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「失礼致します」
「おはよう、昨日はお疲れ様。よく眠れたか?」
「はい、お陰様で。エル様は良く眠れましたか?」
「あぁ、久しぶりにスッと眠れた。今日は面白い物が届いたんだ、ロレッタに見せたくて朝から呼び出してすまない」
「いえ!そのような事でしたら私も朝は遅い方では無いと思うので、いつでも呼んで下さい」
「ありがとう、駄目な時は気にせず断わってくれ」
「はい、そうしますね」
私は朝からエル様と会えるだけでルンルンなのだが、エル様はお優しいので気を使って下さいます。
私に見せたい物だなんて、多少無理をしても見るに決まっている。
すると、エル様は侍女にお皿の上に木で出来た掌サイズの四角く細長い箱状の物を二つと何も入っていないスープカップを持って来させた。
「此方は何ですか?」
「俺も初めて見る。異世界の食べ物を再現した物らしい。ゲイルが説明書付きで送って来たんだ」
「まぁ!それは楽しみです!」
「【心太】というらしい」
「ところてん?可愛らしいお名前なんですね」
エル様は付属されていた棒に小さな板が付いた物で箱にセットをすると、丁度箱より一回り小さいので中に入る様になっている。それを、ググッと押した。
すると、逆側は穴が空いていて中からニュルニュルと半透明の麺が出てきた。それをスープカップへと入れる。
「わわわ!!!何か出て来ました!!」
「はは、面白い。ロレッタもやってみると良い」
「はい!」
私は元気良く返事をすると、エル様から箱を頂く。
優しく、ゆっくりと押し出す。
ニュル、ニュル
「ん~!何だかこの出す瞬間が癖になりそうですね…」
箱から中身を押し出す、という一瞬の何とも言えない楽しさにキラキラとした半透明の麺を眺めては思い出し、悦に浸る。
こんなに楽しい事が世の中に有るだなんて、異世界恐るべし。
「そうだな、一度で終わってしまうのは何だか寂しい気もする。
これ自体に余り味はしないらしい。上には何かをかけろと書いてあった。お勧めの砂糖を少し温め溶かした物を用意した」
「味がしないならどんな味にもなれますね。とても興味深いです」
ワクワクとしていると、侍女がそこへ砂糖で作ったシロップをかける。
「お味が無いとの事でしたので、少しだけレモンも加えてあるそうです」
「そうか、ありがとう」
「ありがとうございます」
侍女から説明を受けると、まだ少し温かいそれを二人で一口食べる。
「ツルリとしていて、とても爽やかですね」
「あぁ。面白い食感だ、美味いな」
「はい、とても!」
まだお昼ご飯を食べていないというのに、これならいくら食べても大丈夫そうだ。
甘いシロップの中にレモンの爽やかさがとても際立っていて、美味しい。
「ゲイルの妻が妊娠中に悪阻で殆ど何も口を通らなかったのだが、コレが食べたいと強請られ頑張って作ったんだそうだ。本当は【酢醤油】という物をかけて食べたかったようなのだが、此方には無いものだからそれは諦め、甘くするのは彼女の住んでいた所とは違う地方で食べられている物らしい。
先日、やっと満点を貰えたと言って嬉しそうな内容と『婚約者と食べてくれ』という手紙も添えられていたんでな。
ロレッタも嬉しそうで何よりだ」
「とても嬉しいです、少しだけ異世界に行けた様な気がして。
どうやって出来ているのでしょう…、お水が固まっているのかしら…」
「コレは海藻を茹でて煮溶かして、冷やし固めた物らしいぞ」
「海藻!海藻からこんな物が……」
まさか【海藻】だったとは。私はもう一度ところてんをジッと眺める。
「固まる…、固める……あっ!!!」




