サッカーは格闘技
「すごい試合だったな」
「うん、見入ってしまったよ」
熱狂冷めぬゲーセンを出た二人は、先ほど観た勝負を語りながら歩いていく。
「――正直よ、俺は格ゲーなんてもんは正確に素早くコマンド入力する奴が強い……要は『覚えゲー』の一種だと思っていたわけよ」
「まあ、そういうところもあるだろうね」
「でも、さっきの闘いを観て考えが変わったよ。格ゲーは、マジなバトルと遜色ねえ」
「それは同意するよ」
筐体を挟んで座っているはずなのに、二人が打ち合っている姿が目に見えた……と言ったらさすがに馬鹿にされるだろうから、スズキは言わなかった。
「なんていうか、楽しそうだったよね」
「だな。二人とも本当に遊んでいるみたいだった」
スズキも佐藤もどちらが勝ったのか分かっていなかった。そんなものは別に知らなくてもいいことだった。
「…………」
「どうした、そわそわして? 小便か?」
「あんまりそういう言葉は使わない方がいいよ。無性に体を動かしくなってきただけだよ。君だってそうだろ?」
無意識にスズキはシャドーボクシングをしていた。
「いっちょやるか?」
「やめとくよ。万一があったら困るし」
「おいおい、俺がお前のへなちょこパンチにやられるとでも思ってんのか?」
「急所を狙えばやれるかもね」
「時折お前、大胆なこと言うな……」
「僕にそのつもりはないから安心して。とりあえずさ、体を動かしたいならジムに行ったらどう?」
「ジムかぁ、あーいうところ、どうにも抵抗あるんだよなあ」
「じゃあ道場は? たしかこの町にも空手道場があったはずだよ」
「――よし、この話題はやめよう」
「ど、どうしたの急に……?」
「暴力よくない。平和一番」
「……ひょっとして、そこの道場で何かあったの?」
「…………まあ、中一の頃ちょっとな」
「ひょっとして、多々良先輩も?」
「名探偵かよ。そうだよ、あの人も一緒にだ」
「なんでまた?」
「え? サッカーといや空手だろ」
「ごめん、よく分からない……」
「反射神経を鍛えるってことだよ」
「……普通にサッカーの練習したほうが良くない?」
「普通の練習じゃ物足りないんだよ、あの人の場合は……」
「何かにつけて先輩との話題が多いね」
「俺の思い出はあの人ありきだからな」
「ふうん……。それで、そこで何があったの?」
「大したことじゃねえよ。単に俺が組手で負けまくっただけだ」
「君が?」
「そん時俺はまだ中一だぜ? 相手は中三、しかも道場の師範の娘。勝てるわけねーだろ」
「まあ、そりゃそっか……。ちなみに、その相手は誰?」
「犬藤琉歌」
「……ああ」
聞いたことのない名前だった。だが今までの話の流れから間違いなく多々良風太郎に関わりあいのある人物だろう。佐藤は分かったフリをした。
「道場にはもう行かないの?」
「行かねーよ。行きたくねえ……」
「スパルタなんだ」
「それもあるが、その……犬藤……さんは」
佐藤は苦い顔をしながら、つぶやいた。
「めっちゃ、良い人であると同時に、めっちゃめんどくさい人なんだよ」




