を感じながらも、ひと()ず老父の顔色を(うかが)った。北陸の古人(いにしえびと)依然(いぜん)として煙管(きせる)を吹かしているだけで、機嫌(きげん)(そこ)ねたような素振りは一切(いっさい)見せない。何か言わなければ、とお(はつ)の方が(あせ)り始めた(ころ)になって、ようやく左衛門(さえもん)は口を開いた。

「もとより、息子には何も(のこ)してはいかないつもりだ。あの土地だけは誰にも(ゆず)る気になれない。俺が死んだ(のち)も土地は残り続けるだろう。あの世に持っていけないのが残念だ」

 左衛門(さえもん)は糸のような紫煙(しえん)を吹き終えると、訥々(とつとつ)とした口調で話し始めた。寡黙(かもく)な老人の魂は田圃(たんぼ)の辺りを彷徨(さまよ)っているらしく、お(はつ)左衛門(さえもん)の言わんとする事を容易(ようい)には()()れずにいた。ただ、左衛門(さえもん)が自分の田地(でんち)をどれほどの愛しているのかだけは、ひしひしと伝わってくる。

左衛門(さえもん)さんは田圃(たんぼ)を愛しているのでございますね。私も(さき)飢饉(ききん)で夫を亡くしたようなものです。奥様への手向(たむ)けとして開墾(かいこん)に精を出すお気持ちは分かりますが、お身体(からだ)を壊してしまっては(もと)()もありません。せめて、冬の(あいだ)だけでも休んで下さい」

 お(はつ)の言葉を聞くや(いな)や、左衛門(さえもん)は激しく首を振るった。老人の(かたく)なな意志を前にしてお(はつ)は少なからず驚いた。

「いやいや、分かっておらぬ。あの田圃(たんぼ)は俺の命そのものなのだ。あの土地には俺の血潮(ちしお)が流れている。誰であろうと俺の田圃(たんぼ)(けが)すことは許さない」

 左衛門(さえもん)はすっかり冷めてしまった燗酒(かんざけ)手酌(てじゃく)猪口(ちょこ)(そそ)ぐと、トロリと(つや)のある聖水(ひじりみず)()くことなく見詰(みつ)めながら、誰にともなくボソリと(つぶや)いた。

「誰かが(くわ)を振るって田を耕した。この酒にも誰かの血潮(ちしお)が流れている。俺は削られた魂の一部を()むのか。勿体(もったい)ないことだ。(ごう)の深いことだ」

 左衛門(さえもん)(つい)に酒に手を出すことはなかった。ただ、(しき)りに煙管(きせる)を吹かしては遠い目をして物思いに(ふけ)っていた。その(さび)しげな後ろ姿を見て、お(はつ)は老父の余生(よせい)が決して長くはないことを予感した。


 彼女の思った通り、陣内左衛門(じんないさえもん)は翌年――慶安(けいあん)五年の皐月(さつき)に老衰により、静かに息を()き取った。


 煮売り屋のお(はつ)陣内家(じんないけ)()(すえ)(あん)じながらも、無事に歳を重ねて四十路(よそじ)(むか)えたが、客連中(きゃくれんちゅう)相変(あいか)わらず、彼女を「お(はつ)さん」と呼ぶ。それが何だか()ずかしいように思える(とし)(ころ)となった。

 慶安(けいあん)という暦は早くも(あらた)まり、承応(しょうおう)(ふた)文字(もじ)が世の中に広まろうとしている。それが陣内家(じんないけ)の盛衰の有様(ありさま)を表しているようで、お(はつ)にはうら(さび)しく感ぜられるのだった。

 ――陣内平太(じんないへいた)には父親の死を(しの)ぶという人情(にんじょう)()けているように思えてならない――

 彼は父親である左衛門(さえもん)が亡くなると同時に田圃(たんぼ)(しち)(なが)してしまったらしい。陣内左衛門(じんないさえもん)田地(でんち)山田徳右衛門(やまだとくえもん)という富農(ふのう)の手に渡ることになったのである。

