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閑話 ある夫婦の会話


「ねぇ、ゲイル。あれ、どう思う?」


そう言う我妻は、眉をキリリと上げながらも口元は緩々である。


「本当に良い感じでは有りそうだ」


俺は思ったままを口にした。すると、彼女は頬を高揚させて抱いているヒマワリをギュッと抱き締めた。


「やっぱりそうよね!エルフィング様に本当に春が来たんだわ!」


クルクルと回りながらヒマワリを高い高いするもんだから、少しヒヤヒヤしたがヒマワリはキャッキャと喜んでいたので危なくない様に魔法で援護する事にした。


彼女は兄が女運がとても悪い事を知っている。

俺もだが、今回婚約者を連れてくると言うので多少警戒していたのだ。

王都での噂も耳には入っていた。あの兄が、婚約者と大恋愛している等予想出来なかった。


だが、蓋を開けてみるとどうだ?


婚約者のロレッタ嬢は穏やかだが、芯のある女性で言葉に嘘が見当たらない。

アレンも初めて会った彼女を気に入っているようだった。

そして何より、本当に兄が彼女に好意を持っている様だった。


ロレッタ嬢を見つめる瞳は優しく、俺達家族に向ける物と変わりない様に見えた。

正直、驚いた。

前の婚約者の時は、振り回されながらも【婚約者として】接しているだけの様な感じがしていたからだ。

彼女とは、自然に会話をしてそして大層労わっていたのだ。


兄は侯爵で、若く、才能豊かで将来も安泰だ。

そして、容姿まで良い独身男性。今まで女性関係でそれは、それは苦労していた。

流石にアンバート家へ乗り込もうとする無謀な輩は居なかったが、家以外で落ち着ける場所等無い程に。


あんなに落ち着いていて、穏やかな表情の兄を初めて見たかもしれない。

家族に疲れた様子は余り見せた事が無いと思っていたが、彼はそれすら悟られまいと思っていたのだろう。


気付けなかった事に多少悔しさも有ったが、ロレッタ嬢だから兄を救えたのだとそんな風に思えた。


「あの方だったら大丈夫だね」


妻と娘はニコニコとしながら俺に満面の笑みを向ける。少し汗ばんでいるが目は回らなかったのだろうか。


「あぁ、見守ろう」


「ふふふ、お父様は心配性ですねぇ」


そう言って、妻は笑う。

どうやら俺がまだ少しだけ不安なのが分かるらしい。

前回の事が有るからだ。


ロレッタ嬢はそんな事にはならないとは思うが、人生は何が起きるか分からない。

心配するのは仕方ない事だ。


兄には幸せになって貰いたい。


幸せは人それぞれだが、ロレッタ嬢には期待をしている。

彼女が兄にとって良い縁で有るよう願うしかない。


「まぁ、私も直感でしか無いけどあの二人は良い方向に向かうと思うよ。私達も色々乗り越えて今が有るしね」


両手が塞がっているから、コテンと頭を肩に乗せてくっ付いて来たのでリンドウを片手で抱き、空いている手で二人を抱き締めた。


「エルフィング様がお義兄様な事に変わりはないけど、ロレッタさんとももっと仲良くなれたら良いな」


「…そうだな」



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