表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリア後の物語〜負けヒロインたちのその後〜  作者: 元田 幸介
飯原八重子
12/49

夢破れ

 退屈な世界史の授業が終わると同時に、祐介は目を覚ました。何か夢を見ていた気がする。

「相原は進路どうすんだ?」

 それを思い出そうとする前に、前の席の山田が声をかけてきた。

「一応、進学予定だ」

 夢の内容を完全に忘れ、祐介は正直に答えた。

「そうだよな。いいなあ、俺も部活やっときゃよかったぜ」

「なんで部活が関係あるんだ?」 

「は? だって推薦あるんだろ?」

「何の?」

「だから野球で」

 ここでようやく、山田の言葉の意味を理解した。祐介は首を横に振った。

「普通に勉強していくつもりだけど」

 祐介の答えに、山田は目を丸くさせた。

「はあ~? 勿体無くね? お前ならいけるだろ」

「過大評価してくれるのは嬉しいが、俺はそんなに野球は上手くない」

「謙遜すんなって。野球部ベスト4に導いた原動力の一人だろ?」

「あいつが……いや他のみんなが頑張ってくれたからだ。俺はたまたまその中にいただけだ」

 そう、自分は大した奴じゃない。祐介は身をもってそれを知っていた。

「それに、俺はそもそも、大学行ってまで野球するつもりは無い」 

 兎にも角にも、祐介が推薦を受けない理由はそれだった。

「え、その頭で?」

 山田は祐介の頭を指す。というより触ってきた。

「最も効率的な髪型だから続けているだけだ」

 山田の手を払いのけ、祐介は坊主頭である理由を説明した。

「ふーん。あんだけ熱中していたくせに、冷めてんなー」

「……そうかもな」

 祐介は反論しなかった。

「じゃあよ、将来何するつもりなんだ? ってかどこ狙い?」

 山田は話題を切ることなく、進路を尋ねてきた。

「目標としては七春大学の経済学部を狙っている。将来はまだ考えていない」

「へえ七大か。あそこけっこう偏差値高いよなあ……」

「ああ。だけど届かないわけじゃない」

 この前受けた全国模試では、あと少しで合格圏内

「そういやお前、けっこう頭も良かったよな……けっ! これだからモテ男は!」

「自分から聞いといて怒るなよ。あとモテないからな」

「そう思ってんのはお前だけ! バレンタインあんなもらったくせによぉ!

 完全に進路からそれた話になった。こうなった山田は止まらない。祐介は授業までの残り数分、山田の愚痴を適当に聞き流そうとした。


「あー、俺もあんな恋愛してえ!」


「……何のことだ?」

 だが、山田の意味深な発言に、祐介は聞き返してしまった。

「ん? ほらアレだよ、一学期の終業式の」

「その日は準決勝だ」

「あ、そっか。じゃあ知らねえんだ、あの事件」

「事件?」

 何やら物騒な話のようだった。祐介はぐいっと椅子から体を乗り出した。

「あー、どう説明すっといいかなー……まあ早い話が、その日の終業式のとある出来事によって、この学校の美少女たちが、一斉に失恋したんだよ」


「……そうなのか」

 いまいちなんのことだかよく分からない。

「ああ。で、この一斉にってのがさ……」

 山田は祐介の疑問を一から説明し始めた。だが、

「嘘だろ、信じられん」

 説明を聞き終えた祐介は、懐疑的な目を山田に向けた。荒唐無稽、それこそ漫画のような話に、祐介は自分の耳を疑った。

「本当なんだって。ほら、動画もあるし!」

 山田はスマホを取り出し、動画を見せる。約三十秒ほどの荒い画質。そこは七菱高校の体育館、壇上に二人の男女が映っていた。

「――な、本当だろ?」

「そいつの名前は何ていうんだ?」

 動画の一部始終を見終えた祐介は、平静を装いながら尋ねた。

「ああ、それなら――」

 山田がある男子の名前を口にする。そこで担任が入ってきた。

「おっと、じゃあまた後でな」

 山田は体を前に向けた。

「……」

 授業が始まるも、祐介はまったく集中できずにいた。祐介は隣の席に座る女子をちらりと見た。

 女子はただ黙々と板書をノートに書き込んでいた。まるで機械人形のようだった。


(……そういうことか)


 祐介はようやく、隣の席の女子、飯原八重子が悪い意味で変わってしまった理由が分かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