 今年も田圃(たんぼ)に水を張ろうと意気込(いきご)客連中(きゃくれんちゅう)をあしらうと、お(はつ)炊事場(すいじば)の裏手に逃げて、(ひと)()れず静かに涙を流した。一滴(ひとしずく)の涙は(ほお)を伝い、やがて酒の(たた)えられた(たる)の中へと消えた。


 

 三、泥田の化け物


 承応(しょうおう)二年の皐月(さつき)のことである。陣内(じんない)左衛門(さえもん)が世を去ってからちょうど一年が経ち、忌日(きじつ)(めぐ)って()(ふく)するべき期間が明けた(ころ)になって、山田徳右衛門(やまだとくえもん)はフラリと煮売り屋を訪ねてきた。

 ――この恰幅(かっぷく)の良い男が左衛門(さえもん)さんの田圃(たんぼ)を奪った山田徳右衛門(やまだとくえもん)か――

 東山麓(ひがしやまろく)牛耳(ぎゅうじ)富農(ふのう)らしく、丸々と太った恵比須(えびす)(がお)は、平生(へいぜい)なら愉快(ゆかい)に見えるのだろう。だが、お(はつ)陣内家(じんないけ)の衰亡が平太(へいた)徳右衛門(とくえもん)(あいだ)密約(みつやく)()わされた事に()ると知っているだけあって、別段に歓迎(かんげい)する気分にもなれなかった。

 山田徳右衛門(やまだとくえもん)は注文すると何やら物思(ものおも)いに(ふけ)っているようで、チビリチビリと冷酒(ひやざけ)()めながら、ぼんやりと虚空(こくう)見詰(みつ)めていた。お(はつ)左衛門(さえもん)田地(でんち)を奪ったという男の横面を(にら)みつけずにはいられなかった。

陣内(じんない)左衛門(さえもん)という方をご存知(ぞんじ)でしょうか」

 お(はつ)富農(ふのう)である徳右衛門(とくえもん)(たず)ねた。返答(へんとう)次第(しだい)では店から追い出すつもりでさえいたのである。お(はつ)陣内平太(じんないへいた)山田徳右衛門(やまだとくえもん)(はなは)だしく(うら)んでいた。

 長い月日を経る(ごと)に、彼女の中で陣内(じんない)左衛門(さえもん)の記憶は崇高(すうこう)なものへと昇華(しょうか)していった。お(はつ)にとって左衛門(さえもん)は暴れ川である片貝川(かたかいがわ)(おさ)め、土地に豊饒(ほうじょう)(もたら)した英傑(えいけつ)に他ならなかった。

勿論(もちろん)、知っているに決まっているだろう。陣内(じんない)左衛門(さえもん)といったら片貝川(かたかいがわ)(おさ)めるばかりか、一代で田畑まで(きず)()げた傑物(けつぶつ)だ。(もっと)も、村の人々の中には彼の成功を(そね)む者も少なくないが、左衛門(さえもん)は実に立派に生きた農家の一人だ」

 お(はつ)は少なからず動揺した。山田徳右衛門(やまだとくえもん)陣内(じんない)左衛門(さえもん)に確かな敬意(けいい)(いだ)いているようだった。お(はつ)は混乱しながらも前掛(まえか)けの(すそ)(にぎ)()めて徳右衛門(とくえもん)に詰め寄った。

「ならば、なぜ左衛門(さえもん)さんの田圃(たんぼ)を奪ったりしたんです。あの土地には左衛門(さえもん)さんの血潮(ちしお)が流れています。誰かに踏み荒らされることなどあってはならないのです」

 お(はつ)の並々(なみなみ)ならぬ声風(こわぶり)気圧(けお)されつつも、徳右衛門(とくえもん)は穏やかな微笑(ほほえ)みを浮かべて事の次第(しだい)()(はじ)めた。

