佐藤とスズキ
「なーんかよ、めっちゃいいな」」
高校に入学して二週間が経とうとしていた。いつものように一緒に帰っていると、佐藤はスズキにそんなことを言ってきた。
「どういうこと?」
「言葉通りの意味だよ。この学校、いいな」
「うん、キラキラしてる」
互いに、それを上手く言葉にはできない。だがこの学校に生徒として足を踏み入れた時から、スズキも佐藤も心地よさを感じていた。
それは新しい生活に胸を踊らせているからだけではない。幸せそうな顔をした先輩たちがいっぱいいたからだ。
「入ってよかったな」
「うん。でも、佐藤は本当によかったの?」
「何がだよ?」
「いや、多々良先輩いないの分かってたのに」
「はあ? なんでそこであの人が出てくんだよ?」
「いやだってさ……」
「そーいやあの人、あっちでレギュラーに選ばれたんだって」
スズキがそれを言おうとする前、佐藤は風太郎の現況を説明した。
「へえ、そうなんだ」
「ああ。なんでも『やり残したことを解決できてスッキリした』んだってよ」
「そういえば帰ってきてたんだよね。なにか話した?」
「ま、いろいろな。といっても、あの人の親友のことばかりだけどな」
「この学校の人?」
「ああ、なんでもかんでも自分のせいだと思う、自意識過剰で加害妄想の激しい人らしい」
「面倒くさそうな人だね」
「だけどそれ以外は最高の男なんだって」
「へえ、会ったことある?」
「何度かな」
「惚れた?」
軽いノリで聞いたセリフだったが、佐藤は不機嫌な顔になった。
「惚れねえよ。それにその人、彼女いるし」
「そうなんだ。じゃあ良い人なんだろうね」
「なんで彼女持ち=良い人なんだよ」
「付き合いたいって思えるのは、良い人に決まってるよ」
「分からないぜ。顔だけで付き合いたいって奴もいるにはいるぜ」
「たしかにいるだろうけど、それだけで判断して付き合っても、長続きはしないよ。やっぱり性格とか相性をじっくり調べないと」
「お前のいう調べ方って、具体的な方法」
「えーっと、やっぱり基本は会話でしょ。世間話とかだけじゃなく、プライベートなことを話せるようになるくらいの間柄になれば、相性はバッチリじゃないかな」
「へー」
「あくまで個人的にはだよ。そういう佐藤は?」
「俺は少し違うかな。そんなおおっぴろげなことを言えるからって、相性がいいとは限らないだろ。『どうでもいい相手』だから言えるってこともあるんじゃないか?」
「う、うーん……たしかにそういう考えもあるね。でも僕はどうでもいい相手に大事なことを話さないよ」
「好きな相手には知ってほしいってことか?」
「そうだね。ま、色々と理屈っぽく言ってはみたけどさ、結局は『好き合ってたら自然に付き合う』んじゃない? たとえ言葉にしなくてもさ」
「いや、言葉は大事だぜ……」
いつの間にか終わっていた失恋からようやく立ち直るきっかけが、目の前にあった。
思い立ったが吉日。今日という明日は訪れない。
「なあ……俺ら、付き合わね?」
佐藤亜以子は、鈴原鈴樹にそう言った。
これにて終わりです
次回作で会いましょう




