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怪物となった人間

 沈みゆく太陽が赤く染める交差点に小さな人集りが出来ている。ほとんどが下校中の学生で、歩行者用信号機の側に横たわる『それ』から一定の距離を取り、そのうち少数がスマートフォンのカメラを『それ』に向けていた。


「本当なんだよ……ブレーキが凍り付いたみたいに動かなかったんだ。こ、この車が壊れたんだっ……」


 老人は血の付いた自動車を指差しながら野次馬達に言い訳をするが、信じる者は1人もいなかった。


「信じてくれ……本当にっ、本当に『嘘 じ ゃ な い』んだ」


 このショッキングな事故はメディアであっという間に日本中に広がり、死亡した滝本倫太郎という名の高校生は、「高齢者による暴走車の新たな犠牲者」として日本中の同情を受ける事となった。

 しかし、滝本倫太郎の物語はここで幕を下ろさない。この出来事はただの幕間に過ぎず、この先かつて無い苦難を強いられる事となるなど、彼はまだ知らなかった。


◇滝本倫太郎 -そしてバケモノに-


 夢の中で交通事故に遭った事がある者は皆経験した事があるだろう。事故の瞬間、身体に強い衝撃のような強張りが襲い、それと同時に目を覚まして現実に引き戻されるという経験を。まさにそのような感覚だった。身体がびくりと強張り、突っ伏していたテーブルから顔を上げた。しかし、そこに滝本倫太郎の知る現実は無かった。

 鼻をつく強い酒の匂い、耳障りな酔っ払いの会話、中世のような古風な内装、そして正面に座っている、30代後半のスキンヘッドの西洋人。目が覚めた瞬間に彼と目が合い、思わず「うわっ」と声を上げてしまった。しかし、騒がしい酒場で倫太郎に注目する者などいなかった。正面のスキンヘッドの男を除いて。


「おはよう、リンタロウ。よく眠れたかな?」


 当然の事ながら、倫太郎は状況を飲み込めていない。自分の身に起きている事があまりにも自分の常識から離れ過ぎていて、脳が上手く処理出来ずにいた。


「分かるよ、君は混乱している。ついさっきまで通学路を下校していたのに、気がつけばオシャレな酒場にいるんだ。誰だって混乱する。そんな時に混乱を解きほぐしてくれるのは何だと思う? 強い酒さ。女将さん、リブスキー産のワインを2杯」


 カウンター近くの緑色のエプロンを着たふくよかな中年女性は柔らかい声で返事をした。


「彼女、美人だろう」


 正直倫太郎の好みからは離れていたが、小さく頷いた。


「ここは俺のお気に入りの酒場だ。このクソみたいな客の騒がしさも、薄汚れた内装も、美味過ぎないが不味くもない料理も、そしてあの女将も。何から何まで俺の好みだ。きっとリンタロウなら分かってくれると信じてる」


 女将は大きな尻を揺らしながら、2人にワインのジョッキを持ってくる。


「では、乾杯」


 飲む気なんて一切無かった。しかし、目の前の男の得体の知れなさから、本能が逆らうなと警告してくる。倫太郎は乾杯し、ワインを口に含んだ。初めての酒は喉を通るのを拒み、危うく吐き出しそうになってしまうが、気合いで飲み込んだ。


「落ち着いたかな? では本題に入ろう」


 男はジョッキをテーブルに置き、胸の前で手を組んだ。その指には銀や金のゴテゴテの装飾の指輪がずらりとはめてあった。


「君は不運にも死んでしまった。交通事故で」

「……はい?」


 突拍子も無い事に、倫太郎は間の抜けた返信をした。


「申し訳ない、私のミスだ。本来なら君は死ぬべきではなかった。君はーー」

「あー」

「……何か?」


 倫太郎はあまりのバカバカしさに一種で緊張が解けてしまう。


「まさかとは思いますけど……あなた、神様を名乗るつもりじゃないですか?」

「ご明察。私はフェリックス・ドルビニー。こう見えて神だ」

「なら次の台詞も当てますよ。君は私のミスで死んだから、お詫びに君を強くしてファンタジーの世界に転生させてあげよう」


 フェリックスと名乗った男は笑い声を上げた。そしてワインを一口煽る。


「鋭いね。その通りだよ。いや、君なら分かってくれると思ってた。君は『そういうの』が好きなんだろう? トラックに跳ねられた主人公が、異世界で面白可笑しく暮らす物語とかが。ばっちりリサーチ済みだ」