陣内(じんない)左衛門(さえもん)という方の話は以前から伝え聞いていた。昼夜(ちゅうや)()わず開墾(かいこん)した田を()でて、最期(さいご)の時まで勇猛(ゆうもう)果敢(かかん)(くわ)を振るい続けていたらしいではないか。

 私は自身が充分に(とみ)を手にしていることを知っている。これ以上、()(さか)えようとは思わない。守銭奴(しゅせんど)のようなマネをして地獄には落ちたくはない、と考えるほどに歳を重ねてしまった」

 山田徳右衛門(やまだとくえもん)手酌(てじゃく)で酒を(そそ)ぐと、大きく嘆息(たんそく)してから言葉を()いだ。門口(かどぐち)()られた提灯(ちょうちん)に数羽の()が明りに()せられて(からだ)をぶつける音が響いている。

陣内平太(じんないへいた)が私の屋敷(やしき)()()けてきて、父親の田地(でんち)(しち)(なが)したい、と相談を持ち込んできた。あれに土地を任せていては左衛門(さえもん)殿(どの)(むく)われまい、と私は思った。平太(へいた)は酒さえあれば良いという(たぐい)怠惰(たいだ)な男だ。ならば、左衛門(さえもん)殿(どの)供養(くよう)のためにも私が彼の田を買い取って、管理しようと思ったのだが――」

 お(はつ)山田徳右衛門(やまだとくえもん)の話にじっと耳を(かたむ)けていたこともあって、彼が何かを()(よど)んでいると即座(そくざ)に気が付いた。美談(びだん)の中に隠された不都合(ふつごう)な事実を彼女が見過ごすことはなかった。またもや、陣内平太(じんないへいた)冷笑(れいしょう)脳裏(のうり)(よぎ)った。何かあるとするならば、彼のせいに決まっているように思えた。

左衛門(さえもん)殿(どの)の魂はまだ土地を離れていないらしい――。田に水を張る季節になったので、私たちは左衛門(さえもん)(おう)の加護を求めて盛大な水口祭(みなくちまつり)を行なった。左衛門(さえもん)(おう)の魂は毛勝山(けかちやま)へと(のぼ)(しず)まって、田の神として豊穣(ほうじょう)を約束してくれるとばかり信じていた。しかし――、彼の魂は山に帰ってなどいなかったようなのだ」

 山田徳右衛門(やまだとくえもん)はガックリと肩を落としながら語る。福々(ふくぶく)しい相好(そうごう)は崩れて、声は細く()(しぼ)られ、生気を一息に吹き消されたような印象すら覚える。その姿を見るや(いな)や、お(はつ)は冷たい指先で背筋を()ぜられたような(すご)さを感じた。

左衛門(さえもん)殿(どの)の魂は田圃(たんぼ)から離れていない。彼を田の神として(むか)える祭は失敗に終わった。ああ、恐れ多いことだ。今でも、ハッキリと思い出すことができる。

 水口祭(みなくちまつり)が終わる夕刻の時分(じぶん)に奇妙な声が響いた。(かす)かではあるが、私の耳には、『田を返せ、田を返せ』と聞こえた。祭事(さいじ)(たずさ)わった者たちにも、その声は聞こえているらしかった。

 ふと、水を張ったばかりの苗代(なえしろ)()を振り返ると――そこには一つ目、三つ指の(どろ)人形(にんぎょう)のような異形(いぎょう)のモノが、(うら)めしそうにこちらを指さして立っていた」

 山田徳右衛門(やまだとくえもん)はそう言ったきり黙って口を開こうとしない。お(はつ)(にわ)かには信じ難い事の顛末(てんまつ)を聞かされて、呆然(ぼうぜん)とするほかに仕様(しよう)がなかった。 

