決意
ようやく書き終えました。推敲しつつ徐々に投稿を再開します
琉歌との勝負の日はどんどん迫ってきていた。鼓太郎はほぼ毎日、筋トレを行った後、男と組手を行っていた。
「だいぶサマになってきたじゃねえか」
組手終了後、男はタオルで顔を拭きながらそう言った。
「ありがとう……ございます……!」
鼓太郎は息を整えながら返事する。だが満足したわけではなかった。
ようやく一度の組手で男の胸や足に一発二発当てられるようになっただけ。あとは全部防がれ、逆に何発も食らった。
「ま、あと一週間あるんだ。これからこれから!」
そんな鼓太郎の心を読んだかのように、男はなぐさめの言葉をかけた。 「――付き合ってくれて、ありがとうございました」
鼓太郎は男の方を向き、姿勢を正して頭を下げた。
「おいおいなんだなんだ! あと一週間もあるんだぜ。お礼は勝ってからにしてくれよー!」
「……そうですね」
男は照れくさそうに笑う。一週間後か……。鼓太郎はその実感がなかなかわいてこなかった。
「――ま、そんな思い詰めんなって。仮に負けてもあいつは確実にお前を意識するさ。何度も挑戦すれば、振り向いてくれるよ」
これで終わりじゃないという意味なのだろうが、鼓太郎はそうは思わなかった。多分、いや間違いなく負けた瞬間にすべてが終わってしまう。
「ちなみによ、お前琉歌のどこが好きなんだ?」
給水を終えた男は急にそう訊いてきた。
「凛々しい立ち振舞いですね」
少し考え、鼓太郎は答えた。しかし男は首を横に振った。
「そんな純文学的な感想いらねーって。本心だよ。やっぱ、おっぱいか?」
「おっぱ……! そ、そんなわけ無いでしょ! どちらかと言えば引き締まったヒップ……あっ」
めちゃくちゃ単純な誘導尋問に引っかかってしまった。鼓太郎の顔は再びさっきの組手とは違う意味で熱を帯び始めた。
「いい趣味してんねぇ! でもあいつ、胸もけっこうあるんだぜ。着痩せってやつでよ、干されてるブラが意外と――」
「詳しいな」
「そりゃ曲がりなりにも幼なじみってやつだから…………ヒヤァ!」
鼓太郎のみならず、男もまったくその存在に気づけなかった。男は素っ頓狂な声を上げ、人間の身体能力に限界はないということを見せるかのように、後ろに跳んだ。男のいた場所に拳が空を切った。
「な、なんで琉歌さんが?」
「ランニングの途中に見かけたからだ。こそこそと人をダシに猥談に浸っているとは思わなかったぞ……」
「ち、違うんです! これにはその深いわけが……」
「勝ったらケツ揉ませろだってよ」
「はあああ!?」
とんでもない爆弾発言に、鼓太郎は腹の底から叫んだ。
「……本当か?」
「本当だよ。どうせやるんだ、せっかくだし何か賭けようぜ」
男は鼓太郎に目配せする。これでさらに鼓太郎がやる気を出すと考えたのだろうか。鼓太郎は空いた口がふさがらなかった。
「――それもそうだな。いいだろう。もしも私が負けたら尻でも胸でも揉ませてやる」
殴られる覚悟をしていた鼓太郎だったが、琉歌はそれに乗っかってきた。
「い、いや……え?」
「その代わり、私が勝ったら私の願いを聞いてもらう」
ただ少しでも意識してもらえれば……そう思っていたのに、話は急転換を迎えていた。
「いいぜえ! 何でも聞いてやるよ!」
透明人間になってしまったかのような疎外感。二人は好き勝手に話を進めていく。
「――やったな!」
「……………………」
これがターニングポイントだった。
ぐちゃぐちゃと脳みそがシェイクされる。そして出来上がったのは――。
鼓太郎は覚悟を決めた。




