26 ※エルフィングside
完全に間違えてしまった。
ババガントとロレッタが同時に現れた時は目を疑った。
しかも、あろう事か奴はロレッタの手にキスをしたのだ。
それは、親愛のキス。好意が有るのだと、態々俺の目の前でやってくれた。
最初はワザとかと思ったが、此方を向いて鼻を鳴らす訳でも無かったので俺の婚約者だと知らないのだろう。
だが、だとしても許せなかった。
気付いたらロレッタの手をゴシゴシと拭き取り、彼女を送ると言っては愚痴愚痴ネチネチと不満を言い募ってしまった。
彼女は素直に謝り、理解し、納得してくれた。
だが、何故か余計に不安になった。
彼女が婚約者を辞めて何処か遠くへ行きたい、と言ったら?
私は前回の様に諦められるだろうか。
彼女と居ると居心地が良い。
この先、彼女の様な人物に会える保証は有るのか?
だから、好きな人が出来れば教えて欲しい事と多少遊んでも目を瞑る事を伝え、それでも妻として傍にいて欲しいと頼んだ。
婚約をしてしまったので、侯爵家の妻としては居て貰わなくてはいけない。でも、彼女の自由は極力奪いたくない。
そんな物は、俺の我儘だ。
振り返ると、彼女は音も立てずに涙を流していた。
そこで言い過ぎてしまった事に気付き謝ると、彼女は自分が悪いのだと言う。
そしてとても辛そうに笑い、俺が止める前に乗り込んで馬車の扉を固く閉ざしてしまった。
扉を破壊する訳にもいかないし、彼女に今無理矢理会って話をする事は逆効果な気がして従者に無事に連れ帰る様に頼み、離れていく馬車を見送った。
何とか内務室までは戻る事が出来たが、彼女を泣かせてしまった事が余程堪えたらしく、頭が全く働かない。
「侯爵、少し休憩なさって下さい」
すると、一人の内務官が温かいお茶を入れてくれた。
初めてそんな事をされたのでビックリしたが、彼は何故か少し震えていて、この仏頂面が悪いのだろうと思い一口飲むと礼を言った。
彼がホッと胸を撫で下ろしたので、安心していると何故か周りの皆まで俺の周りに集まってくると、色々と世話を焼いてくれた。
何だか可笑しくて、彼等が俺を励まそうとしてくれているのが伝わり温かかった。
ここの奴らは良い奴ばかりだったんだな。仕事ばかりしていたから、知らなかった。
皆のお陰で少し落ち着いたので、また仕事へと向き直る。
さぁ、早く帰ろう。
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「只今、戻りました」
内務の皆が協力してくれて、何時もより少しだけ早く帰ることが出来た。
帰ると、母上とマグオットが腕を組んで待っていた。
「ツラ貸しなさい、エル」
「そうだね、今回は母上と同意見だ」
何やら物凄い形相の二人にズリズリと引っ張られて個室に連れていかれる。
怒っているらしい。それは、そうだろうな…。
「ちょっと!折角可愛いロレッタちゃんにエルの働く姿を見て貰おうと思って行かせたのに!目を腫らして帰ってきたわよ!?どういう事!?」
普段はのほほんと穏やかな母上が怒るのも無理は無い。母上に孫のお守りに少しだけゲイルの所に行っていた帰りにアンバート家所有の鉱山の下見をお願いしていたのだが、その結果と手紙が同封されていたのだ。
『ロレッタちゃんをストレスと戦う貴方へ♪格好良い姿見て貰うのよ♪』
と、書いてあった。
申し訳ないが、その手紙と真逆の事をしてしまったのだ。
「申し訳御座いません…。彼女を傷付けてしまいました」
「理由は分かってるの?」
フーフーと鼻息を荒くする母上とは裏腹に、マグオットは落ち着いた口調で俺に問い掛ける。
「正直…、分かっているとは言えないかもしれない。だが、話をしようと思う」
「そうだね。彼女はご飯も食べずに部屋に篭っているよ」
「…そうか。分かった、行ってくる」
「うん、僕もロレッタちゃんは気に入ってるんだ。義姉になる子を泣かせないでよね」
「善処しよう」
「よし、行ってこい」
マグオットは俺の背中をバンッと叩いた。
とても痛かったが、何だか勇気を貰えたのでロレッタの部屋へと駆けて行く。
「世話が焼けるなぁ…、兄ちゃんは」
幼い頃呼んでいた様にそう言うマグオットの声が聞こえた気がしたが、恥ずかしいので聞こえない振りをした。
昨日、夜の23時にラーメンを食べました。
背徳の味。




