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パチリと目を開く。
「~~ーーーっ!!!」
恥ずかしさの余り、もう一度ベッドの中に潜った。
あの後、私が泣き止むまでエル様は背中を撫でてくれた。
そして、私が落ち着くと
「長居して済まなかった。そして、ありがとう。ロレッタが俺の代わりに泣いてくれたから、何だか胸が軽くなった。
今日はゆっくりお休み。」
そう言って笑顔で退出された。
私ったら、いくらエル様の事が好きだからってちゃっかりと抱き締め返していたではないか。
だって、とても温かいんだもの…。
「うぅ……、とても気まずいけれどエル様のお見送りに行かなくては…」
エル様は今日もお仕事だ。もうすぐ侍女の方が起こしにきてくれるだろう。
私はノロノロと起き上がると、丁度良く侍女の方が来てくれたので手早く支度をして、エル様をお見送りする為に玄関へと向かう。
足取りが非常に重い。
暫くすると、お義母様とマグオット様も現れ一緒に待つ。
「おはよう、ロレッタちゃん♪あら、良い顔になってるわね」
「本当だ。良く眠れたかな?」
「は、はい。おはようございます、ご心配をお掛けしました」
どうやら、お二人ともニコニコとしているので私が無理していた事はバレていたらしい。
なんて察しの良い家族なんだ。
お二人の温かい目攻撃を受けながら焦っていると、エル様がやって来た。
「おはよう、ロレッタ」
エル様は、まるで花が綻ぶように笑った。
そんな満面の笑みを自分に向けられ、ブワッと私の顔は赤く染まる。
顔面国宝級の笑みだ…。寧ろ凶器にすらなりうる。
「お、おはようございます、エル様。お仕事ご無理なさいませんよう」
何とか返事を返した自分を褒めたい。盛大に上擦ってしまったが。
「ちょっと、マギー…。思ったより薬が効いたみたいよ」
「そのようですね。俺もビックリしています」
「聞こえていますよ、二人とも。おはようございます」
私は聞こえていなかったが、お義母様とマグオット様はコソコソと何かをお話になっていてエル様が突っ込んだ。
「ふふふ。おはよう、エル。さぁさぁ、お仕事頑張って行ってらっしゃいな♪」
「兄上行ってらっしゃ~い」
「…行ってきます。今日も早く帰れると思う」
「はい、お待ちしております。お気を付けて」
エル様は少し名残惜しそうに何度か此方を見ながら出勤され、お二人はニヤニヤ笑顔で私を部屋に帰してくれた。
バタン
「……何だったのかしら、アレ」
私は真っ赤なままの頬を両手で覆うと、ズルズルと扉を背にしてへたりこんでしまった。
昨日の今日でアレだ。
妹からお気に入り位には昇格した気がする。
「(あの顔はズルい…、素敵過ぎるわ。)」
三角に折り畳んだ自らの脚を抱き締め、暫し身悶えた。
「だ、駄目だわ。発明の続きをしましょう!何かしないと考え過ぎてしまう」
私はスクッと立ち上がると机に向かう。
いつもの挨拶をして、スケッチブックを開いた。
「あら?」
ペンを取ろうと手を伸ばすと、そこに黒い丸い物体があった。
そこに置いておいた物は、この間生成したインクの塊だったのだが何やら様子がおかしい。
「これ……、乾燥しているんだわ」
私はマジマジとその塊を眺める。
この間は艶々としていた塊は少しだけ鈍く光っていた。
ヒョイっと持ち上げると違和感に気付く。
「…!」
塊を置いていた場所が黒くなっている。
驚いて元の場所に再び置き、まさかと思い手を見ると黒いインクが付いていた。
「ど、どういう原理なのかは分からないけれど…、乾燥すると成分がまた一度変わるのだわ…。
コレはもしかすると、せ、せ、せ、成功しているのでは無いのかしら…っ!」
私はその塊を紙にスっと走らせた。
するとそこには、走らせた通りの黒い線があった。