 左衛門(さえもん)の魂は、まだこの世とあの世の狭間(はざま)彷徨(さまよ)っている。もし、それが本当なら彼を(つな)()めているものは何なのだろう。何故か、陣内平太(じんないへいた)の顔が思い浮かんだ。


 泥に(まみ)れた一つ目の化け物が、三つしかない指でこちらをさして、「田を返せ、田を返せ」と恨み言を繰り返す。


 それが(おとし)められた英傑(えいけつ)の姿である。暴れ川を(おさ)め、泥にも(まみ)れて田を耕し、(わず)かばかりの作物を取り、ようやく口を(のり)する老父の()れの()てが、徳右衛門(とくえもん)の言うようなものであってほしくなかった。

 お(はつ)徳右衛門(とくえもん)悄然(しょうぜん)とした様子を仔細(しさい)に観察していた。しかし、この男からは悪意のようなものを感じ取れない。もし、陣内(じんない)左衛門(さえもん)()(がん)彼岸(ひがん)端境(はざかい)(とど)めている者があるとしたら、息子の平太(へいた)に違いないように思えた。

 ――左衛門(さえもん)さんを現世(うつしよ)(つな)(とど)めている者があるとしたら、息子の平太(へいた)に違いない――

 (まった)ての元凶(げんきょう)陣内平太(じんないへいた)にあるようにしか、お(はつ)には思えてならなかった。平太(へいた)はあの土地に父親の魂が取り憑いていることを知っていたのだろう。左衛門(さえもん)の死と時を同じくして、山田徳右衛門(やまだとくえもん)のもとに田地(でんち)を流したのも、今となっては意味深長(いみしんちょう)な振る舞いである。何としても陣内平太(じんないへいた)と会わなくてはならない、とお(はつ)(ひそ)かに決心した。

 承応(しょうおう)二年の水無月(みなづき)陣内家(じんないけ)田地(でんち)禁域(きんいき)として定められ、その年から田が水を(たた)えることは二度(にど)となかった。

 村の大人(おとな)(たち)は、聞き分けのない(わらべ)(たち)(しか)る時、「(どろ)田坊(たぼう)が出るぞ」と(おびや)かすようになった。陣内(じんない)左衛門(さえもん)という名は次第(しだい)に世間から忘れ去られていった。それは、お(はつ)にとっては辛く悲しいことでもあった。

 土嚢(どのう)(かつ)ぎ、片貝川(かたかいがわ)(おさ)め、田を耕した老人の物語は(つゆ)となって消えていく運命(さだめ)にあった。それが、お(はつ)には耐えがたいほどに(さみ)しかったのである。



 四、泥海を泳ぐ


 承応(しょうおう)二年葉月(はづき)夜更(よふ)けに煮売り屋のお(はつ)陣内家(じんないけ)を訪ねた。亡くなった左衛門(さえもん)最期(さいご)まで質素(しっそ)倹約(けんやく)に努めていたらしく、山田徳右衛門(やまだとくえもん)一目(いちもく)置くほどの田圃(たんぼ)を持ちながらも、住居は極めて(わび)しい(つく)りをしていた。

 陣内平太(じんないへいた)深酒(ふかざけ)のために浮腫(むく)んだ顔をしており、暗い双眸(そうぼう)は黄色く(よど)んですらいた。両頬(りょうほお)は黒ずみ、指先の震えは容易(ようい)にはおさまらないようだった。

 陣内平太(じんないへいた)はお(はつ)座敷(ざしき)に招くと、自分はぐい()茶碗(ちゃわん)に並々(なみなみ)と酒を()いで、(しき)りに(さかずき)(かたむ)け始めた。

女将(おかみ)さんが言いたいことは何となくだが分かっているつもりだ。親父の田圃(たんぼ)(しち)(なが)したことを()めに来たんだろう。いや、もしかしたら(どろ)田坊(たぼう)の話かな」

