ハニーブルクの喫茶店 If もしも主人公の性別が違ったら
魔法が存在し、人を襲う魔物が存在する異世界、マルクト。
この世界に私が呼ばれたのは、確か十五歳の頃だったかな。
私を呼んだのは、後で聞いた話では召喚魔法の実験であって、狙って召喚したわけではないらしかった。
ちなみに、召喚したのはよくラノベで見るような美少女ではなく、初老の男性だった。
最初は『どうして男!しかも初老なんだよ!?どうせならもっとこう、老魔術師!って感じの用意しろよ!?』と怒涛の勢いで嘆いたけど、場所が変われば言葉も違う。
……え、嘆くところが違う?
いやいや、そんな筈は。
そんなはずは無い。
無いったら無い。
無いです。
無い無い。
それはともかく、きっと彼は私の言葉など文字通り理解していなかったのだろうね。
雰囲気的に、混乱している美少女(←ここ大事)を労ってやる程度の対応で接してくれた。
正直、最初は襲われて押し倒されるかも!
とか考えてたけど、そんなことはなかった。
彼はめちゃくちゃ紳士的だった。
もうね、怖いくらい紳士的なの。
一瞬、自分が令嬢になって、一人の完璧な執事がついたのかと思ったくらい。
そして同時に、彼はとても優しかったんだ。
時にはキツく叱ることもあったけど、それは基本が優しすぎたせいだ。
起こった時はひたすら怖い。
こう、怒鳴る感じじゃなくて、無言の圧力っていうの?
こう、起こってるのがすっごいわかりやすく伝わってくるの。
静かに。
めっちゃ静かに。
一回、大事にしてる食器割っちゃった事があるんだけど、あの時は怖かった。
二度と怒らせないようにと誓ったくらいだもの。
……まぁ、そのあとその食器は魔法で修理されたんだけどね。
修理された後で、なんか小難しい哲学の話を聞かされたの覚えてる。
あれはもう、頭が割れるかと思ったよ。
そうそう。
私がこの世界の言葉がわかるようになってきたくらいの時から、彼は魔法とか剣術、錬金術、魔導工学、数秘術、ルーン魔術などなどといった、幾つもの知識を授けてくれたんだ。
これがちょー難しかったんだけど、思春期の只中で厨二病を患い気味だった私だったからかな。
難しい勉強でも楽しかったよ。
今思えば、異世界召喚とか魔法や錬金術の授業はとても興奮する良い思い出だった。
数秘術とルーン魔術は……まぁ、特に苦手だったけれど。
それでも私は、彼を師匠と慕いながら、約十年もの間研鑽を積んだ。
楽しかったなぁ、あれは。
特にゴーレム作りは一番楽しかった。
もうね、あれだよ。
ゴーレムっていうのはロマンの塊なんだよ、一言で言うとさ!