 倫太郎は笑った。つられるように、フェリックスも笑った。2人の笑い声が酒場に響き、そして倫太郎は勢いよく立ち上がった。


「馬鹿にしないでください。俺が好きなのは熱い少年漫画、手に汗握る青年漫画です。時間を忘れて読む事なんてザラだ。でも嫌いなジャンルもある。例えば、神様の介入する異世界転生とか。そう、あなたが再現しようとしてる事です。何かのサプライズで俺を楽しませようとしたのか何なのか知りませんが、訳も分からずこんな場所に連れて来られて迷惑です。こんな大掛かりなセットに仕掛人まで用意して、何がしたいのかも分からない」


 フェリックスは呆然とした表情を浮かべるが、すぐに悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「おー、そりゃ俺のリサーチ不足だ。こういう演出ならきっと気に入ってくれると思ってたんだが、違ったのなら残念だ」


 やっぱりそうだったか、と倫太郎は鼻を鳴らし、こんな茶番を終わらせようと出口へと向かって歩き出した。


「そう熱くなるなよ、とりあえず席に戻れ」


 フェリックスが言った瞬間。それは瞬きをするよりもずっと早かった。出口へと歩いていたはずの倫太郎は、フェリックスの向かいに座っていたのだ。

 倫太郎は絶句した。たった今、想像を遥かに超える衝撃的な体験をしてしまった。


「話は最後まで聞け、クソガキ」


 ちょうどその時、女将が大きな尻を揺らしながらワインのジョッキを2杯持ってきた。テーブルの上には飲みかけのジョッキは無い。まるで時間が巻き戻ったかのように。


「お前を馬鹿にしようなんてそんな気は無い。まあ、確かに神様に転生させられる物語の多くは女郎屋の安酒みたいなもんだ。味わいもなにもありゃしない。読んでてつまらない。認めよう。だが、俺はお前にそれを読めと言ってるんじゃない。その主人公になれと言ってるんだ。考えてみな? 強いパワーで皆を屈服させ、何でも自由にしていい世界。力にモノ言わせれば、お前こそが法律となる。そういう夢のような話、1度くらいは想像した事あるんじゃないか?」

「いいえ、興味ありません。例えあなたの言う事が事実だとして、俺はあなたに自分の未来を委ねる気なんて無い。だいたい、あなたは一度自分がどれだけ胡散臭いか、客観的に見てみた方がーー」


 フェリックスはパチンと指を鳴らした。周囲から一切の音は消え、ありとあらゆるものが静止した。倫太郎の口は「あ」の形のまま止まり、筋肉がピクリとも動かない。それでも意識だけは確かにある。だからこそ、自分がどれだけ大きな過ちを犯してしまったのかを実感せざるを得なかった。


「お前は自分の立場を分かっていないようだ。俺は優しいからな、怒鳴らずに優しく教えてやろう。最近の若い奴は怒鳴るとすぐに萎縮するから、俺もそれに合わせてやろうってんだ、なあ」


 喋りながら、フェリックスは隣のテーブルへゆっくり歩き、皿の手前に置いてある銀色に光る何かを手に取った。

 眼球すら動かせない為、視界の端でフェリックスがなにを拾ったのかは分からなかったが、想像に難くない。フェリックスは肉の脂でギトギトのナイフを倫太郎の目の前に差し出すと、そのまま左耳に当て、そして反対側の耳元で囁いた。


「大丈夫だ、優しくしてやる」


 フェリックスがナイフを引くと同時に、耳に激痛が走る。この世のものとは思えない痛み。しかし、表情1つ変えられない。

 ゆっくり、丁寧に、フェリックスはナイフを引く。それを繰り返す。気が狂いそうな痛みに、倫太郎は為す術もない。そして、耳を完全に削ぎ落とされたところで、フェリックスは血まみれのナイフを倫太郎の額に押し付けた。


「理解したか? 俺とお前の、立場の違いというものを」


 フェリックスはナイフを額から離すと、もう一度指を鳴らした。瞬間、倫太郎は叫んだ。左耳を押さえ、床に転げてのたうち回った。が、耳に痛みなど無かった。

 切られた筈の耳が、元通りにくっついている。そして、今の出来事を、誰も気が付いていない。叫び声を上げた倫太郎にすら、誰も気付かない。

 倫太郎は地面に横たわったまま、フェリックスを見上げた。恐怖で全身が震える倫太郎を、フェリックスは見下ろした。


「さて、リンタロウ。君に聞こう。力を得て新天地で楽しく生きたいか?」


 倫太郎は唇を噛み、頷いた。それしか選択肢が無かった。


「素晴らしい! では、新しい人生が君にとって良いものとなるよう祈ってる。リンタロウ、機会があれば、また会おう」


 フェリックスは手を二回叩いた。瞬間、倫太郎は闇の中へと引きずり込まれた。



 身体が重い。濁流の中を流された気分だった。平行感覚が失われ、天と地がはっきりしない。気持ちが悪いので動かずにいると、1分程で気分が少しだけ良くなってきた。重い瞼を開くと、視界には雑草のようなものだけが映り、自分が屋外の地べたに寝ているという事までしか把握出来なかった。

