それはゲームと呼べるのか
「陸奥さん、元気になったね」
特に理由はないがスズキはそう言った。
「前から元気だろ。『うへへ』とか『いひひ』って声出しながら絵描いてたの見たことあるぞ」
「そうじゃなくて、何か吹っ切れたというか、すっきりした顔になったというか……」
「よく見てんねえあいつのこと。今がチャンスなんじゃねえの?」
佐藤は茶化すようなことを言った。
「ははは、彼女のことはもうとっくに好きとかいう感情はないよ。彼女は僕にとって高嶺の花なんだ」
「……前から思っていたんだけど、お前の女の趣味ってよく分かんねえよな。飯原先輩みたいなのや、陸奥とか。どういう基準で好きになるんだ?」
「基準って、普通に『あ、好き……!』って思ったら、好きになるだけだよ」
「顔とか胸は関係ないってわけか」
「関係なくはないけど……とにかく、一緒にいて楽しいなと思える人が好きかな」
「ふうん。飯原先輩は分かるけど、陸奥って楽しいか?」
「楽しいというか、楽しませたいかな陸奥さんの場合は」
「……ひゅーっ」
「はい、陸奥さんの話題は終わり!」
失恋の時のことを思い出してきた佐藤は、強引に話を切った。
「とりあえずよ、『好きな女』は高校に入ってから見つけりゃいいんじゃねえの?」
「正確には『やりたいこと』だけどね。とにかく高校は七菱を目指すよ」
「お、いいね! じゃあ記念に今日はおごってやるよ」
「本当? じゃあ新作の二百円バーガーで」
「ばっかそうじゃねえよ。行くだろ、これ」
スズキはパソコンを打つような素振りを取る。
「ゲーセン?」
「そう! たまにはいいだろ、行こうぜ」
「それはいいけど、僕格ゲーはあんまり得意じゃないよ」
「安心しろ。やるのはプリントシールだ」
「やだよ恥ずかしい」
「マジトーンで返すなよ……。こっちも恥ずかしくなってきただろ……」
「前から思っていたんだけど、あれって『ゲーム』って感じしないよね」
「ばっか、色々いじって面白い写真を作るのがおもしれえんじゃねえか」
「やったことあるの?」
「まあな」
「誰と?」
「…………」
「さて、おごるっていう話だけど……」
佐藤は手をたたきその話題を切った。
「べつに無理しておごらなくていいよ。やらなくても、人のプレイを見ているだけでもけっこう面白いし」
「そんなもんかねえ。ゲームなんて自分でやってナンボだろ」
「そんなことないよ。けっこう前の話になるんだけど、この町に『SPR』っていう人のプレイは本当にすごかったんだよ。本当に、見ているだけで楽しい気分になれたんだ」
「SPR? 外人か?」
「スズキにも分かりやすく言うならリングネームだよ。正体不明、性別が女子という以外は謎の人物なんだ」
「おばさんかもな」
「うっ、ゆ、夢を壊さないでくれ……!」
「けっこう前って言ってたけど、最近はもう現れねえのか?」
「うん。去年の四月にはなんの音沙汰もなくなったんだ」
「去年の四月か……」
「どうしたの?」
「いや、飯原先輩もそうだったなって思っただけだよ」
「…………はは、いくらなんでもそんな偶然はないよー!」
「だな! とりあえずさっさと入ろうぜ。寒くてたまんねーよ」
二人はゲームセンターの中に入る。しばらくして、佐藤は唖然とした。
「……SPRだ」