再会
なんだかとても長い夢を見ていたような気がする。それを思い出そうとする。
「さ、さむむむむむっ!」
だがそれはできなかった。体がふるえる。俺はかじかむ手で毛布を取ろうとするもなぜか掴んだのはダンボールだった。深いこと考えず、俺はそのダンボールを体に巻きつける。
「あー天国……!」
隙間風が入ってくるが、あると無いとじゃ天地の差。俺はギリギリのところで生き返った。
「お、もう一枚発見!」
俺は新たに見つけたダンボールを、外側から巻きつけいっそう強固なものにする。
「――なにやってんだ俺……?」
体から寒さが消えたところで、ようやく俺は自分の置かれている状況がおかしいということを自覚した。
真っ暗闇。上からガタンガタンと激しい音が聞こえてくる。
「あー、そうだ、うん、そうだ……」
記憶をこねくり回し、俺は今自分がどこにいるのか思い出した。ここは家の近くにある河川敷……にかかっている橋の下。正確には橋と坂の隙間だった。
琉歌から発せられた言葉を聞いた後の記憶があいまいだった。ただひたすら走って走って、俺はここにたどり着いた。両手に手錠をはめた状態でだ。
疲れ果てた俺はそのまま眠りについた。そして目を覚ましたのが、夜も更けた今だった。
「これ、マジでどうすんだ……?」
さっきまで全然気にならなかったが、俺の今置かれている状態は、知らない奴からすれば「ガチでやべー奴」でしかなかった。
もしも誰かに見られたら、確実にお上がやってきて即座に御用となるだろう。俺はもっと奥側へと体を寄せた。
「ふんっ!」
鼻息鳴らし、俺はあらん限りの力を込めて手錠の鎖をちぎろうとすした。
「――ぷはっ!」
だがびくともしない。腹が減っているとかそういう次元の問題ではなかった。
「仕方ねえ」
俺はいったん手錠を解くのを諦めることにした。これ以上は体力が持ちそうになかったからだ。
「鼓太郎の野郎……!」
恩を仇で返すとはまさにこのことだ。今度会ったら思い切りぶん殴ってやる。
「…………うーーーーん」
しかし今はそれより大事なことがある。
「……本当、なんだろうな」
ドッキリ、冗談、嘘……琉歌のあの言葉がそういった類のものではないということだけは分かった。それでもやはり信じられなかった。
『お前のことを、愛してる』
琉歌は今まで見せたことのない顔で、俺にそう告白した。愛している、つまりそれは俺のことを好きだということ。
琉歌が、俺のことを好き…………好き?
「おっかしいな、いつフラグ立てたっけ……?」
一応、幼なじみ的な立ち位置にいるが、俺は琉歌に対して好感度を上げるようなことをしてきたつもりはない。むしろ、嫌われて当然のことばかりしてきた。
「――ああ、なるほど。殺したいほど愛してるってやつか!」
それなら合点がいく。俺への憎しみが強すぎてついおかしな言い間違えをしてしまったのだろう。だがそんな簡単に殺せる状態が作れるわけもない。だから琉歌は、鼓太郎という俺の「隙」を突いて、手錠をかけたのだろう。
「馬鹿だな、俺」
少し考えれば分かることなのに、勘違いしてしまった自分が恥ずかしい。俺はテンパらず、あそこで琉歌に殺されるべきだった。
「完っ全に、調子乗ってたな……」
救ってきたと思っていた、それで俺の罪が許されると信じていた。その思い上がりを、最後の最後に琉歌が正してくれた。
こんなことで、彼女たちが許してくれるはずがない。
「――よし、殺されにいくか」
気持ちが固まった。俺はケジメをつけるために琉歌の元へ向かうことにした。俺は手錠を相手から見えないよう、なるだけ前傾姿勢で歩き出す。
「君、止まりなさい」
坂を下ったところで、声をかけられた。頭の中が真っ白になる。背後から足音がどんどんと近づいてきていた。
「す、すいません! これには色々と事情があって!」
「言い訳は聞かない」
「そ、そんな!」
「そこに座りなさい! 罰として…………話を聞いてもらうよ」
突如、何者かの声色が変わる。いや、元に戻る。
「………………………………え?」
とてもよく知っている声だった。俺は振り返る。予想通りだった。
「はは、驚いた? ひさしぶりだね、丈一!」
そこにいたのは、この場所で初めて出会い、生まれてはじめてかっけーと思った、俺のようなクソ野郎とは不釣り合いな、超絶イケメンナイスガイだった。