 倫太郎は上体を起こし、周囲を見渡す。太く、背の高い木が鬱蒼とする森の中だ。木と木の間隔はそこそこ広く、視界もある程度は良好。地面も平らなので歩くのには困りそうもない。しかし、今の倫太郎はそんな冷静な分析などできる状況ではなかった。

 気がついたら見知らぬ森のど真ん中にいる。それに恐怖を感じない人間などいるのだろうか。少なくとも倫太郎はこの状況で楽観できるほどメンタルは強くない。パニックに陥って頭を抱えた時。強い違和感を感じた。

 頭の形が違う。あり得ない、と、手でペタペタ触って確認しようとして、自分の手が視界に入った。あまりの衝撃に、またフェリックスが時間を止めたのでは無いかと錯覚しそうな程に身体が硬直した。

 目に映った手のひらは、人間のものとはかなり違っていた。記憶の中の手の2倍くらいの大きさはあり、灰色の毛で覆われ、手のひらには黒い肉球がある。

 これは自分の手ではない、そう信じたかった。何かの間違いであって欲しい。そう願った倫太郎は、身体の他の部分を直視する事が出来ずにいたが、意を決して、恐る恐る視線を放り出された足に向ける。灰色の毛で覆われた脚は、記憶のものよりもずっと太くなり、獣の後脚と同じ形に変形していた。

 もう一度顔に手をやる。髪の毛は無くなり、代わりに柔らかい毛が顔をびっしりと覆っている。鼻と口は突き出し、唇は大きく裂けていた。後ろを確認すると、尻の少し上、腰の少し下から尻尾が伸びている。触るとしっかり触った感覚があり、それが自分の尻尾だと思い知らされた。

 そして、体格が大きく変わったせいか、衣服の類は一切身に付けていない。

 想像なんてしたくなかったが、倫太郎は結論を出した。倫太郎は人狼のような化け物へと姿を変えられてしまったのだ。

 倫太郎は肉体の変化に呆然と口を開け、そのまま地面に仰向けに倒れた。


「これは夢だ。あのフェリックス・ドルビニーという男も、この体も、何もかも。目が覚めたらいつも通りの朝がやってくるに決まってる。このまま目を閉じていれば、いつかうるさい目覚まし時計の音が聞こえて来るはずなんだ。こんな事現実であるはずが無いんだ」


 しかし、いくら待っても状況は好転しなかった。太陽は沈み始め、森は不気味さを増してゆく。少しずつ不安な気持ちが増して行き、そして不気味さに適応するように感覚が研ぎ澄まされてゆく。両耳はピンと立ち、周囲の物音を搔き集める。控えめなコオロギの声、鳥のさえずり、風邪で葉が擦れる音が聞こえてくる。

 倫太郎は、このまま現実逃避しても埒があかないと気付き、葉の隙間から紺色の空を眺め、これからどうしようかと考える。こんな森の中に放り出されて、一体どうしろと言うのか。とにかく人の住む場所を見つけなければならない。そう思ったが、すぐにそれは駄目だと気がつく。こんな化け物の姿を人前に晒すとどうなるか、容易に想像出来てしまった。

 その事に気がつくと、もう何もかもが手詰まりのような気がしてくる。今まで自分で金を稼いだ事すら無いのに、他人に頼らずに生きて行く事なんて絶対に出来ない。

 

 ふと、倫太郎は家族の事を思い出した。母親と弟が1人。このまま倫太郎が帰らないと、2人はどれだけ心配する事だろう。2人の為にも、絶対に元の姿で家に帰らなければならない。それも、可能な限り早く。

 こうなったらプライドを捨て、あの男に助けを乞うしか無い。気は進まないが、倫太郎は両手と膝を地面につき、空を見上げて声を張り上げた。


「フェリックス! 先程の無礼は謝罪します! どうか……どうか俺を元の姿に戻してください! そして元いた世界に戻してください! どうか……!」


 倫太郎の声は森の中に虚しく響いただけで、返事は無かった。


「戻してくれないならせめて俺の無事を家族に伝えるだけでも……」


 やはり返事はない。倫太郎は溢れ出そうになる涙を堪えながら、思いっきり叫び声を上げた。叫んだというより吠えたと言った方が近いかも知れない。拡声器でも使ったかのような声は森全体の枝を震わせ、後にしんとした静寂が訪れた。

