話すだけでも楽になる
青海と気まずい別れ方をしてから一週間。敦は委員活動において、青海と会話することがほとんど無くなっていた。
敦が無意識に青海を遠ざけているのもあるが、それは青海の方も同じだった。
「それじゃ」
いつものように図書室内の戸締まりと残っている人がいないかを確認し、敦は青海に別れを告げて、図書室を出ようとした。
「あ、はい。あの、十島くん」
呼び止められ、敦は立ち止まる。敦は首だけを振り向かせた。
「その……えっと……」
「悪い、ちょっと急いでいるんだ」
「あ、そうですか……すいません……」
敦は最後まで青海の話を聞かずに、ぶっきらぼうにそう言って、今度こそ図書室を出た。
「……はあ」
階段を下りながら、敦はついさっきの自分の態度を激しく後悔した。
「ガキすぎる……死ねよ俺……」
自分がここまで度量の小さな人間だとは思わなかった。敦はひどい罪悪感に打ちのめされそうになった。
「……何やってんだよ俺……」
告白どころか、青海を元気づけることもできない自分に、敦は激しい苛立ちを覚えた。
青海が多々良風太郎を好きでいてくれた間は、まだ「仕方ない」と割り切れることができた。だが風太郎がいなくなった今でも、敦は青海にとって良い言い方をすれば「友達」。悪く言えば「都合のいい存在」だった。
「小せえな俺……」
「いやけっこうデカいだろ。まあオレのムスコには負けるけどなぁ」
「え……う、うおっ!」
左を見るとそこに丈一が立っていた。あまりの唐突すぎる現れ方に、敦は飛び退いた。
「おいおい、そんなビビんなよぉ、アレはデカいのに肝はちっせーなぁ」
「いきなり現れたら誰でも驚く! というより、俺の見たことないだろ」
頭に血が上り、おかしなことまで口にしてしまう。丈一は快活な笑いを見せた。
「あれ? 研修旅行で見せ合いっこしなかったか?」
「おぞましいこと想像させるな。それにその時、まだ俺たち話したことも無いだろ!」
「……ん、それもそうだな! で、どったの?」
「……何がだよ」
「誤魔化すなってぇ。来宮と何かあったんだろぉ?」
とぼけた口ぶりだが、丈一は何かに気づいている。
「何もない」
しかし本当のことは言えない。敦は首を横に振った。
「……ふうん、そっか。悪い、変に勘ぐって」
どうせ根掘り葉掘り訊いてくると思ったが、丈一はそう言うだけだった。
「じゃあ俺はこれで! 頑張れよ!」
「――ちょっと待ってくれ」
『押してもダメなら引いてみろ』
後になって考えると、それは丈一の策略だったのかもしれない。敦は立ち去ろうとする丈一を呼び止めてしまった。そして、
「何をすればいいんだろうな……」
敦はもう自分が何をすればいいのかまったく分からなかった。
「……なあ、覚えているか?」
そして敦は、唐突に一年前のことを話し始めた。