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クリア後の物語〜負けヒロインたちのその後〜  作者: 元田 幸介
小牧春風
29/49

念願仕合


 負けず嫌いというわけでもなかった。怒っているとか嫌いとかでもなかった。



 ただ矢代学武は彼女に勝ちたかった。




 親子連れでは絶対に来れないであろう、タバコの臭いの充満した、ある意味で「らしい」ゲームセンター。学武はそこに約三ヶ月ぶりにやって来た。

「……いい匂いだ」

 副流煙の危険性を知らないわけではない。それでも学武はこの匂いとけたたましく鳴り響くゲーム音に安堵感を持っていた。

「さて、やりますか」

 学武は財布の中から千円札を三枚取り出し、両替機で百円玉に替える。ずっと我慢してきたので、今日は思う存分遊ぶつもりだった。

 三ヶ月経っても変わりない店内の機体たちが学武を待っている。クレーンゲーム、音ゲー、ガンシューティング、レースゲーム……。どれも魅力的だが学武はそれらをスルーし、奥の方へと進んでいく。


 武者震いで心がたぎる。学武は早くそのジャンルのゲームをやりたかった。

 一番奥に置かれたコーナーに着いた時だった。店内のBGMや他の筐体から流れる音声をかき消すくらいの歓声がわいた。

 なんだろうと学武はその歓声のした方に目を向ける。一台の筐体に、ギャラリーがたくさんいた。そのほとんどは学武の知り合いだった。

「与一さん、どうしたんですか?」

 一番後ろに立っていた大男に声をかける。

「ん、おお学武じゃねえか。久しぶりだな」

 角野与一は久しぶりに見たライバルを見て驚いた。再び歓声がわいた。

「いったい、誰がプレイしているんですか?」

 ここからではよく見えない。だがここまで人を惹きつけるということは、かなり名のあるプレイヤーに違いない。学武は身震いした。

「ああ、それは――」

「ちくしょう、また負けたっ!」

 バンッと筐体を叩く音がする。向かい側に筐体にいた男は、悔しそうな声を上げ、次の者に台を譲った。

「これで二十連勝だぜ」

「……嘘でしょ?」

 このゲームがこんなにもプレイされるなんて、初めてじゃないだろうか。学武は俄然興味を持った。

「次は誰?」

 連勝を続ける謎のゲーマーは挑戦者を求めた。

「くそっ、負けっぱなしじゃいられるか!」

「次こそ俺が勝つ!」

 ギャラリーの数人が再び反対側の筐体に回り込む。その隙間から、ようやくゲーマーの後ろ姿が見えた。

「――えっ?」

 目を疑った。赤い帽子、年季の入った青いジャケット、そして背中あたりまで伸びた黒い髪……。

「【SPR】……!」

 間違いない。学武は人の隙間を通り、前に出る。

「――僕が、相手になる!」

 初めて人前で大きな声を出した。学武は小学生と同じくらい、ビシッと手を上げた。

「ふうん、次はあんたが…………」

【SPR】が学武に振り返る。そしてなぜかすぐに画面に向き直った。

「よろしく……!」

 学武は反対側に回りこみ、百円玉を挿入する。

 

 いったい、この日をどれだけ待っていただろうか。ブランクとか緊張とか、言い訳は一切しない。学武はずっと想ってきた相手に、持てる限りをぶつけることにした。

 


 キャラクター選択画面が映し出される。学武はすぐに持ちキャラ「笠地蔵」を選んだ。

 ゲームが開始される。学武は一ミリも油断せず、命をかけるくらいのつもりで勝負に臨む。


「……ん?」


 だが【SPR】のキャラ「桃太郎」はその場から微動だにもしない。学武は「桃太郎」の間合いのギリギリまで「笠地蔵」を移動させる。

 ここが勝負所。学武は一気にコンボを繋げようとした。


 ――ザワザワザワザワザワ――。


 と、そこで学武はようやく、向こう側がざわついていることに気づいた。

 学武はそおっと向こう側の台に眼を向ける。



「……………………は?」


 体がフリーズした。勝負の方は時間いっぱいで終わっていた。一本目は引き分けになった。二本目が始まる。学武は立ち上がっていた。


「……嘘だろ?」

 

 反対側の筐体へ向かう。だが、そこには誰も座っていなかった――。

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