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『マンガ』といえば今、この国で大流行している絵物語だ。

リラ、とはまさかの『マンガの神様』の事では無いのか。


「あ、貴方様が…、あのマンガの神様…」


「『マンガの神様』ってのは恐れ多過ぎるねんけど、気軽にリラちゃんって呼んでな♪」


「リラ、ちゃん」


「おいおい、リラ。ロレッタは君のような人種に初めて会うんだ。少し手加減してくれ」


「あ、そっか。ロレッタちゃんは未来の侯爵夫人やから認識阻害掛かって無いんか。それは、びっくりするわな」


「す、すみません……!初めて聞く訛りなもので、びっくりしてしまって…」


「異世界の地方訛りらしいわ。初めて聞いた時は私も驚いたものよ」


「とても興味深いです。色々お話聞かせて下さい」


「もちろん♪」


「まだ、挨拶が終わっていないから今度家族を皆呼ぼうか。子どもが産まれたばかりだから今日は来ないが、ゲイルの妻は落ち人だ、二人の話は面白いぞ」


「えぇ!それは、是非!」


身近に転生者や落ち人様が居るとはお聞きしていたが、本当に近しい人だったようで驚きと感動で先程までの鬱々とした気分が消し飛んだ。お爺様から聞いた異世界の話もとても面白かったので、つい顔がゆるゆるになってしまうのを扇子で上手く隠しながらお二人とは一度別れた。


その後も何人かとご挨拶をして、ようやく挨拶は落ち着いてきた頃だ。


「エルフィング~っ」


少し髪型がもっさりした眼鏡の男性がポンッとエル様の肩を叩いた。


「………なっ!す、すまない、ロレッタ。急用が出来た。直ぐに戻って来るから、少し水分補給でもして待っていてくれ」


エル様はいつもより少し早口で言葉を並べると、肩を叩いた彼を連れて何処かへ消えてしまった。とても慌てていた。彼のあんな姿を見るのは初めてだ。

私はまたまた予想外の展開について行けずにその背中だけを見つめた。


「(あの方を私に会わせたく無かったのかしら?)」


あんなに急いでいたのだ。秘密事なのであろうが、聞いたら教えて下さるだろうか。


「(いいえ、駄目だわ。私はエル様を癒す為だけ

の、謂わばお飾りの妻になるのよ。自分の役割を逸脱してはいけないわ)」


フルフルと首を振り邪念を飛ばす。

寂しい、等は思ってはいけない。まだまだ貴族間では愛の無い結婚が多い中、私はエル様を好きになる事が出来た。それだけで十分では無いか。

深呼吸して落ち着きを取り戻す。

エル様は直ぐに帰る、と仰られたから私は待つだけだ。


「ちょっと、貴女」


思考の海に潜っていると唐突に後ろから声を掛けられた。


「はい」


くるりと後ろを振り向くと、そこには先程思いっ切り敵意を剥き出しにして来た女の子が立っていた。

ゾクリと嫌な予感はしたが、話さない訳にもいかない。


「あら、チェリー様」


「…良く覚えているのね。ねぇ、貴女どうやって侯爵家に取り入ったの?」


「取り入る?」


「そうでしょう?だって私、貴女の事今日初めて見たわ。お金に物を言わせたのでしょう?新興貴族の分際で調子に乗るんじゃ無くってよ」


「…彼はとても素敵なお方ですわ。お金で動く様な方でも御座いません。……愛ゆえに、ですわ」


「は?」


とても、とても恥ずかしい。平然とニコニコしているように相手からは見えている筈だが、扇子でほぼほぼ隠れている顔は真っ赤だ。

もし突っかかられたらこう応えなさい、とラン先生から言われていたのだが自分へのダメージが凄い。

ほら、彼女だってポカンとしてしまっている。



「ななななな!!なんですって!!貴女があのアンバート侯爵様を落とせるだなんて!あの難攻不落の侯爵様よ!?信じられない!」



『推しとの同棲始めました!?』を見て頂けるともう少し面白いかもです((コソッ))

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