どんな形のゴーレムにするかとか、どんな性能を持たせるかとか、一晩中師匠と語り明かしたことがあったね。
そりゃあもう前の世界の知識フル活用で。
それから全ての授業を終える頃、師匠は最後の魔術実験として転生魔法を使った。
……んだけど、案の定って言うのかな。
どうやら失敗したらしくって、師匠の体は塵となって消えていってしまった。
悲しかった。
前にも後にも、あれほど悲しかった思い出は体験したことがなかった。
十年もの間ずっと共に暮らしてきた相手なんだよ。
実験の失敗で死んでしまったのは、とても言葉に言い表せないくらい悲しかった。
多分だけど、私一週間くらいはずっと泣きっぱなしだったと思う。
ここで解説すると、転生魔法っていうのは、師匠が言うには『成功すれば肉体が若返り、別人の姿へと変わってしまう』という魔法だそうだ。
前の世界でいうベニクラゲに似てるね。
ベニクラゲっていうのはクラゲの一種で、不老不死で有名なんだけど、知ってるかな。
あれ、実は一定の年齢まで生きると、幼体の姿まで若返って、再び大人になるというのを永遠に繰り返すんだよ。
だから結果として寿命という概念を持たないんだってさ。
まぁ、流石に食べられちゃったりとかしたら死ぬんだけどね。
で、転生魔法っていうのはそれと似たようなことを魔法で起こすもの……って聞いてたんだけど、いやぁ、まさか体が塵になるなんて聞いていなかったよ。
私もその頃になると、もう魂の有無くらいなら見ればわかるくらいには成長してたから、結果を一目見て師匠が死んでしまったことくらいは理解できてしまっていた。
……いや、きっと分からなくても、師匠がこの世界からいなくなってしまったってことくらいは、直感的にでもわかったんだろうなぁ。
師匠が死んで、泣き止んで、それから遺書を見つけた。
おそらくだけど、失敗することを見越して書いていたんだろうね。
読んでみると、そこには『好きに生きろ』と、短く、ただそれだけが書かれてた。
その日から見て十年前。
私はあの世界で鬱屈とした人生を送っていた。
何をしても楽しくなかったし、トモダチとかいう集団の中にいても一人だった……ような気がする。
大袈裟に言えば、生まれる世界を間違えたような気すらしていた。
だけど、師匠に出会って世界が変わった。
そんな大好きな師匠からの最後の言葉が、『好きに生きろ』……だってさ。
もっと、もっと長く書いて欲しかったなぁ。
もうちょっとでも長く、師匠の言葉の重さを感じていたかった。
けどそれは、あっさりと潰えちゃった。
だから、私はその日から一年をかけてさらに修行することにした。
だって好きに生きろと言われたし。
その結果、私は転生魔法の欠点を見つける事に成功した。
これを発見した時は流石に、『やべぇ、私師匠超えちゃったかも!?』って小躍りしちゃったね。
ちょっとだけその後で泣いちゃったけど。
で、今度はそれを応用して、体の成長を操作する魔法も覚えた。
それから、私は旅に出ることにした。
師匠と暮らしていたのはとある辺境の森の中だったから、外に出てもっと広いことを知ろうと思ったんだ。
師匠が生きてきた世界を、自分のこの目でも見てみたいと思ったからね。
そうやって過ごして月日が流れ、二年が過ぎた。
「マスター、いつものを頼みます(キリッ」
「ご注文ありがとうございます」
カランコロン、とドアベルの鳴る音と共に、一人のローブを着た小柄な少年が店に入ってくる。
まだ開店して二ヶ月だというのに『いつもの』と常連気取りに話しかけてくるのは、この街を拠点にしている少年冒険者。
冒険者っていうのは、冒険者ギルドっていうでっかい組織的な国家に所属して、国を含むありとあらゆる人々や組織から依頼を受け、世界を股にかけてそれを遂行する人たちのことね。
多くはダンジョン、もしくは迷宮とか呼ばれる魔物の巣窟に潜って、様々な資材を採取してきたり、魔物を狩ったりして収入を得ている。
そしてこの街には、そんな迷宮が近くに数多く存在し、お陰で迷宮都市なんて呼ばれたりして、常に多くの人たちの代理で賑わっているのである。
「おまちどう、コーヒーとチョコドームパフェです。
チョコのドームに熱々のコーヒーを注いでお食べください」
「ありがとうございますっ!
ふふん、この時を待ってました!
これがないと、やはり冒険者は務まりません!」
彼はカウンター席のテーブルに出された湯気を上げるカップとスイーツを見て、目をキラキラと輝かせる。
なんということもない、ただのコーヒーと卵形のチョコ菓子である。
冒険者──常連のコハクという名前の彼は、その湯気の立つコーヒーを、チョコ菓子の乗る皿の上にかけた。
するとその熱によってチョコレートが溶け、中からアイスクリームが姿を表してきたのである。
「この感じがたまらないです」
「いつもありがとうございます」
……まぁ、つまりだ。
──師匠と暮らした森を離れて二年。
私、間藤朱里は、ここ『迷宮都市ハニーブルク』にて、喫茶店のマスターをしていたというわけである。
「ところでマスターさん。
今日も、特別レッスン受けさせてくれるんですよね?」
──というのは、実は表向きの話だったりする。
「えぇ、勿論。
でもまだ時間がありますし、ゆっくりしていってくださいね」
笑顔を浮かべて、スイーツタイムを促す。
コハクはそれを受けて『では』とスプーンを手に取り、アイスクリームを掬って口に運んだ。
「ん〜!
