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クリア後の物語〜負けヒロインたちのその後〜  作者: 元田 幸介
小牧春風
31/49

はじめてできた……

 子供の頃からゲームが好き……というわけではなかった。むしろ、ゲームなんてもの家にはなかった。


 なにかのテレビ番組だった。「人生は十代で決まる」と男が言った。その男は有名会社の社長で、子供の頃からずっと勉強をしてきて今の自分があると言った。

 影響を受けやすい学武の両親は、その日から学武を変えようとした。

 学武は学校が終わった後に塾に行かされ、家に帰ると家庭教師に勉強を教えてもらうというサイクルを、小学校卒業まで続けることになった。


 中学に上がる頃には、すでに高校で習うような知識は得ていた。テストも毎回一位。両親は大変満足した。だからもう、勉強しろと強制はしなかった。

 けれど学武は違った。もしも成績を落としてしまえば、期待を裏切ることになる……学武はそんな強迫観念におそわれながら、一心不乱に勉強した。

 もちろん、そんな状態が長く続くわけがない。学武は授業中に倒れてしまった。

 すぐさま病院に運ばれ、学武は過労による貧血と診断された。


 この結果を受け、両親は自分たちがプレッシャーをかけてしまったせいだと、学武に泣きながら謝った。

 退院後、両親は学武に気を使われるようになった。学武も両親の気持ちを読み取り、自主学習は毎日二時間程度におさえることにした。

「なにか、趣味を見つけたらどうだ?」

 その分、時間が余った。父は学武にそう提案した。しかしいきなりそんなことを言われても困るだけだった。学武は興味を持てるようなことが何もなかったからだ。

 そんな時だった。クラスメイトの男子に、遊びに誘われたのだ。

「代わりに勉強教えてくれね?」

 男子は白い歯を見せ笑った。学武は熱くなる胸をおさえながら力強くうなずいた。

 

 そしてこの男子の何気ない誘いは、学武に「やりたいこと」を見つけるキッカケとなった。


 それが、ゲームだった。





 生まれてはじめて入ったゲームセンターの第一印象は「うるさい」だった。タバコの臭いが充満しているし、過激な光が画面から放たれる。いるだけで寿命を縮めるような場だった。

「五百円分、おごってやるよ!」

 男子は学武に五百円玉を渡すと、すぐさまメダルゲームの方へ向かっていった。

 学武も同じゲームをして遊ぼうかとしたが、ふとあるゲームが目に入ってきた。

 画面には二体のキャラクターが向かい合っている。パンチ、キック、ジャンプ、武器攻撃……キャラクターたちは様々な技を駆使しながら闘っていた。

 格ゲーというやつだろう。学武はしばらく左側の刀らしき武器を持ったキャラクターを眺めていた。

「…………すごい」

 なんとなく観ているだけだった学武だったがついぽろっと本心を漏らしていた。

 おそらくおとぎ話の【桃太郎】を模したキャラだろう。桃太郎は上段斬り、下段斬り、フェイント、さらには刀を投げつけたりと、連続して攻撃を繋げる。

「く、くそ!」

 右側のキャラ、【金太郎】はほとんど何もさせてもらえないまま、ゲームが終わった。プレイヤーはとぼとぼと台を離れた。

「すげえな。これで十連勝だぜ」

「相変わらずの腕だな」

 観戦していた者たちがひそひそと話す。どうやらかなり有名で強いプレイヤーみたいだ。

「次は誰?」

 勝者は次なる対戦相手を求める。誰もが座るのをためらう中、いつの間にか、学武は向かいの席に座り、百円玉を挿入していた。

「よろしくね」

「…………あ、はい」

 声をかけられたことで、学武は自分のやったことに気づいた。学武は慌ててキャラクターを選ぶ。選んだのは「笠地蔵」だった。

 

 勝負が始まる。もちろん、ボロ負けだった。


 とりあえず適当にボタンを押し動かすも、けっきょくは為すすべなく、相手のコンボ攻撃によって、ノーダメージで二勝された。

「君初心者?」

 試合後、対戦相手は学武に訊いた。よく聞くと少女の声だった。

「初プレイです」

「そっか。じゃあこれからが楽しみだね。またやろうね! ……っと、そろそろ終わろっかな」

 ねぎらいの言葉をかけ、対戦相手は立ち上がり筐体を離れた。観戦者たちもそれに応じたかのように、向かいの空いた台には誰も座らなかった。

 学武はしばらくぼーっとしていた。そして急に、「ボッ」と心に火がついた。


 この日、学武は初めて勉強以外のことに興味を持った。

 


 そして、自分が初めて負けたゲーマー、【SPR】に勝ちたいと思った日でもあった。


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