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「さて、何処から話そうか。伝えた事は有ったか?」


「父から聞いてはいましたが、理由までは…。エル様からは初めてです」


「俺には20代前半まで婚約者がいた。同じ侯爵家同士の政略結婚だ。父が亡くなり、母を支える為に毎日忙しい日々を送っていたので、母上伝でやっと決まった婚約者だった。

仕事の合間を縫って会いに行ったり、食事をしたり、それなりに仲良くはしたと思う」


私はコクリと頷く。私も、とても優しくして頂いているのできっと彼女にも優しくしたのだろう。

少し胸が痛むが、昔の話だと自分を慰める。


「だが、彼女はある日突然姿を消した」


「えっ!」


「何処ぞの誰かと駆け落ちしたのだ。家には置き手紙が有り、俺への謝罪と本当に愛する人を見付けたのだという内容が書かれていた」


「…そんな」


「手紙には『貴方の婚約者でいる事は寂しかった』と書かれていたよ。

俺は彼女が寂しかった事も、他の者とそういう関係になってしまった事も何も分からなかった。

俺はそういう事を読み取るのが不得意なのだ。

逃げ出される程に。

ロレッタは、俺が望んで婚約者になって貰った人だ。きっと、君にされたらショックだったろうから…。

だから、ロレッタに保険を打って自分が傷つかない様にしてしまった」


「エル様…。

でも…、それはエル様が悪いのでしょうか…?

エル様は彼女に真摯に向き合っていたのに…」


「はは、どうかな。今となってはちゃんと向き合っていたかも覚えていない。元々女性には追い掛け回されたり、変な薬を飲まされたりと余り良い思い出が無いからな。

俺は優しくしたつもりだが、女性への不信感が出てしまっていたのかもしれないし、相手はどう思っていたのか分からない」


「え、エル様は!エル様は……、誰よりもお優しいです…」


「…ロレッタ」


女性に不信感を抱く程色々されたと言うのに、私は彼に冷たくされた事等無いのだ。


本当にエル様が悩む事なのだろうか。

エル様が背負う事なのだろうか。

お仕事も自分の為に頑張っている訳では無い、皆の為に頑張っているのに。

それが、もし独りよがりな物だったなら『しょうがない』って思うかもしれない。

彼女が寂しいと思う気持ちは、私も分からなくは無い。大いに分かる。

彼女のした事はそれは、それ。好きな人が出来て突っ走ってしまったのはもうどうしようも無い。恋は盲目だから。


沢山考え過ぎて、頭の中がグルグルして、まだユルユルの涙腺が再び崩壊してしまった。


私はボロボロと涙を流し、言葉を詰まらせながら言葉を続ける。


「私、本当に毎日夢を、見ている様なのです。

エル様は……、私を理解して下さる数少ない方…。そして、私を必要として下さいました。

それが、それが…どれだけ嬉しい事か…」


「…有難う、ロレッタ」


目の奥がヒリヒリとして目をギュッと瞑ると、なにか温かい物に包み込まれる。


それがエル様の胸の中だと直ぐに分かったが、ヨシヨシと子どもをあやす様に背中を撫でられると安心して、何故かもっと泣きたくなった。


私が泣く事では無いのにエル様にしがみついて、わんわん泣いた。


エル様に傷跡を残したその彼女が幸せになっているのに、エル様は自分は女性を寂しくさせるからと無意識に深い傷を負い、今迄一人で頑張っていたのだ。



「わ、わた、私がっ…私が傍にっ、居ます…!ずっと、お傍に……っ!絶対に、」


「ふふ。そうか…、傍に居てくれるのか」


エル様は何だか嬉しそうに、私を強く抱き締めた。

苦しく無い程度のそれは、エル様が本当にお優しいのだと分かるものだ。

私はどさくさに紛れて涙が止まるまでエル様を抱き締め返した。



ちゃっかりロレッタちゃん

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