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「…なんて素敵なの」


エル様を見付けた瞬間、何秒か惚けて眺めてしまった。

滴る汗さえ美しい。マグオット様が仰っていたのはこの事だったんだわ。


「は!こ、声を掛けないと、これでは変質者ね。

エル様ー!」


私はずっと眺めていたい気持ちを押し退けて、エル様に声を掛けた。


エル様はパッと此方を向くと私だと気付いた様で、ふんわりと微笑んで近付いて来てくれた。


「ロレッタか。まだ起きて……っと、失礼」


そして、少し驚いた様な顔をすると後ろを向いてしまった。


「どうかされましたか?」


「ロレッタ、異性の前でそんな無防備な格好ではいけない」


「え、あっ!失礼致しました!お見苦しい所を…」


「ははは、やはり気付いていなかったか。まだ起きていたんだな」


「はい、少し試したい事が有ったので。今は息抜きに夜風に当たろうと出てきました」


「そうだったのか」


私が自分の格好をすっかりと忘れて声を掛けてしまったのだが、紳士なエル様は後ろ向きのまま話してくれている。

薄手の寝間着に羽織だと無防備も無防備過ぎる。防御力は無いに等しい。

念の為に羽織に腕を通しておいた。


「エル様はいつもこのお時間に鍛錬を?」


「いや、偶にやる位だ。明日からまた仕事だからな、少し身体を動かしておこうと思ってな」


「そうだったのですね。では、私は良い瞬間に出てきましたね」


「何故だ?」


「エル様が剣を振るうお姿が見られました」


「そう言われると、なんだか小っ恥ずかしいな」


「ふふ。では、そろそろ中に入ります」


「あぁ、おやすみ。ロレッタ」


「おやすみなさい、エル様」


いつまでもお邪魔しては悪いと早々にお喋りを切り上げて、中に入る。

そして、そのままベッドへと飛び込んだ。


「こんな時間にまでエル様に会えるなんて、最高の日だわ」


今日はこのまま寝てしまおう。


先程のお姿を反芻しては悶える。

腕捲りをして、剣を握る手は正に男性の手だった。

一度あの腕の中に収まった事が有るのかと、あの日を思い出してしまう。


「幸せ…」


今が人生で一番実り有り、恋をして楽しい時期だと自覚している。

沢山頭を使い、疲れていたのか直ぐに意識は遠のき幸せのまま眠りについた。



*****



パッと、不思議な違和感で目が覚める。


バタバタと何やら外が騒がしい。


今は何時頃かと、外を眺めると日はいつもより高く上がっていて状況を把握するのに時間が掛かった。


「私ったら、寝過ごしてしまったわ!」


ここでは「何時に起こして下さい」と言わないと寝かしていてくれる事をすっかりと忘れていた。なんて優しい侯爵家。


エル様へのお見送りが出来ない時間帯だ。


エル様は朝早く出るので見送りは気にしなくても良いと言って下さってはいるのだが、一度も欠かした事は無かった。お仕事の時は元気にお見送りして差し上げたいのに、何たる失態。

今度からエル様がご出勤の時はそれに合わせて起こしてとお願いしよう…。


コンコン


ベッドでウジウジと反省をしていたら扉をノックする音が聞こえた。


「はい」


『ロレッタ様、ご起床でしょうか?』


「今起きたの、申し訳無いのだけれど着替えを手伝って貰えるかしら?」


『畏まりました、失礼致します』


朝は毎日、二人程の侍女が着替えを手伝ってくれる。服や、髪の手入れ等は良く分からないからお任せしている。

今日も二人の侍女が中に入ってきた。


「おはようございます、ロレッタ様。ファミーユ様がお帰りになられましてお着替えの後、来て欲しいとお呼びで御座います」


「おはようございます。あら、では急がなくては!本日も、宜しくお願いします」


「宜しくお願い致します」


お義母様はここ何日か家を空けていた。お帰りのご挨拶も出来ていないとは、嫁ぐ身としては大失態である。

そのお義母様がお呼びとの事で、テキパキと身支度を終えて急いでお義母様が待つ部屋まで向かった。


コンコン


『入って~』


「失礼致します。おはようございますお義母様、お出迎えも出来ず申し訳御座いませんでした」


「あら、ロレッタちゃん。いらっしゃい♪

良いのよ~!帰って来たのは真夜中だったから、静かに部屋に戻ったの。だから気にしないでね。

そうそう!早速なのだけれど、コレをエルに届けて欲しいの♪」


そう言ってお義母様は私に茶色い封筒を手渡した。



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