 これからどうすればいい? その問いが頭の中をぐるぐると回り、何も行動を起こせずに座り込んでいた。しかし、ふと倫太郎の大きな耳がピクリと動き、かすかな足音を捉えたのだ。

 一瞬で現実に引き戻されたようだった。人が近付いている。この姿を見られたら驚くだろうか。それでも話し合えばきっと分かってくれる。倫太郎はそう確信し、音の方を向いた。

 倫太郎から10メートルほどの所に生えている、周囲で1番太い木の後ろから、確かに人のこそこそ話が聞こえてくる。向こうが隠れているという事は、こちらには気付いているに違いない。とにかく警戒を与えないよう友好的に接する事だけを考えなければならない。

 倫太郎は片膝を地面についたまま両手を上げて戦意がない事をアピールし、声を上げた。


「危害を加えるつもりはありません。どうか怖がらず、俺の話を聞いてください」


 倫太郎の声が響き、隠れている者のヒソヒソ声は聞こえなくなった。倫太郎は両手を上げたままじっと待つ。

 中々出て来ないな、とそう思った瞬間だった。二人の男が大木の影から飛び出し、その手に構える弓にはしっかりと矢をつがえていたのだ。


「な!?」


 倫太郎は無意識に両腕で顔を覆った。次の瞬間、その無意識の行動が正解だったと痛感する事になる。二本の矢が喉を守る左前腕部に突き刺さり、強い痛みをもたらした。しかし、想像していた程の痛みは感じなかったのは唯一の救いだろう。


「痛ってえッ! いきなり何を!」倫太郎は叫んだ。

「×××××××××!?」

「×××!!」


 倫太郎は絶句する。考えてみれば当たり前の事だった。この森はどう見ても日本の森とは言えない。ここは海外だ。もしくは、本当に異世界なのか。どちらにしろ、日本語がここで通じる訳が無いのだ。

 おかげで交渉は失敗し、たった今殺されようとしている。二人は一定の距離を取りながら、もう一度矢をつがえた。

 やばい、と倫太郎は思った。二人はたまたま居合わせた一般人では無い。この落ち着き、そして喉の位置への的確な射撃。初めから化け物を殺す目的でここに来たとしか思えない。

 逃げねば。二人が矢を射ると同時に、倫太郎は膝をついた姿勢のまま地面を蹴ろうとした。が、足が変形して慣れぬ形になっていたのが災いした。姿勢を変えた瞬間に足がもつれ、顔から地面に激突してしまった。それだけではなく、倫太郎を狙っていた矢のうちの一本が脇腹に突き刺さった。

 倫太郎の頭から血の気が引いて行くのを感じる。脇腹の矢。最悪、致命傷になりうる位置だ。だが、絶望している暇なんてない。


「俺はバケモノだッ!! こんな傷がなんだってんだ!!!」


 自分に喝を入れ、心に巣食う恐怖心を叩き出した。歯を食いしばってもう一度地面を蹴り、弾丸のように飛び出した。

 想像を遥かに超えた。一体何が起きているのか理解した頃には、ずっと向こう側にあった筈の木の幹に右肩をぶつけ、そのまま地面を転がっていた。

 化け物と化した自分の脚力を完全に見誤っていた。こんな瞬発力、完全に生物の域を超えている。こんなのオーバースペックにも程がある。こんなスピード、制御出来る筈が無い。

 だが、自分の脚力に恐怖する時間など無い。とにかく奴らから逃げなくては。

 そう思った瞬間だった。バシュッという音と共に緑色の光が薄暗がりをカメラのフラッシュのように照りつけた。それが連続して2回。1回目は何の光か分からなかったが、2回目で理解する。1メートル程の杖を握った茶色いローブの男が、何も無い空間に緑色の光と共に突如出現したのだ。一瞬でそれは魔法使いだと確信した。

 こうなるといよいよもって信じなければならない。この世界は本当にファンタジーだ。


「××××××……××××」視界の外から、女の声が聞こえた。1回目の光で出てきた魔法使いだろう。何を喋っているのか分からない。だが、知りたいとも思わない。

 倫太郎はなりふり構わず地面を蹴る。今度は木にぶつからないように、スピードをグッと落とした。

 青白い閃光が胴体をかすめて木の幹に直撃し、幹が抉れた。予想はしていたが、やはりあの杖持ちは魔法を使う。矢よりもずっと恐ろしい。もしあの閃光が直撃したらどうなるか、想像したくない。

