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実りの有る一日だった。
あの後、エル様とお昼ご飯の時間まで色々とお話しをした。
まず、【閃光玉】は殿下の奥様に献上をして箔をつけ貴族間で売り出し、行く行くは魔法が余り盛んでは無い民衆も使える様になれば女性や子どもが狙われる犯罪も減るかもしれない。
勿論悪用する輩が出てくるかもしれないが、それはネズミのしっぽ取り合戦になってしまうので一先ず置いておいた。
価格帯等はエル様が考えて教えてくれるらしい。
そして、収益が私に入る様になれば良いと言って下さった。
何に使うかは後できちんと考えようと思う。
【ほっぷすてっぷじゃんぷ靴】改め【飛び跳ね高速靴】に関してはファミーユ様限定にしておいた方が良いとの結論になったが、ファミーユ様がいつの間にやら広めてくれたお陰で殿下もご存知だったので、広告塔として今後も色々広めて貰えたらとお願いする事にした。
完成品が作れたら、の話だが。
トントン拍子に話が進むので、ついて行くのにやっとだ。
だけど、とても嬉しい。
自分の発明が、人の役に立つ日が来るのは目の前だ。
後は寝るだけだが、忘れない様にとスケッチブックに今日思い付いた事を書き出しておく。
そしてお爺様の秘伝書を捲り、自分の予想と照らし合わせる。
「これこれ、【シャープペンシル】」
私は【シャープペンシル】と書かれた所を読み直す。
「これの芯の部分がインクだったら…、きっと今の世でも受け入れられる筈…」
シャープペンシルは【芯】をペンの中に入れ、それを少し押し出すと文字が書ける物だ。
シャープペンシルの芯はインクではないが、私は【ボールペン】と【シャープペンシル】の間の子の様な物が作れればな、と考えている。
「インクを固めて【芯】にすれば出来るかもしれない」
そうと決まれば、とインクを取り出す。
「私の魔力でどれだけ出来るか分からないけれど…、やってみよう!」
火魔法だと煮る形になってしまうので、土魔法が妥当だろう。
紙の上に少しだけインクを垂らす。
インクの中に有るであろう、鉱物に向かって質を変え固まる様にと念じて魔力を与えていく。
すると、意外にもちゃんと固める事が出来た。
「出来た!あぁ……、でも細くするのを忘れてしまっていたわ」
そこには、丸い小さなコロンとした艶々のインクの塊が出来ていた。
固める事は出来たので、とりあえずそれだけで書けるのか試そうと手に持った。
ブニュ
「うひゃ!!」
驚いて変な声を出してしまったが、インクの塊はブニョブニョと柔らかくそれだけで文字は書けそうに無い。
固まった事は固まったのだが、固まり方が思っていたのと違う。
「はぁ…、最初からそう上手くはいかないわよね」
紙の上でコロコロと転がしてみたのだが、転がるだけでインクとしての役割は果たせていない。
手触りは物凄く良いのだが、残念だ。
やはり、土魔法では限界が有るのか。
鉱物の方ではなく、水分の方に働きかけないといけないのかもしれない。水魔法が使える人が羨ましい。
「少し、夜風に当たろうかな」
まだ、始まったばかりだが少しだけ気分転換しようと薄手の羽織を肩に掛けてバルコニーへ出た。
バルコニーが有る事は知っていたのだが、出た事は無かったので初めての試みだ。
「わぁ…、とっても素敵」
バルコニーを出ると侯爵邸自慢の庭園を一望する事が出来た。
花々の匂いが此方にまで届き何とも瑞々しい気持ちになれる。
胸いっぱいに空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出すと空を見上げた。
「私が知らない事は沢山有る、進むだけだわ」
よし、頑張ろう。と気分を切り替えると下の方からブォン、ブォンと風を切る音が聞こえた。
「?」
不思議に思い覗いてみると、汗が夜の月明かりに照らされ剣を振るうエル様が居た。
読んで頂きありがとうございます。
少し書き貯めしたかったので一日お休みしました。
実はもう一つ物語を制作中です。それも近々公開出来たらな、と思っています。




