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「あぁ………、現実なんだわ」
ふかふかしているベッドに腰を掛ける。
私達は半年後の結婚式に籍を入れて、今は婚約者期間中だ。
花嫁修業の為に此方に来ている為、部屋は別である。
今までは社交界にもデビュタント以外は出て居らず、あの時もキラキラしている場所に慣れていないので直ぐに帰った。
これからは侯爵夫人となるので、明日から教師をお招きして御指導して頂けるらしい。
これには、エル様が「そんな事考えてもいなかった。自由な君を縛り付ける様な事をして、すまない。社交は私が出ているから最低限で良いよ」と言って下さった。
私もそういえば…、侯爵夫人だった。と思ったのでお互い様だと、エル様が恥ずかしく無い程度には頑張る。と言っておいた。
「エル様の御家族は本当に美形ね…」
下のお二人の事も馬車で聞いていた。
養子だが魔術師として先の戦争における国の英雄の一人で、今はミレーヌという街にお住いのゲイル様。ミレーヌは花が美しい街だと聞いている、一度行ってみたい。
魔術師団の女性最年少入団記録を持ち、闇の最高精霊と契約を結ぶ天才のカレン様。
お二人共ご結婚されていて、とても幸せなんだとか。
エル様はそれはもう、とても嬉しそうにお話されていた。
家族の事を大切にされているのだなと感じて、微笑ましい。
そんな所もとても素敵な方。
欠点等有るのかしら?
皆様とても有名なので、ミーハーな母から一度は聞いた事の有る名だ。
なんて輝かしい方々なんでしょう。
その一員になるだなんて……私、大丈夫かしら?
今更になって実感が湧いてきたので、不安になってしまう。
「ダメダメ、不安になった所でしょうがないわ。私は、私。
エル様を癒す為の結婚だもの!
あ、良いアイデアが浮かんで来たわ!」
沈みそうになるが、気を取り直して持って来ていた荷物の中からスケッチブックを取り出す。
「お爺様、今日も宜しくお願いします」
日課の挨拶をして、スケッチブックを開いた。
スケッチブックはお爺様が大量生産出来る紙を作ったお陰で出来た物だ。
なので、こうしてお爺様に感謝を伝える。
先程思い付いた物を文字として書き出す。
これはとても恥ずかしい事なのだが、エル様の役に立つ物を作りたい。
エル様の生活がもっと豊かになり、少しでも癒される時間が増えれば良いなと思っている。
エル様のお仕事は内務だ。国の為に働いている。
筆記用具系には手を出して来なかったのだが、そういうのも面白いな。
サラサラと何個か書いてみると、不思議と笑みが零れる。
「…凄いわ。アイデアが止まらないもの」
恋をするなんて初めてなので、自分の行動に感心してしまう。
いつか私の発明品を使って頂ける日が来るならば、とても嬉しい事だ。
誰かの役に立つ物。
誰かが少しだけ楽になる物。
私が目指している発明品を再度確認する。
その日は結局、日が天高く登る時間から侍女が晩御飯の為に呼びに来るまで机に齧り付いていた。