 でも矢ならまだ大丈夫だ。そんな事を考えてきっとバチが当たったのだろう。肩甲骨に矢が突き刺さった。瞬間、倫太郎はあまりの痛みに絶叫した。

 先程の矢と違う。肩甲骨の矢は注射器で溶岩を注入するが如く、筋肉と骨を灼熱の矢尻で焼いているのだ。倫太郎は慌てて背中の矢を抜こうと手を伸ばすも、その時には既に灼熱の矢は常温に戻っていた。

 これも魔法なのだろうか。もう何がなんだか分からない。頭が混乱しっぱなしだ。それでも、悠長に頭を整理している暇なんてありはしない。出来ることは、ただひたすら逃げる事のみ。

 倫太郎は走る。矢は耳元で風を切り、青白い閃光が薄暗がりを照らす。しかし、倫太郎の逃走はそう長くは続かなかった。

 足元に着弾した緑色の閃光。地面は抉れこそしなかったものの、鞭のようにツタが伸び、逃げる倫太郎の足首に絡みついた。

 倫太郎は地面に倒れる。すぐにツタを千切ろうとするも、ツタはより太く、より複雑に絡み、倫太郎が千切るよりもずっと早く体に巻き付き、自由を奪ってゆく。


「××!……××××!」

「×× ××××××××?」


 息を切らす慌てた様子の弓持ちと、杖持ちの女が何かを話し合っている。倫太郎に向けて杖を構えるもう1人の杖持ちも、こちらに注意を向けながら話に耳を傾けていた。

 何が何だか分からないが、今がチャンスと暴れる倫太郎。脳の血管が弾けるほど力を振り絞り、絡みついたツタを千切り、拘束を解いた。その直後だった。緑色の光と共に、倫太郎の意識はプッツリと途絶えた。


◇日野悟 -助けを求める者-


 村の猟師は木陰に隠れ、弓を抱きしめながら小さくなってガタガタと震えていた。彼は不運にも、キャンプの近くで怪物の群れと出くわしてしまったのだ。最悪の場合、弓で応戦する事を考えていたが、群れの中には身長2.5メートルを超えるトロールがいた。例え他の怪物を相手に出来たとしても、あの巨体と戦って生き残る自信など存在しなかった。だからこそ、怪物を可能な限り刺激しないよう、木の陰で小さくなるしか出来る事は無かった。


「サトル。さっきの人間、木陰に隠れてますよ。もしかしたらこちらに攻撃するチャンスを伺ってるのかも」


 黒いドレスを着て、少し巻いている黒の長髪、血の気を感じられない程に雪のように真っ白な肌が特徴の女。吸血鬼のサイラ・ロイネ・ヴァハソユリンキは、牙を剥き出しにして猟師の隠れている場所を睨んだ。


「放っておけ。奴は怯え切っている。こっちが手出ししなければ向こうも何もしてこない」


 鮮やかな赤い鱗に覆われた皮膚、手入れされた傷一つ無い二本の角。ドラゴンを連想させる姿のその男の名は、日野悟。3年前に死亡。その後、フェリックス・ドルビニーに怪物として転生させられ、この世界で3年もの間怪物として生きてきた。

 そして、サイラと悟の他に、身長2.5メートルをゆうに超え、手足が丸太のように太い、全身茶色の毛むくじゃらのトロールのナターナエル・ベスターと、1.2メートル程度の身長、灰色の肌、魔女のように尖った鉤鼻、とても長い耳を持つ、互いに瓜二つの双子のゴブリン兄弟のソニー・A・ベイカー、ディーン・S・ベイカーの計5人組がそこにいた。妖艶な黒のドレスを着るサイラと、全身毛むくじゃらで服を着る必要の無いナターナエル以外の3人は、皆が粗末な毛皮の衣服に身を包んでいた。


「サトル、おれハラへった」ナターナエルが涎を垂らしながら猟師の方を見る。

「またかナターナエル、さっきウサギを2羽と子ヤギ1頭を平らげたばかりだろう。帰ったらイノシシの肉をたらふく食わせてやるから、我慢するんだ」


 ナターナエルは指を咥えながら、名残惜しそうに「はーい」と従った。


「みんなも聴いたろう。さっきの森全体に響く程の悲痛な声を。人間ではない誰かが絶望し、助けを求めている。だが、場所が悪い。この森には俺たちの追っていたハンターの拠点がある。きっと奴らもこの声を聞いた筈。奴らよりも先に救出しなければならない。ぐずぐずしている暇はない、急ぐぞ」