やっぱり美味しいです、アイスクリーム!
甘くてふわふわで冷たくて、だけどこの甘すぎるアイスがコーヒーの苦味と絡まる事で抑制されて、ちょうどいい塩梅に調整されて……!
ふぁあ……幸せです……!」
幸せそうに頬張る少年の様子を見て、私も嬉しくなる。
薄い琥珀色寄りのさらさらの銀髪。
大きい琥珀色の瞳。
まるで精巧に作られたビスクドールのような、冒険者にしては異様に整った容姿は、この店が売っている美容ポーションの効果の現れなのだろう。
男の娘冒険者、コハク。
ちっちゃくて可愛らしい容姿から、密かに冒険者たちの間で人気を集めている魔法使い。
彼もそれを自覚しているからか、容姿の手入れにいとまが無い。
女子として、ちょっと負けた気分さえあるけど……ってそうじゃなくて。
閑話休題、実はこの喫茶店というのは表向きの存在なのですということを言いたかったのだ。
というのも実際はこのお店、師匠から学んだこの知識とか、その技術を活かして大量に生み出された魔法道具を売ったり継承したりする魔法道具店兼魔法塾──というのが本来の目的なのである。
……どうして裏でなのかというと、まぁ簡単に説明すると、師匠から教えてもらった魔法の技術というのが、どうもチートすぎるからだ。
この二年間、世界を巡って来てみて分かった事だ。
師匠の魔法は、この世界の魔法技術を一世紀は切り離して進んでいる。
まさにウサギとカメ。
けど、師匠から教えてもらったこの知識を、私の頭の中だけに死蔵させておくのはもったいない。
というわけで考えたのが、信用できる人物にのみ、この知識や道具を売ったり継承したりする、という事。
店主である私と自由に会話できる距離感で美味しいものを食べられるお店。
これなら、きっと相手の本性も素性もわかるだろうし、信頼できる相手を見分けることもできるだろうと考えたのだ。
どう?
すごいっしょ?
ちなみに。
この街にこの店──喫茶店『蜂蜜の砦』を建てた理由は、ここが世界随一の迷宮都市で、手に入りにくい品が手に入りやすかったりとかも含まれてたりするんだけど、まあ一番は私が冒険者としてSランクに認められた半年前から、ここをずっと拠点にして活動していてやりやすかったという事が大きい。
喫茶店にした理由も、世界を回って各地の食文化を見てきて、それなりに腕を磨いて料理も得意になってきたからというのも関連していたりする。
決して私が食い意地張ってるからとかじゃあ無い。
……違うよ?
違うってば。マジで。
まあ何が言いたいかって、私がここで喫茶店を開くのは、偶然ではなく必然だったって話なのだ。
余談終わり。
しゅーりょー。
閉店ガラガラ……あ、まだお店は閉めないよ?
