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どうしても心のモヤモヤが取れず、ぼーっと庭園を眺めていた。

自分が認めてしまったとはいえ、これ程まで彼女が邸に居ることに対して嫌な気持ちが溢れるとは。

それは日毎に増していき、自分自身の首を絞めるのに。

折角自分の商品をお披露目する日だったというのに、こんな気持ちを引きずったまま来てしまった。


一人になりたいと思っていた、なのにババガント様と偶然にも出会ってしまった。最初は、前回の件も有るので丁重にお断りしようとしていた。

だが、彼は私に元気が無いからと心配をしてくれたのだ。確かに気の抜けた顔はしていたかもしれないが、私とて貴族の端くれ。笑顔で全てを隠す事を知っているのに。思っていたよりも私は弱っているらしい。

念の為、二人きりになるのは婚約者の居る身としては頂けないので、侍女の方に説明して遠くから着いてきて貰いエル様が来られたら伝えて貰うよう頼んだ。


ババガント様は丁寧に庭園の花々を説明してくれた。

『幼少期から気に入っている』というのは本当の事なのだろう。ここは王城なのに、流石は公爵家の方だ。

そして、やはり元気が無いように見えたようで彼は水魔法を披露してくれた。

その優しさが有難かったし、ババガント様との会話は楽しい時間だった。


「おっと、キルフェット嬢。この辺りに葉っぱが付いているぞ」


何処から落ちてきたのか私の頭に葉っぱが付いていたようで、ババガント様は自らの頭を指差している。


「あら、ありがとうございます。この辺でしょうか?」


「あっ、すまない。分かりやすいように鏡で伝えてしまった。反対側だ」


そう言って、ババガント様が私に手を伸ばした。



「ロレッタ…!」


すると、腕を掴まれたかと思えばよく知る人の胸の中に収められる。

ババガント様は一瞬唖然とし、口をパクパクと動かしていた。


「…噂は本当だったのか。ゴホンっ、おやおやエルフィング=アンバート殿では無いか。君の婚約者殿が君を待っている間退屈そうにしていたのでな。少し世間話をしていただけさ」


「それは、それは。ロレッタのお相手感謝致します。では、私達は殿下に呼ばれておりますので失礼します」


エル様の胸元に埋もれて居るので彼の顔は見えないが、今まで聞いた事の無い様な冷たい声だった。エル様はこんな声も出せるんだな、と背中がゾクリとした。

彼は私を腕の中に入れた体勢のままスタスタと歩く。

エル様とは歩幅が違うので二倍は私の方が動いている気がする。彼はとても怒っているようだ。

私は彼の温もりを感じながら、恐怖で身体が震えてしまう。何も悪い事をしていないのに。


暫くすると邸へと帰る馬車にするりとエスコートされた。

どうやら殿下に呼ばれているというのは嘘だったようだ。


「…」


「…」


馬車の中では暫く沈黙が続き、どちらもお互いが切り出すのを待っている様子だ。


「……ロレッタ、俺が見ていない所で奴の相手をする事は無い」


やっと静かにエル様が話し出したが、その言葉には抑えきれていない怒気が滲み出ていた。私を怖がらせまいと頑張って抑えているのが目に見えて分かる。

私は震える身体をぎゅっと手で抑えながら、エル様にどう伝えようかぐるぐると考え、口を開く。


「はい…。あ、勿論!二人きりでは会っていません。ババガント様は私を元気付けようとお庭を案内してくれただけなのです」


そう言うとエル様は眉間に皺を寄せて俯いてしまった。

やましい事は何も無い。ただ事実を伝えて理解して貰おう。


「…そうか。随分と楽しそうだったな。


………君は、奴の事が好きなのか?」


「え?」


ガタンと馬車が止まる。エル様の言葉と同時にいつの間にか邸に着いてしまったが、私は頭が真っ白になってしまった。

誰が、誰を?


私が、ババガント様を…好き?


「な、何故そうなるのですか!?」


ババガント様とはまだ二度しかお会いしていないし、そんな事考えたことも無かった。私は驚きの余り声をひっくり返らせてしまう。


「元気付けようとしたと言う事は、元気が無かったのだろう?…奴とはそんな話をするんだな」


「それは、ババガント様が気付いて下さっただけで私からは何も…。それに、エル様とは最近お話も出来ていませんし…」


「…!……そ、そうだが、奴とはとても楽しそうだった。俺は最近君の笑った顔すら見ていない!」


何だと言うんだ。段々腹が立って来てしまった。

だったら少しの時間でも傍に居てくれたら良かったのに。そうしたら安心も出来たし、こんなに悩む必要も無かったのでは無いか。


「…エル様は最近のこの状況をどうお思いですか?私は人間の情であの方を邸にと言いました。

ですが、期間は?いつまで?何も伝えては下さらないし、エル様も私にご相談しては来ないでしょう?

エル様の心を蝕み続ける彼女を許し続ける程、私の心は広く有りません」


「…すまない」


私が怒った事に彼は気付いたのだろう。そして、言い返す言葉も無いと、グッと奥歯を噛み締め謝ってきた。

私は謝って欲しい訳では無い。

その途端、まるでグツグツと煮えくり返った鍋がひっくり返った錯覚に陥る。


「それに!!私が好きなのはエル様ですから!」


今まで発した事の無いくらい大声で叫んだからか、又は自分がどれだけの爆弾発言をしたか一瞬分からず、二人してポカンとしてしまった。


「あっ」


理解した途端、茹で蛸の様な顔を隠す為に私は口元を抑え馬車を飛び出し走っていた。


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