結果的に一点に収束する
「元気ないな、どうしたんだ?」
いつもの時間、いつものファミレス。だがスズキは勉強はせず、ぼーっと飲み物を飲んでいた。
「分かっているだろ」
「お前の隠したエロ本見たことか?」
「――な、なんのことかな……?」
「お前っておっぱいスキー星人なんだな。隠し場所はもっと考えた方がいいぞ」
佐藤は周りに客がいることも関係なく、無遠慮に言った。
「佐藤、いい加減にしないと怒るぞ……」
「ばっかキレたいのはこっちだぜ。なんでお前のそんな辛気臭い顔見なきゃいけないんだ。俺といる時くらい、『ニカパァ』って顔しろ」
「に、にかぱ?」
「ニカっと笑って頭がパー……のんきでいろってことだよ。いい言葉だろ、先輩が教えてくれたんだ」
「流行らないし流行らせない。そもそも僕が落ち込んでいるのは、君のせいじゃないか」
「なんかしたっけ?」
「君が、飯原先輩が三年生だなんて言うから、僕は……僕は……」
「八重子さんが三年なのは俺にはどうしようもねえよ。……ははあ、つまり七菱に行く目的が失くなって困っているってことか」
「……そうだよ。だから勉強も手につかない」
「おいおい、車海老に行くつもりじゃねえだろうな?」
「いや、それは無いけど……」
「ぜったい七菱受けろよ! じゃないと許さねえからな!」
佐藤は身を乗り出してスズキに「約束」させる。スズキは小さな声でうなずいた。
「でも実際……モチベーションが上がらないことは事実なんだ。僕にとって飯原先輩と高校生活を送ることが目標だったから」
「だったら新しい目標を見つけたらどうだ?」
「簡単に言うけど、そんなすぐには見つからないよ……」
そんなこと、スズキもずっと考えていた。しかし中々、「飯原八重子」以外でそれは浮かばなかった。
「これだから下半身で生きているような奴は……」
「べ、べつに異性関係じゃなくてもいいさ!」
「――本音は?」
「うっ……そうです」
スズキはようやく白状した。
「ようやく素直になったなあ。車海老、男女比率は圧倒的男だもんなあ」
「できたら楽しい青春を送りたいからね」
もう隠す必要はない。スズキは本能のままに答えていく。
「ほう、だったらやっぱ七菱がいいぜ。俺調べだと七菱の女子レベルはかなり高いぜ」
「……詳しく」
今度はスズキが身を乗り出す。
「隠れファンの多い文学少女、年上の幼なじみ、小悪魔系美少女、空手少女……他にもいっぱい……」
「ちょっと待って」
「どうした?」
「レベルの高い女子がいっぱいいるのは分かったよ。でもそれって……」
「ん?」
「みんな意中の相手いるよね?」
「正確には『いた』な」
「いやなんていうか、そういうことじゃなくて……あっ! 同中で七菱目指す女子いないの?」
最初からそう聞いておけばよかった。だが佐藤は不機嫌な顔になった。
「お前、それを俺に聞くのか?」
「え? 知らないの?」
「ぶん殴るぞ。……まあ、俺の知っている限りだと、陸奥氷香かな」
「へえそうなんだ」
学校で一、ニを争うほどの美少女だった。実はスズキも一年生の頃に限りなく恋愛感情に近いものを持っていた。
「――あれ? そういえば陸奥さんって……」
スズキはここ最近の記憶をたどる。だが、
「最近、見ないね」
「ずっと、休んでいるからな」
「病気?」
「失恋だからそうだな」
「…………それって」
「言わずもがな、先輩にだよ」
というわけで、次は「陸奥氷香」編です