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クリア後の物語〜負けヒロインたちのその後〜  作者: 元田 幸介
来宮青海
6/49

始まりと同時に終わりを告げる

 あの日はひどく暑かった気がする。


 高一になって初めての夏休み……直前の終業式。敦は一学期最後の図書委員としての仕事を、青海とこなしていた。

 明日から夏休みということもあってから、この日は本の貸出に来る生徒がいつもよりも多かった。

「人気の本はあらかた貸し出されたな」

 閉室まであと十分。図書室にほとんど人がいなくなったところで、敦は何気なく青海に話しかけた。

「……え? あ、あ、はい……! そうです……ね!」

 青海は読もうとしていた本から顔を上げ、慌てて答えた。敦は青海の読書の邪魔をしてしまったことをかなり後悔した。

「……来宮は、夏休みの予定とかあるのか?」

 だが今さら立ち止まるわけにもいかない。敦は三日前からずっと考えてきた「計画」を切り出しにかかった。

「あ……図書館ばかり行くと思います……!」

 青海は背筋をピンと張り答える。予想通りの答えだった。

「そっか。……あのさ、良かったらさ……」

 動悸が激しい。鏡を見れば真っ赤な顔が映っていることだろう。それでも敦は歯を食いしばり、今までの人生で一番の勇気を振り絞ろうとした。


「おっ、やったな風太郎! まだやってるぜ」


 しかし、それはできなかった。大きな声とともに、新たに二人の生徒が入ってきた。二人とも見覚えのある、クラスメイトの男子だった。

「何借りよっかなー……ん、風太郎どこに行くんだよ?」

 その一人がカウンターに近づいてくる。風太郎というらしい男子は、いの一番にカウンター……青海の元へ近づいた。

「な、なんでしょうか……!」

 予想通り、青海はテンパった声を出した。青海を助けようと、敦はすぐさま二人の間に割って入ろうとした。

 ところが風太郎は敦のことなど目もくれず、青海に対してオススメの本は無いかと尋ねた。

「……え、え………?」

 突然のことに、青海はかなり戸惑っていた。

「ど、どうして私に訊くん……ですか……?」

 それに対し、風太郎は、一番本を読んでいそうだからとシンプルな答えを返した。

「――わ、分かりました……! お、オススメ、持ってきますね……!」

 下心も何もない、純粋な気持ちから発された言葉は青海の心に強く届いたのだろう。青海は顔を真っ赤にさせながら、ぐっと拳を握りしめ、カウンターを出て行った。

「……」

 いたたまれない気分になった敦は、返却棚に置かれた本に返却をかけていく。その時風太郎は敦に話しかけてきた。

「……あ、気にしてないから。つか、事実だし」

 どうやら風太郎はさっきの青海に対する言葉に、敦が気にしていると思っていたようだ。敦はすぐさまそれを否定し、手を止めた。

「おっ、なんだなんだ! 二人して! オレも仲間に入れてくれよぉ!」

 そこに丈一が割り込んでくる。それから丈一を中心にするように、敦たちはとりとめのない会話を始めた。

 時間にしては十分くらい。だがその短い間だけでも、敦は風太郎のことを「良い奴」だと思えた。

「お、おまたせしました……!」

 青海がよたよたした足取りで戻ってくる。その両手には十数冊の本が持たれていた。

「よっと……あっ!」

 バランスを崩し、倒れかける青海。

「……っ」

 敦が立ち上がった時には、すでに青海の元に風太郎が駆け寄っていた。風太郎は青海の両肩に手を置いて、倒れるのを阻止した。

「あ、す、すすすいませんっ!」

 青海は風太郎から飛びのき、カウンターへ向かう。

「こ、ここれが私のオススメ……です!」

 青海は顔をうつむかせ、小さな声でそれらの表紙が見えるように並べる。合計十冊。夏休みに学生が借りられる上限冊数でもあった。

「風太郎、お前それ、全部借りんの?」

 その中にはかなり分厚い外国文学の小説もあった。丈一の問いに対し、風太郎はすぐさま首を縦に振った。

「はあ……はあ……!」

「代わるよ。多々良、学生証あるか?」

 息を切らせる青海に代わり、敦は貸出を行うことにした。風太郎は鞄の中をあさり、財布の中に入った学生証を取り出す。敦はそこに記されたバーコードを読み取り、一冊ずつ貸出をかけていく。

「はいこれ」

 さすがに十冊もカバンに入りきらないので、敦は貸出用の布袋に本を入れ、風太郎に渡した。かなりの重さになるにも関わらず、風太郎はそれは軽々と持ち上げた。

「おし、じゃあ帰ろうぜぇ。じゃあな!」

 丈一に連れられるように、二人は図書室を出て行く。

「あ、ありがとう……ございまし……た……!」 

 青海はしきりに頭を下げ、去りゆく風太郎にお礼を言う。風太郎は振り返って手を振りながら、図書室をあとにした。

「それじゃそろそろ閉めようか……来宮?」

 青海の耳には敦の声などまったく入っていなかった。青海はただただ、風太郎の背中をポーッとした顔で追いかけていた。

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