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コンコン


「すみません、今日は少し体調が優れないのでお休みさせて下さい」


部屋に引き篭もり、ベッドで蹲っているとドアを叩く音がして先手を打ってそう応えた。

侍女の方には申し訳ないが、今日は何もしたくないのだ。


『…ロレッタ、俺だ。少し、話をさせてくれないか?』


「え、…エル様…?」


すると、まだ日は出ているというのにエル様の声がする。

まさか!と思い、掛布団の中に潜った。


「え、エル様!申し訳御座いません、少し体調を崩してしまって!あ、明日で宜しいですか?」


『いや、少しだけだから今話したい。すまないな、体調が悪いのに来てしまって。何もしない。だから、部屋に入る事を許してはくれないか?』


その声はとても優しく、何時もの大好きなエル様だ。

その声に私はとても弱い。


「…どうぞ」


物凄く勇気がいったが、これ以上断る元気も無いので入室を許可する。


すると、部屋にエル様が入ってくる音がした。


「此処に居るのか?…ロレッタ、顔を見せて」


エル様はそう言うと、私の頭を掛布団越しに撫でる。

スルスルと掛布団を下ろすと、ベッドに腰掛けていたエル様と目が合った。

思いの外近くにエル様が居た事に動揺を隠せない。


「ずっと泣いて…、いたのか」


エル様は悲痛な顔で私の頬に触れた。

触れられると思っていなかったのでビクッと肩を揺らしてしまったが、その手はとても温かかった。

きっとまだ目が腫れているのだろう。直ぐにバレてしまった。


「申し訳御座いません…、今は止まりました」


「いや、ロレッタが謝る必要は無い。俺が君を傷付けてしまった。

だが、俺はそういう事に疎い。その涙の訳を教えてはくれないか?」


触れていた手を下ろすと、彼は真剣な顔で私を真っ直ぐに見据える。


「…理由…」


その瞳に今の不細工な私を映して欲しくなくて、下を向いた。理由なんて言える筈無いのに。


私が黙っていると、エル様も黙って待っていてくれる。


凄く短い時間だったと思う。だが、沈黙に耐えられ無くなり、少しだけ本音を吐露する事にした。


「…前提として、ババガント様の事は私が悪いのでエル様の言われた事はごもっともですので、気にしないで下さい」


まず、私が気になっていた事を言うとエル様は深く頷いた。


「…私は、私の人生は、大きく変わりました。皆様に優しく接して頂き、私の開発した物を笑わず、それどころか商品にまでして頂きました。

エル様のお隣はとても温かくて、落ち着きます。憶測ですが、侯爵夫人としてエル様以外の方と恋愛が出来る程、私は器用では有りません。

それを…、信じて頂きたいのです」


「……そうか。俺は無意識に君を信じずにいたのか…」


「私はアンバート家へと嫁ぐ覚悟をして此処に居ます。アンバート家の皆様の事が大好きです。皆様の評判を落とす様な行いをしたくは有りません。

なので…、エル様に遊んでも良いと言われ悲しくなってしまったのです…」


「成程。…そんな理由が有ったのか。ロレッタが悲しくなってしまうのは当然だな…、本当にすまない」


「いえ…、良いのです。エル様、私を信じて下さいますか…?」


「あぁ、君の信念を信じよう。話してくれて、有難う」


「はい」


私は漸く笑顔で返事をする事が出来た。

少しだけ『エル様』という所を『アンバート家』に変えただけなのだが、それも真実だしエル様にもちゃんと伝わって良かった。


「…ロレッタ。昔話なのだが、話したい事が有る。聞いてくれるか?」


「昔話ですか?分かりました」


「俺と元婚約者の話だ」



このお話し以外に短編を作りたくて頑張っているのですが、果たして短篇になるのか…。

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