「そういえば、今日はもうお仕事は終わりなんですか?」
レッスンの事を聞いてきた事を思い出して、コハクに話しかける。
「あ、はい。
今日はもうお開きですね。
そうそう、今日は《遺跡》に行ってきたんですけど、そこでちょっと変なものを拾いまして」
「変なもの……また拾い食いですか?」
コハク宛のレシートを書いたりなんかしながら、相槌を返す。
コハクは食に関しては凄い執心だからね。
もしかしたら落ちてた高級食材でも拾ったんだろう。
迷宮での事ならありうるね。
……迷宮は本当に、なんでもありの場所だ。
毎回入るたびに地形が変わるし、お陰でそこから得られる資材は尽きる事がない。
師匠と修行してた日は、よく迷宮に篭って錬金術やらで使う素材を集めたりしたものだ。
そんな事を思いながらのセリフだったんだけど、彼は『心外です!』と言わんばかりに頬を膨らませて抗議の声を上げた。
「いくら僕が食い意地張ってるからからって、そんなことするはずないじゃないですか」
「食い意地張ってるなら、珍味の一つや二つは拾って食べるのでは?」
「そんなはしたないことしませんっ!」
ちょっと強めに怒鳴って、コーヒーをグッと煽る。
カップが小さいからか、直ぐに空になる。
「……おかわりは?」
ポットを掲げながら、ニコリと微笑みかける。
「……同じので」
口籠もりながら、少しだけ視線を外して恥ずかしそうにカップを肩らへと渡してくる。
……かわいい。
今ちょっときゅんときた。
やばい、これが恋心ってやつなのか?(冗談)
馬鹿なことを考えながらも、レシートの『Aコーヒー(黒』の横にチェックを一つ付け足して、同じものを入れる。
この『蜂蜜の砦』で出されるコーヒーにはいくつかのブレンドがある。
そのブレンドはお客さんが指定することもできるが、こちらであらかじめセットしておいたパターンのブレンドを提供する事もできる。
このAっていうのはそのブランドの種類に割り振ってる出席番号みたいなものだね。
ちなみにコハクが飲んでいるのは、そのいくつかあるパターンのうち、最も香りを重視した配合で用意されているのだが、それはまた別の話。
新しいカップに挽きたてのコーヒーを注ぐ。
見た目は子どもっぽいのに、案外舌は大人なんだよね。
初めてブラックでって言われた時は、ちょっと大人ぶってるのかって思っちゃったけど、そういうことでも無いようだ。
「どうぞ」
ソーサーに乗せて、テーブルに置く。
すると彼はそれを両手で包み込むようにして持って、小さくクイッと傾げて一口含んだ。
口の中で転がして、少しだけ顔を綻ばさせると、ゆっくりと落ち着いて飲み込んで──ちっ、いちいち仕草がかわいいな、こいつめ!──再び口を開いた。
「それで、拾ったのがこれなんですけど」
肩から提げていたベージュのレザーバッグから取り出して見せたのは、やや艶のある縦に長い黒い石。
一見なんの変哲もない石のように見えるけど……これは……ふむふむ。
「何かわかりますか?」
「調べてみないことにはわかりませんが、おそらく魔石の一種でしょう。
鑑定して欲しいのでしたら、承りますが」
少しだけ掌の上で転がして観察しながら返答する。
「じゃあ、お願いします」
「わかりました。
では、それも勘定に入れておきますね」
レシートに『魔石の鑑定』と書き足して、石をカウンターの奥へと持っていく。
──と、その時だった。
カランコロン、とドアベルの鳴る音がして、喫茶店の扉が開いた。
「たっだいまーっ、ししょーっ!
あ、コハクさんっ!いらっしゃーい!」
元気な声を上げて入ってきたのは、背の低い赤い髪の女の子だった。
髪と同じ色の、やや吊り目気味な赤い瞳。
黒を基調とした、この近くにあるハニーブルク冒険者育成学校の制服のセーラーワンピに、背中には学校指定のリュックと手提げカバンが握られている。
「あ、はい、どうも」
彼女のハイテンションな挨拶に、少し戸惑い気味な笑顔を浮かべるコハク。
しかしその顔は嫌そうというわけではなく、単にテンションについていけなくてオロオロしているという感じである。
もし彼がこの少女のことを苦手としていたなら、彼女も積極的には関わろうとはしないだろう。
なにより懐かれているのがその証だ。
(この子、人の好悪には敏感だからなぁ)