「私も助けるのには賛成です。でも、ハンターの拠点を潰す計画はどうするのですか?」サイラは確認する。

「んなもん決まってるだろ!」ディーンはサイラを見上げながら彼女の腰を肘で小突いた。

「ハンターは逃げない!」ソニーはディーンに続き、そして反対側の腰を小突いた。サイラはため息混じりに2人を睨んだが、2人は意に介さない。

「でも気の毒なモンスターは?」ディーンが尋ねる。

「今すぐ助けが必要!」ソニーが答える。

「また俺たちのアース旅団が賑やかになるぞ!」息の合ったソニーとディーンが声を揃え、2人はハイタッチをした。

「あのね、別に助けに行くのを否定する訳じゃないの。ただ確認したかっただけ」サイラは悟に視線を向けた。「あなたの決めた事です。当然みんな従いますよ」


 皆は悟を見て頷いた。


「ありがとう」悟は少し嬉しそうに感謝の気持ちを述べた。「みんな。急ごう、もうハンターは動いてるかも知れない」

「はしる?」ナターナエルが聞いた。

「いや、飛んでいく」悟は答えた。

「この人数でか?」

「流石に無理があるぜ団長」ソニーとディーンはチラリとナターナエルを見た。

「ごめん。おれがでかいから」ナターナエルは申し訳なさそうに俯いた。

「大丈夫だナターナエル、お前は意外と軽い。心配するな」


 悟は木の密集していない、比較的開けた場所へ移動する。すると、突然体が肥大化し、二足歩行の姿からあっという間に巨大なドラゴンへと姿を変えてしまった。


「さあ、乗れ」


 サイラは悟の太い後ろ脚に捕まり、木の根程もある足の指の上に立つ。ナターナエルは小柄なソニーとディーンを肩に乗せ、馬に跨るように悟の背に乗った。

 巨大な翼をはためかせて、大空へと飛び上がった。サイラは冷静に地上を見渡し、ナターナエルはブルブルと震えながらしっかりとしがみつき、ソニーとディーンは遊園地のアトラクションを楽しむかのように片手を上げて大声を上げていた。

 しばらく森の上空を飛んでいると、何かを見つけたサイラが声を上げた。


「見つけました! まずいですよ、ハンターに捕まってます! 馬で引きずられてますよ!」

「くそ! 遅かったか?」ディーンが言った。

「いいや、体をそのまま引きずってるから多分生きてる。奴らからしたら生け捕りの方が儲かるんだ」悟が言った。


 悟は上空で旋回しながら下を確認する。恐らくまだハンター達は上空の悟達に気がついていない。


「着陸したら風圧で間違いなくバレるが、敵は少数。魔術師を呼ばれる前に一気に畳み掛けるぞ」

「了解」


 悟は翼をすぼめ、急降下する。もう少しで地面と衝突する、というところで大きく翼を広げ、地面スレスレで急ブレーキをかけた。ハンター達からわずか20メートルの距離だ。風圧で大量の土煙が舞い、突然の出来事に二人組のハンターは慌てて木の陰に隠れた。

 悟が着陸した時には、既に皆は地面に降りていた。ナターナエルは咆哮し、真正面に突進する。同時に、サイラは姿を霧へと変え、ソニーとディーンは身軽な身のこなしで木に登った。


「×××××××××!?」

「×××!! ×××!!」


 突然の襲撃に混乱するハンターの声と、馬のいななきが響く。迫り来る巨体のナターナエルにハンター達はパニックを起こしていた。それでも弓に手を伸ばそうとするが、弓を手に取る瞬間、2人の額と顎に石がめり込んだ。ソニーとディーンの投石具が見事に直撃したのだ。2人は倒れるが、顎に投石を受けたハンターは気絶には至らず、直ぐに起き上がろうとした。が、霧化していたサイラが姿を現し、ナイフのように伸ばした爪で喉を裂いた。一方の気絶したハンターも、ナターナエルが頭を踏み潰し、とどめを刺した。


「良いぞ、良くやった」


 人型に戻った悟はホッと一息吐いた。木の上から飛び降りたソニーとディーンはハイタッチをし、ナターナエルは踏み潰した死体を見下ろして指を咥えている。それに気づいたサイラが「食べちゃダメよ。ハンターは自分の肉に毒を仕込んでるから」と諭した。


「捕まってたモンスターは?」


 悟は周囲を探し、逃げ出していた馬を見つけた。駆け寄ると、馬の体にロープで繋がれたらウェアウルフの巨体が目に入った。手足、そして口がグルグルに縛られ、苦しそうに呼吸をしている。


