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クリア後の物語〜負けヒロインたちのその後〜  作者: 元田 幸介
小牧春風
33/49

終わり、再び始まる

「よお、久しぶり」


 学武が入店したことに、息子はいち早く気づいた。

「お久しぶりです店長」

 店長の名札をエプロンの上からつけた新店長に、学武は挨拶する。二階の主戦場の方が騒がしかった。

「ちょうど良かったな。お前の待望のヤツが来てるぜ」

「ええ、知ってます」

 学武は二階に上がる前に自販機で微糖入りのコーヒーを買い、飲みながら階段をのぼる。

 古今東西、前店長の趣味で集められた筐体の数々。その一つに人々は集結していた。

 先日、「いがらし」で見たのと同じ光景だった。学武は心臓をどくどく鳴らしながらゆっくりと近づいていく。

『YOU WIN!』

 画面から勝利を告げる音声がする。彼女はちょうど対戦を終え勝ったようだ。

「次、誰かいる?」

 彼女は帽子のつばをトントンと叩きながら挑戦者を待つ。

「お、おれが行く……」

 ぼそぼそとつぶやいたのは、「とどろき四天王(学武がそう言っているだけ)」の「漆喰のヒョウ」だった。ヒョウは重い体をよたよたと歩かせながら席に座る。

「よろしく」

 SPR、彼女はいつもどおり挨拶をする。

「あ、う、うん……よ、よろしく……」

 ヒョウはかろうじて聞き取れる声で返事した。

 この勝負は見逃せない。学武は自分でも通算五回くらいしか勝ったことのないヒョウが、SPR相手にどんな試合をするのか楽しみだった。

『FIGHT!』

 勝負が始まる。学武はただの観客として画面を見つめる。


「――え?」


 信じられない光景が、目に映ってきた。


「あ、来てたんだ」

 ヒョウとの対決を終えた春風が学武に気づく。

「あ、うん……ずっとやってたの?」 

「ええ。この前は同じヤツばっかが勝負ふっかけてきたから、感覚を思い出せなかったけど、今回でよく分かったわ。全盛期のままだってことがね!」

 春風は飲みかけのコーラを飲み干し、自信満々に答えた。

「それじゃ、約束通りやりましょうか」

 もう命令されたからというわけではなさそうだった。春風は純粋にゲームを楽しんでいた。

「ごめん。ちょっと待って」

 学武はそう言って、筐体から離れてヒョウの元へ向かう。

「ヒョウ」

「お、おうガクト……」

「ちょっと聞きたいんだけどさ」

 学武は一つヒョウに尋ねた。

「な、なに言ってんだ! ふざけるな!」

「うんごめん。ありがとう」

 学武はヒョウから離れ、学武が見ていた限りの、春風と闘った者に、同じ問いを繰り返す。全員、ほとんど同じ反応だった。

「…………」

 そこで学武は、小牧春風がなぜ「復帰」したのかについて思い出す。理由はどうあれ、念願叶ってようやく憧れの人物と再会できた。今日だけではなく、この先も一緒にゲーセンで遊べるかもしれない。



 よせ、やめろ、考え直せ。



 理性が何度も学武を止める。だが学武はそれを聞かず、春風の向かいに座った。

 注目が集まる。学武は百円玉を挿入する。春風も挿入する。

 プレイキャラ選択画面。先に選んだのは春風で、やはり【桃太郎】だった。学武は【笠地蔵】を選択した。

「おい、このキャラ同士って相性最悪じゃなかったか?」

「ああ。7:3……いや8:2っていう話もあるくらいだぜ」

 外野がぼそぼそと話している。そんなこと学武も知っていた。だからこそ、選んだ。

「よろしくね」

 お決まりの挨拶が飛んでくる。その可愛らしい声に、ギャラリーたちはざわついた。

「……」

 しかし学武は返事をしない。ただ勝負が始まるのをじっと待った。

(…………よしっ!)

 最後の最後の最後まで悩んで悩んで悩み抜いた末、ようやく学武は決心した。

 

 



 その決意通り、学武はSPR……小牧春風に、2ラウンド、ノーダメージで勝利した。






「ちょっ! 今のナシナシ! 油断してた!」

 勝負の結果に不服を申し出た彼女は、額から汗をだらだらと流しながら人差し指を一本立てて再戦を申し込んだ。

「――いや、もういいよ」

 憑き物が落ちたかのように、学武はすっきりした顔で言った。


「いくらやったところで、僕には勝てないよ」

「は、はあ? まぐれで勝ったからって調子に乗るんじゃないわよ!」

「まぐれじゃない」

 力強く学武は否定した。それだけは、絶対に認めるわけにはいかなかった。

「……ぅ、わ、分かったわ。アンタは確かに強いわ。でも、あたしだって本気でやればもっと――」

「本気でやれば、やられていただろうね」

 学武はついに言ってしまった。

「は? それってどういう…………ぇ?」

 春風はようやくその意味を理解する。春風はキッと後ろにいたヒョウをにらみつけた。

「どういうこと?」

「あ、いや……そ、その……」

「みんな、見惚れていたんだよ」

 最初は学武も信じられなかった。一見、普通の勝負に見える。だが長い間闘ってきた学武には、みんな明らかに手を抜いているのが分かった。

 加えてその後のプレイヤーたちの小学生のようなうぶな反応……盤外、筐外において完全に負けていた。

「とにかく闘ってくれてありがとう」

 どんな結果であれ、学武は念願の夢を叶えることができた。そう、思うことにした。


「……待ちなさいよ」


 次なる目標を見つけよう。学武が気持ちを切り替えようとした時だった。春風は椅子から立ち上がり、学武を呼び止めた。

「さっきから聞いてりゃ言いたい放題……! あんまり舐めるんじゃないわよ!」

「な、舐めてはないよ。ただ、小牧さんにはブランクがあるから仕方な――」

「もう一度、勝負よ!」

 春風は再戦を申し出た。

「う、うーん……」

 これ以上、幻滅したくない。学武はこれきりでSPRへの想いを断ち切り、きれいな思い出として終わりたかった。

「今すぐじゃないわ。一ヶ月……いえ、二週間後に勝負よ! それまでにあんたの理想を超えてやるわ!」

 その言葉に、学武の中で再び火がついた。春風はギラギラと燃えるような眼をしていた。

「……分かった、待っているよ」

 ここまで言われて断るほど馬鹿じゃない。学武は春風の挑戦状を受け取った。

「それじゃさっそく修行よ! そこのモジャモジャ頭くん! 今度は全身全霊、本気でぶつかってきて!」

「え、あ、お、は、はい……!」

 さっそく春風は「修行」を開始した。春風は無理やりヒョウを座らせる。


「次、俺な!」「じゃあ僕も……」「ふっ、付き合ってやるか」

 次々とヒョウの後ろに並んでいく。全員、さっき負けた連中だった。


「…………僕も負けてられないな」


 すぐに、新たな目標ができた。



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