 陣内平太(じんないへいた)片頬(かたほお)()()らせて笑う(くせ)は抜けていなかった。世の中の(まった)てを小馬鹿にしたような不遜(ふそん)態度(たいど)である。お(はつ)は部屋中に満ちた酒の香りに辟易(へきえき)しながらも、(ふところ)から分厚(ぶあつ)い帳簿を取り出して、平太(へいた)の前に突きつけた。

慶安(けいあん)元年に召し上がった酒代を頂戴(ちょうだい)しに来ただけです。しかし、貴方(あなた)は私を見て何かを思ったのでございましょう。腹に泥を(かか)えていらっしゃるのでしたら、仔細(しさい)(うかが)いたいと存じ上げます」

 平太(へいた)は帳簿に書き記された、『酒半合二文也(さけはんごうにもんなり)』という字をまじまじと見ていたが、やがては目を()らして、「払いたくとも払えんわ」と(つぶや)いた。平太(へいた)酒代(さかだい)二文(にもん)すら銭を持ち合わせていなかったのである。

「このどぶろくも隣の家からくすねてきたものだ。とっくの昔に陣内家(じんないけ)破綻(はたん)しているのだ。それより、親父――陣内(じんない)左衛門(さえもん)の話をしてやろう。女将(おかみ)さんは何か大きな勘違(かんちが)いをしているようだからね」

 左衛門(さえもん)の名前が語られた途端(とたん)にお(はつ)(まなじり)をキッと()()げずにはいられなかった。平太(へいた)は死人を(おとし)めてまで己の正しさを(あかし)()てしたいらしい。今や、お(はつ)平太(へいた)を心の底から軽蔑(けいべつ)していた。

女将(おかみ)さんや徳右衛門(とくえもん)殿(どの)は、陣内(じんない)左衛門(さえもん)という人間を大そう立派に思っているようだが、それは考え違いというものさ。最期(さいご)まで親父は(どろ)(うみ)を泳ぐことに執着(しゅうちゃく)していたに過ぎない。あれは(まぎ)れもない化け物だ」

 お(はつ)の頭にカっと血が上った。彼女は(つつし)みを忘れて口端(こうたん)(つばき)(あわ)を飛ばして怒鳴(どな)りつけた。眼前(がんぜん)はチカチカと明滅(めいめつ)を繰り返し、心臓は(おど)(くる)わんばかりに鼓動(こどう)を早めていた。

「そうではありません。左衛門(さえもん)さんは亡くされた奥様のことを思っていらしたのです。貴方(あなた)の奥様は飢饉(ききん)で亡くなりました。物が食べられずに、ゆっくりと死んでいく人の気持ちを貴方(あなた)は知らないのです」

 陣内平太(じんないへいた)はゲタゲタと笑いながら、お(はつ)激昂(げっこう)を聞いていたが、やがて一息(ひといき)つくと居住(いず)まいを正して()うた。

貴方(あなた)一度(ひとたび)でも左衛門(さえもん)の口から母上の名前を聞いたことがあるのですか。さあ、母上の名前を言って御覧(ごらん)なさい。陣内(じんない)左衛門(さえもん)は母上の話をしましたか」

 平太(へいた)の意外な()()けに、お(はつ)は思わず答えに(きゅう)してしまった。確かに左衛門(さえもん)の口から、妻の話が語られることはなかった。「(さみ)しい思いをしてきたのだろう」と(たず)ねた時も、彼の眼には田圃(たんぼ)のことしか、(えい)じていないようだった。それを薄情だとは思わなかったが、一抹(いちまつ)違和(いわ)を感じたのも確かだった。

「親父――陣内(じんない)左衛門(さえもん)開墾(かいこん)(しゅう)(ちゃく)していただけなんですよ。いや、生きることに執着(しゅうちゃく)していたと言ってもいい。泥に(まみ)れて作物を取ることに()()かれていたのです。それを誰かに分け与えてやろうなどとは考えもしなかったのでしょう。一生懸命(いっしょうけんめい)に生きることの何が(えら)いのか、私には(まった)く分かりません」