「まだ生きてる。やはり生け捕りにされていたんだ」


 悟はウェアウルフの拘束を解き、刺さっている矢を抜いた。


「腹のやつ、内臓傷つけてないか?」ソニーが恐る恐る聞く。

「ガッツリやられてるよ。だが、ウェアウルフは自然治癒力が高い。はらわた程度なら肉を食べて2日も寝れば元通りだ。だが……」


 悟は背中の矢を抜いた。突き刺さっていた周辺の皮膚は炭化し、崩れてボロボロと地面に落ちた。


「魔術で矢に火の属性を持たせたんだろう、自然治癒力じゃどうにもならん。連れ帰ってちゃんとした治療を受けさせよう」


 再びドラゴンの姿になった悟の背に、気絶したウェアウルフの巨体をロープで固定するのにはかなり苦労した。固定されたウェアウルフの両脇にソニーとディーンが乗り、先程のようにサイラは足につかまった。


「すまない、ナターナエル。流石にこのウェアウルフとトロールのお前を同時に背中に乗せるのは無理だ。1人で歩いて帰れるか?」

「だいじょうぶ! おれ、ひとりでかえれる! イノシシ、たのしみにしてる」

「ああ、とびきりのを用意しておこう」


 悟は真っ暗になった空へ飛び上がり、星の海を泳ぐように飛んでいった。



◇オレリア・メルロー -怪物の名-


 日は完全に沈み、真っ暗になった森の中で、小さなキャラバン隊がキャンプを張っていた。ゆるいウェーブのかかった茶色の髪をゆるく後ろで縛った15歳の少女、オレリア・メルローは、くしゃくしゃの赤毛の40半ばの父親のアルベールと2人で荷物運びのラバ6頭にブラシをかけている。そして、痩せて背の高い、茶髪のストレートヘアを全て後ろで束ねた40代前半の母親のコレットは、ジャガイモのスープを煮込んでいた。


「オレリア、今日は足場の悪い道が続いたんだ、かなり疲れたろう。休みたいならそう言って良いんだぞ」アルベールは優しく微笑んだ。

「アル、あまりオレリアを甘やかしてはいけませんよ。オレリアだって小さい頃からずっと私達と旅をしているのです。この程度で音を上げるような子なら、そもそも連れて来てなどいません」コレットは低い声で厳しく言い放った。

「コレット、そんな言い方ーー」

「パパ、私全然平気よ。なんなら夜明けまでだって歩けるわ」

「ははは、そうかい? 流石パパの娘だ。キスしてあげよう」

「ちょっと! イヤ! やめて!!」


 アルベールは全力で嫌がるオレリアの頬に無理矢理キスをした。それを見ていたコレットも、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。

 3人は焚き火を囲んでジャガイモのスープを飲む。その間、3人は雑談をせずに仕事の話をしていた。


「このまま天気が良ければ、明日の夕方までにはモレストに着くだろう。そこで一旦食料を買い足して、そして明後日の朝ネリューズに向けて出発する。なにか質問は?」


 アルベールが聞くと、オレリアが反応した。


「モレストで食料が手に入らなかった場合はどうするの? あそこは小さな村だし、もうすぐ冬だから余所者に食料を売ってくれるかどうか分からないわ」

「その時は、進路を変えざるを得ないな。メリューズまでは食料が持たないから、代わりに西のドール=ベニアまで行く。ただ、ドール=ベニアへのルートでは、商人の失踪が相次いでいる。発見された荷物に金目の物が残されている事が多いと言う事は、間違いなく怪物の仕業だ。このルートは出来るだけ避けたい。あくまで苦肉の策だ」アルベールが答えた。

「でも、メリューズまでの道も絶対に安全とは言えません。常に周囲を警戒する事を忘れてはなりませんよ。万が一怪物と出くわしたなら、荷物を捨てて一目散に逃げるのです。良いですね」


 オレリアは頷いた。これ以上質問は出なかったので、彼女は食事に専念する事にした。

 十数分後。食事は終わり、荷物の整理をしていた時だった。なんとなく空の星を眺めていると、巨大な何かが上空を飛んでいるのが目に入った。


「うわ! あれ見て! ドラゴン!?」


 オレリアが指差す先を見たアルベールとコレット。空に見えるのは、間違いなくドラゴンだ。


「アル! すぐに火を消すのです!」

「分かってる!!」


 アルベールはラバの飲み水のバケツを掴み、焚き火にかけた。焚き火の火は消え、一気に辺りは真っ暗になる。


「ちょっと、とっくに通り過ぎて行ってるわよ。用心は大事だけど、慎重になり過ぎじゃない?」

「用心に越した事は無い。もしあれが腹を空かせて餌を探すドラゴンなら、すぐに私達を見つけて空からやって来ていただろう。しかし、よく気づけたなオレリア。本当に危ないところだった」

