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23 ※オルカside


「あぁ、彼は今日も憎たらしいな」


僕の名前はオルカ=ババガント。

現宰相を父に持ち、次期宰相の名を欲しいままにする男だ。


だが、それなのに俺の前をちょこちょこと煩い奴がいる。


その名は、エルフィング=アンバート。同世代で僕の他に次期宰相候補と呼ばれる男。まぁ、何もかも僕の方が上なので目にも入らないが出来た芽は早めに潰した方が良い。

何より、奴はいけ好かない。


女性陣にキャーキャー言われて、仕事の邪魔ばかりさせる。

最近婚約者が漸く出来たようだが、未だに多くの女性を引き連れている。

だが、奴は氷の様な鉄仮面で丁寧に断っては彼女達を泣かせるのだ。奴が笑っている所なんて見た事も無い。

何が不満なんだか。けしからん。


だから、少しだけ困らせてやろうと色々しているのだが

奴は平気な顔で、何事も無かったかの様に過ごす。それが、やたらと憎たらしい。

バレてはいけないので、涼しい顔をされても歯噛みして見ているしかないのだが。


イライラとしていると、キョロキョロと挙動不審な女性がいる。


「おい、何をしている」


僕が声を掛けると、彼女は此方を向いた。


「あ、申し訳御座いません。道に迷ってしまって…」



ズッキューーーーーン!


まるで胸に矢が刺さったかの様な衝撃を受けた。

潤んだ蜂蜜色の瞳が僕を見ている。薄い桃色の髪は反射すると金の様にも見える美しい髪だ。

華奢な体躯は触れると折れてしまいそうで、色白の肌が際立つ。


なんて、愛らしいんだ。



「き、君、名前は?」


「ロレッタ=キルフェットと申します」


彼女はカーテシーをしながら答える。

ロレッタ…、名前さえも美しい。


「僕はオルカ=ババガントだ。キルフェット嬢、何処へ行きたいのだ?」


「内務の執務室へと参りたいのです、お渡しする物が有りまして…。お分かりですか?」


「なんだ!僕の城へ行きたいのだな!良かろう、連れていってやる」


「本当ですか!あぁ、ありがとうございます」


連れていくと申し出ると、彼女はパッと顔色を明るくしてとても嬉しそうに微笑んだ。


ドッと心臓が脈打つ。


なんだ、コレは。


「ババガント様も内務にお勤めなのですか?」


「そうだ!私は優秀なのでな、もう今日の分は終わってしまったのだ」


「成程!あ、ではお帰りの途中だったのですね…、それなのにご一緒に来て頂いて…」


彼女は先程の笑顔がコロッと変わり、悲しそうな顔をする。


「き、気にするな。ここは迷いやすいからなっ」


悲しい顔をされるとは思わず、ついつい焦ってしまう。


「ふふ、お優しいのですね。ありがとうございます」


僕が右往左往しているのを見て、彼女は少し安心したように微笑んだ。

僕も胸をホッと撫で下ろし、先導しながら触らずにエスコートをする。


「ははは、女性には優しく。と育てられて来ているからなっ!」


「素晴らしいです」


ニコニコと手を叩く彼女はとても可愛らしい。

彼女の様な人は社交界でも見た事が無い。

だが、とても品の良いドレスを着ているし装飾品も華美では無いが質の良い物だ。

何より、ちゃんとした淑女教育を受けている立ち振る舞いをしている。

上流貴族で有る事は間違いない。僕の勘がそう言っている。



そうこうしている内に執務室へと着いてしまった。


まだまだ話して居たい。

彼女の事をもっと知りたい。


そうだ、今度茶会にでも招こう。


そこで仲を深めて、行く行くは……。


ロレッタ=キルフェット……、家に帰ったら調べねばな。



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