 平太(へいた)が静かに怒っていることは一目瞭然(いちもくりょうぜん)であった。弓形(ゆみなり)に細められた両眼(りょうめ)の奥には冷たく燃える火が(とも)されていた。お(はつ)陣内平太(じんないへいた)という人間に心魂(こころだま)鷲掴(わしづか)みにされたような気分に(おちい)り、思わず肉体を震わせずにはいられなかった。

巷間(こうかん)(ささや)かれている(うわさ)もあながち間違(まちが)ってないように思えるのです。陣内(じんない)左衛門(さえもん)田圃(たんぼ)を返して欲しいだけなのです。あれは道を(はず)れた化け物になったのです。あれは妄執(もうしゅう)(かたまり)が泥を(まと)った姿に他ならない。山田徳右衛門(やまだとくえもん)殿(どの)には申し訳ないことをしましたが――、どうやら、それも終わりのようです。ほら、女将(おかみ)さんには聞こえませんか」

 ピシャリ、ピシャリという(どろ)()を打つような(かす)かな音が遠くで響いている。お(はつ)がその音に耳をそばだてていると、突如(とつじょ)(ふいご)を鳴らしたような細い声が、後ろから聞こえてきた。それは(まご)うことなく左衛門(さえもん)の声だった。


「田を返せ、田を返せ」


 お(はつ)(わき)の下を冷たい汗が伝った。振り向こうにも身体(からだ)が動かない。陣内平太(じんないへいた)片頬(かたほお)()()らせて、ゲタゲタと笑うと茶碗(ちゃわん)に満たされた酒をグイと()み、怖気(おぞけ)に震えるお(はつ)(もと)にいざりより、肩を(つか)んで叱咤(しった)した。

「さあ、今すぐお帰りなさい。ここには二度(にど)と近づいてはなりません。走ってできるだけ遠くに逃げるのです。決して振り返ってはなりませんよ。親父に魅入(みい)られるといけないから」

 お(はつ)はフラフラとした足取りで陣内家(じんないけ)門口(かどぐち)までやって来ると、()けつ(まろ)びつしながらも、道を一目散(いちもくさん)()けて()った。恐怖が彼女の心臓をしっかりと(つか)んでいた。

 山麓(さんろく)辿(たど)()(ころ)には(いく)らかの平静(へいせい)を取り戻したが、ピシャリ、ピシャリという(どろ)()を打つ音はいつまでも耳に残り、容易(ようい)には忘れられそうになかった。陣内平太(じんないへいた)はあのあばら()(どろ)()の妖怪と共に暮らすことになるのだろうか、と考えると恐ろしさのあまりに背筋が冷たくなった。

 ふと、お(はつ)毛勝山(けかちやま)を見上げると満月が(いただき)()かろうとしていた。(かぜ)(おろし)に吹かれて山の木々が揺れる様を見ながら、お(はつ)は確かな狂気(きょうき)を感じていた。

 生きることに懸命(けんめい)になれば、何かを失うことになる。陣内(じんない)左衛門(さえもん)は何を失ったのだろうか、と思いを(めぐ)らせている()に月は山に隠れた。


 翌日、陣内平太(じんないへいた)(みずか)らの首に(くわ)(たた)()として死んだ、という(うわさ)が村を騒がせたが、お(はつ)は知らぬ顔を通して()ごした。陣内平太(じんないへいた)(なぞ)めいた狂死(きょうし)と、煮売り屋のお(はつ)の髪が一夜にして真っ白に色を落としたことを、(いぶか)しむ人々は(あと)を絶たなかったが、流れゆく月日の中で(うわさ)は長くは続かないものだ。

 一つだけ確かなことは、陣内平太(じんないへいた)の死の後に、彼女を「お(はつ)さん」と親しみを込めて呼ぶ者は村からいなくなったことだけである。


                                                     (了)


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