15
「入れ」
扉を開けて中に入り、最敬礼カーテシーをする。
「初めまして。名は?」
「お初にお目に掛かります。キルフェット伯爵が娘、ロレッタと申します」
「素敵な名だ。頭を上げて、座って。エルフィングも」
「失礼致します。お待たせ致しました」
「ふふ、そんなに待っていないけれど。エルフィングの婚約者ちゃんを見たかったからね、凄く長い時間が経った気がするよ」
「気がするだけです」
「はははっ、それもそうだ!」
ポカン、と眺めてしまったが二人はとても仲が良い様だ。
顔を上げ見た王太子様は、先程のもっさり人間では無く、私にも分かる位の美青年がそこに居た。神に丁寧に造られたのだろう。
お母様から聞いてはいたが、実物は物凄い。予想を遥かに超えて来た。流石は王族。
「まだ名乗って居なかったね。レイヴン=アル=カダールだ。未来の宰相夫人であるロレッタ嬢とは今後も付き合いが有ると思う。宜しくね」
「こ、こちらこそ宜しくお願い致します」
「…まだ宰相には任命されていませんが」
「ははっ、ほぼほぼ決定の様なものだよ」
そうだった、ここに居るのは未来の王と宰相なのだ。王と側近、この様に話せて当然だ。少し、羨ましい。
「そうか、そうか。君がエルフィングを射止めたお嬢さんなんだね。とても可愛らしい子ではないか、エルフィングも隅に置けないね。…ウチの奥さんのタイプど真ん中な所がまたなんとも…」
「そ、そんな…恐縮です」
流石王族、お世辞もお上手である。最後の方は聞こえなかったのだが、聞き直す勇気は無い。
「そういえば、君も発明を嗜むと聞いている。君のお爺様にこの国は本当にお世話になっているから期待しているよ」
「はい。今はまだ、お見せ出来る様な物は有りませんが、いつかお爺様の様に凄い発明が出来たらと思っております」
「そうか、見せてはくれないのか。残念だ」
「殿下、余りロレッタを困らせ無いで下さい」
「ちょっとエルフィング、さっきは名前で呼んでくれたのに~。この間アンバート前侯爵夫人が面白い靴を履いて居ると話題になっていたんで、楽しみにしていたんだがなぁ」
「先程は扉の向こう側で誰に聞かれて居るか分からなかったので。そして…、あちらは母上だから履ける物です」
「確かにレイヴンって名前は私の影響で多いけれども。え~、見たかったなー」
「えっと、い、今持って居るのは…護身用の『閃光玉』位しか無いですね…」
「え、何、何?閃光玉??」
何だか言い合いになりかけたので、本当は王族の方に見せるような物では無いのだが、服の隠しポケットの中から小さなボールを取り出した。
「此方を床に叩き付けますと、ピカッと光り一瞬だけ目の機能を低下させる物です。ですが、あっ!」
「ふーん、えいっ!」
手のひらに乗せて説明をしていると、レイヴン様がひょいと持ち上げ床に叩き付けた。
ピカッ!!!!
その瞬間、部屋が真っ白になる位の閃光が起きた。
「ぐぁ!!」
皆して直でそれを見てしまい、全員が膝から崩れ落ちる。
「殿下!!」
「いや、すまない。面白そうだったから、つい。これは凄いね…」
「も、申し訳御座いません!!物凄く光るのでご使用にはならない方が宜しいです、と言うつもりでした…」
「わぁ~、目がチカチカして本当に暫く元に戻らないね」
「『わぁ~』では有りません!ご自分の立場を考えて行動して下さい!」
「ごめん、ごめん。まさかこんなに光るとは思わなくて。ロレッタ嬢の話をちゃんと聞く前にやってしまったよ」
暫くして、皆何とか見える様になって来た目をシパシパとさせながら元の席に座った。
「言葉足らずで、申し訳御座いません。此方物凄い光量の為、使用する際は目を瞑って使用しなくてはいけないのです…元は簡易用ライトのつもりだったのですが光量が強すぎて作り直し、護身用にした物ですので…」
「いやいや、ロレッタ嬢は悪く無いよ。そうだったのか……。
これ、何個か貰えないかな?」
「え?」