「おかえり、フィネ。
手を洗って着替えたら手伝ってちょうだい」
「はーい、りょーかーいっ!」
指示を出せば、カウンター横の通路を奥に突っ切って、いそいそと部屋へ戻っていく。
まるで嵐のような娘だ。
この店は小さいけれど、忙しくなる時期が一日に三回ある。
一つは早朝、冒険者たちがギルドで依頼を勝ち取ってきた後のモーニングタイム。
そして二つ目はお昼時、街の住人たちがランチに来る時間帯。
そして最後が、冒険者育成学校から大勢の生徒が下校し始め、放課後のおやつにやってくるこの時間帯だ。
ここは立地的に、学校とギルドからそこそこ近いところにある。
また学校が近いということはつまり民家も近くにあるということで、喫茶店を開くには十分な立地だ。
だから入店率もそこそこ高くって、席数が十五しかないここでは、それらを裁く回転率が非常に大切なんだ。
というわけで先月末から始めたのが、テイクアウトシステム。
最初のうちはまだそこまで人もこないだろうから、広告と看板を出して、一日に一人来てくれれば御の字だろうと考えてた。
……んだけど、予想は大きく外れた。
店内の清潔でアンティークな雰囲気や、さっきコハクにも出した、前の世界でも人気になっていたビックリ箱的な仕掛けお菓子の見た目などが評判になって、口コミ伝いに集客率が上昇。
開店一ヶ月を迎える頃には、足りなくなってきていた。
そこでテイクアウト用に小さめのラスクやクッキーなんかを用意して売ることにしたんだけど、いかんせん、当時店員は私一人。
先に挙げた三つの時間帯のうちで、ランチタイムと下校時間の回転率は最悪だった。
そこで雇ったのが、先ほど帰ってきたフィネという少女である。
「おまたせっ、ししょー!
どう?今日もかわいい?」
焦げ茶色を基調とし、襟元にベージュの二本のラインが引かれたエプロンを着用し、頭には白い頭巾をかぶって髪の毛が落ちないようにしている。
かく言う私も似たような格好だ。
長い髪は編み込みにして纏めて、頭巾の中に押し込んでる。
「うん、バッチリだ。
かわいいからさっさと準備しな」
「はーい!」
元気よく手をあげて、陳列棚の準備をする。
中に用意しておくのは、数種類のクッキー、ラスク、マシュマロ、クレープ。
全て昼の人が少ない時間帯に私が作って、専用の冷凍庫に入れておいたものだ。
冷凍庫、といっても、普通の冷凍庫ではない。
魔法によって内部の時間を止めることで、常に出来立てを維持することができる特殊な魔法の冷凍庫である。
実は結構自信作。
「元気ですね、フィネちゃん。
雇ってもう一ヶ月でしたっけ」
チビチビとコーヒーを味わっていたコハクが、メニューに顔を半分隠しながらこちらを見やる。
「ええ。
だいぶ手慣れてきたみたいで良かったです。
最初の頃はここの道具に驚きっぱなしでしたが、子供の成長というのは、本当に早いものですね」
「あはは。
まあ、元とはいえSランクの冒険者が経営する喫茶店ですからね。
僕も、初めて来たときは驚きましたよ。
だって新聞でしか見たことない人がこんなところで喫茶店のマスターなんてしてるんですもの」
笑いながら、今度はパンケーキを注文する。
それを受けて、私はフライパンを温め始める。
「いやあ。
ここを開く資金を集めるためにしてただけなんですけどね、冒険者。
世の中、何が起こるか分からないものですよ。
さっき依頼してくださった石だって、もしかしたらすごいお宝になるかもしれませんし?」
冷凍庫から作り置きの生地を持ち出してきて、十分に熱されたフライパンに高い位置から垂らす。
「トッピングはどうなさいますか?」
コハクの方に視線を送りながら尋ねる。
ここ『蜂蜜の砦』では、パンケーキにいくつかのトッピングを自由に指示することができる。
生クリーム、チョコレート、アイスクリーム、コーヒー、バター、マシュマロ、クランベリー、などなど、お客の好きなものを自分好みに配置できるのだ。
その代わり、料金は基本料+トッピングする種類の数という計算になって、トッピングを豪華にすればするほどお金がかかるんだけどね。
「では、アイスクリームとクランベリー、チョコレートはブラックでお願いします」
「承りました」
フライパンで生地を焼く間に、トッピングの材料を準備した。