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クリア後の物語〜負けヒロインたちのその後〜  作者: 元田 幸介
犬藤琉歌
39/49

再起

「悪かったな、こんな夜中に」

「あ、いえ……あ、どうも」

 ほとんど無理やり外に出された鼓太郎は、思わぬ来訪者とともに歩き始めた。

「あの、先輩……なんの用ですか?」

 裏返った小さな声で、鼓太郎は尋ねた。

「ああ。お前が琉歌にボロクソにやられたって聞いたから、心配になって来たんだよ。怪我、本当に大丈夫か?」 

「え、ええ……腫れているだけなんで、一週間もすればよくなると思います……」

「そうか、そりゃ良かった!」

 にかっと男は笑う。鼓太郎はただただ呆気にとられた。

 男は琉歌の幼なじみで道場兼家の近くに住んでいるらしい。

 鼓太郎も何度か道場の外で顔を合わせたことがある。だが、あるうわさから鼓太郎は無意識に男を見ないようにしていた。

「ちょっと待っててくれ。飲みもん買ってくる」

 しかしそのうわさとはあまりに違う雰囲気に、鼓太郎は戸惑った。男はコンビニの中に入っていく。少しして缶コーヒー二本を持って帰ってきた。

「あ、ども……」

 鼓太郎は一本受け取る。ほどよい冷たさだった。

「公園……はベタだな。お、いいとこ発見」

 男はあたりを見回し交差点の向こうを指差す。屋根のついたバス停だった。

「意外といいもんだな」

 バス停のベンチには座布団が敷かれていた。男はどすんと腰を深く落とした。鼓太郎もゆっくりと男と一人分の隙間を開けて座る。

「それでよー」

「はい」

「琉歌のこと、好きなのか?」

「ぶっ!」

 飲みかけのコーヒーを吐き出す。その飛沫はギリギリのところで男に当たらなかった。

「ベタな反応するなあ」

「そ、そりゃいきなりそんなこと言われたら……え、なんで?」

 なぜたまに顔を合わせるくらいの男がそんなことを知っているのか、鼓太郎はただただ戸惑った。

「そりゃそうだけどよ、あんな露骨に琉歌に視線送ってたら誰だって気づくぞ……」

「し、視線!? マジっすか……」

 カアっと顔が赤くなる。自分的にはそういう気持ちを悟られないよう注意していたつもりなのに……。

「でも安心しろ。本人は気づいてねーよ。あいつ、そういうのには鈍いから」

「そうっすか……」

 安心するも複雑だった。それは逆を言えばまったく眼中にないということなのでは――。

「男として意識されていないな」

 グサッと言葉のナイフが突き刺さる。男は容赦なく鼓太郎の「最悪な予想」を口にした。

「そんなこと言うために、わざわざ来たんですか……?」

 怪我の痛みが一時的にだが消え去る。鼓太郎は隣に座る男に敵対心を持った。

「おっと落ち着け。やってもどうせ俺が勝つ」

 男は悪びれる様子もなく、さらに鼓太郎を挑発した。

「…………」

 鼓太郎は握りしめた拳をゆるめる。男の言葉が本当だったからだ。

「怒らせるつもりはねーんだよ。むしろ、俺はお前の味方だ」

「味方……? どういうことですか?」

「その前に一つ確認だ。大喜鼓太郎、お前はまだあいつ……犬藤琉歌のことが好きか?」

 心臓音が一気に高鳴った。男は鼓太郎をじっと見ながらそう訊いた。

「いや、俺は……」

「イエスかノーかで答えろ」

「――イエスです」

 優柔不断な答えを許さない男は、二択を迫る。鼓太郎は前者を選択した。

「よっし! それを聞けたら安心だ!」

 男は鼓太郎の右手を取り、強引に握手した。

「味方って……それってつまり、俺と琉歌さんのことを……その、応援してくれるってことですか?」

 男との会話から、鼓太郎はその推測に至った。

「鋭いねぇ、その通りだ」

「ありがとうございます。でも、いいです」

 鼓太郎はきっぱりと断った。

「な、何でだ!?」

 予想外の返事に、男は激しく動揺した。

「この恋は自分のものなんで、自分で済ませたいんですよ」

「今まで逃げてたのにか?」

「うっ! そ、それは一時的なものです! もう逃げずにぶつかっていきます!」

「は~! 鼓太郎、お前は甘いっ!」

「え?」

「お前の心がけは立派だよ。でもお前のそれはただの特攻、何の勝算もない、やけっぱちに過ぎない。ある意味で、逃げだ」

 容赦のない言葉が次々と降りかかる。鼓太郎はしばし無言になった。

「恋愛も戦も同じだ。戦う前には必ず準備がいる」

「それは……好感度を上げるってやつですか?」

 鼓太郎は中学卒業後の春休み、友達から借りた恋愛ゲームをやっていた時のことを思い出す。クリアできたのは一人で、ひたすらそのキャラとばかり会話していると、自然と付き合うようになった。あれがいわゆる好感度を上げたということだろう。

「おっ、詳しいな。ちなみに誰クリアした?」

「たしかメタ美とかいうキャラでしたね」

「初手メタか。よくクリアできたな。あれ、選択肢かなりムズいだろ? 攻略サイト見たのか?」

「いえ、明らかに『釣り』っぽい選択肢を外していたら、そのままですね」

「へー。俺はノノ江だったな」

「ノノ江って、あのテンプレのようなツンデレキャラですか?」

「ばっかお前! アレがいいんだろうが。しかもメイド服だぞ!」

「それベッタベタのやつじゃないですか…………あれ、何の話でしたっけ?」

 話が脱線していることに、鼓太郎はようやく気づいた。

「好感度の話だ。言っとくが、ゲームとは違うぞ」

「そんなの、分かってますよ。でも、現実的に『会話』は好感度上げるお手軽な方法ですよね」

「ああ、違う違う。ゲームそのものが違うってこと」

「……?」

 いまいち男が何を言っているのか要領をつかめない。

「話が通じる相手じゃねえってこと。あいつに通じるのは、コレだよ」

 男はシュッシュと素早いジャブを繰り返す。そこで、鼓太郎も気づいた。

「とりあえず、あいつに勝てなきゃ告るもクソもねえ。覚悟はいいな?」

「――押忍」

 覇気のない声で返事する。こうして、鼓太郎の「犬藤琉歌告白大作戦」という名の、修行が始まった。

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