「念の為今夜はもう火を起こすのはやめましょう。明日は早いです、オレリア。もう寝なさい」

「うん、わかった。でも寝る前に、この子達の飲み水汲んでくるわ。すぐそこに川あったからね」


 オレリアは暗闇の中、手探りでバケツを見つけ出し、拾った。


「暗いから足元に気をつけるんだぞ」

「ええ、ありがとう」


 オレリアは暗闇の中、躓きそうになりながらも川まで辿り着き、バケツ一杯に水を汲んだ。重いバケツを抱えて慎重に歩いていると、ふと、枝を踏みつけるような音が聞こえた。恐らく心配になったアルベールが来たのだろうとオレリアは思った。


「もう、パパったら。これくらい1人で……」


 オレリアの視線の先に、月明かりに照らされた小さな影があった。黒い身体にポッコリと出た腹、尖った耳に鉤のある長い尾。その小さな怪物と、目が合った。

 オレリアの全身から血の気が引いて行く。よりにもよって1人の時に、怪物と出会ってしまった。身体は震え、刺激を与えぬようゆっくりと後ずさりした。

 しかし、あまりにも不運だった。後ずさりした先には木の根が張っており、それに引っかかって尻餅をついてしまった。バケツは大きな音を立てて水をぶちまけ、その音に驚いたのか、小さな怪物はギャーッと叫び、飛びかかってきた。

 一貫の終わりだ。そう思って目さを閉じた。が、数秒経ってもなにも起きない。恐る恐る目を開けると、涎を垂らしながら呼吸を粗くする怪物が、オレリアに噛み付こうとする寸前で止まっていた。少し身を引いたかと思うと喉に喰らい付こうとし、しかしまた身を引く。

 葛藤してる!? オレリアにはそう見えた。何故怪物がひとを食うのに葛藤している? 何故一思いに食らいつかない?


「×××××××××! ××××……×××××××!!」


 怪物はオレリアの目を見ながら声を荒げた。最初はそれを、意味の無い発声か、威嚇の類だと思った。しかし、違う。それは言語だ。意味は全く理解出来ないが、確かに言語だった。


「あなた……私に何かを伝えたいの?」

「×××××! ×××!」


 怪物はオレリアから少し距離を取り、オレリアの目を真っ直ぐ見た。


「信じられない……あなた、もしかして理性があるの? 他にもあなたのような怪物はいるの?」


 小さな怪物はオレリアの話に耳を傾け、そして首を傾げた。オレリアは考える。どうにかして何かしらの意思の疎通をする方法は無いのだろうかと。すると、ひとつだけ思いついた。

 オレリアは自分の胸に手を当てる。


「オレリア。オ、レ、リ、ア」


 こうすれば、もしかしたら自分の名前がオレリアである事を伝えられるかも知れない。


「オ、レ、リ、ア」


 もう一度繰り返し、胸に当てていた手を怪物の方に向けた。怪物は少し首を傾げて、そして口を開いた。


「オレ……リア?」


 オレリアは驚いた。確かにこの怪物は、オレリアの名を口にした。しかし、まだ理解したという確証はない。ただオウム返ししただけという可能性もあるからだ。しかし、次の怪物の行動に、ただのオウム返しではないという確証を得た。

 怪物は自分の胸に手を当て、そして口を開いた。


「マーク」


 あまりの衝撃に、オレリアは両目を見開いて両手であんぐりと開く口を塞いだ。

「マーク」そう言った怪物は手をオレリアに向け、「オレ……リア」と言った。


「マーク……そう、あなた、マークって名前なのね! 凄い! 私、この子と意思を通わせた!」


 オレリアは半分泣きそうになりながら、両手をマークの目の前に差し出した。マークはゆっくりとオレリアに近付き、オレリアの両手に自分の手を乗せた。


「オレリア」


 そう口にしたマークの顔には、笑みが浮かんでいた。

 事は一瞬だった。破裂音と共に青い光が闇を照らし、マークの体が宙を舞った。


「えっ」

「逃げなさいオレリア!!」

「走りなさい! 早くキャンプに戻るのです!!」


 オレリアは何が起きたのかを理解した。アルベールとコレットが、オレリアがマークに襲われていると勘違いし、魔術でマークを攻撃したのだ。


「パパ! ママ! 駄目ッ!!」


 止めようとしたが、遅かった。2人は宝石で装飾の施された杖から青い閃光を何度も何度も放ち、動かなくなったマークに追撃を続けた。マークはあっという間に原型すら無くなり、呆然とするオレリアだけが取り残されてしまった。

 2人はようやく攻撃を止め、そしてコレットは早歩きでオレリアの元へ寄ると、オレリアの頬を思いっきり叩いた。


「いったい何をしているのです! 怪物と面と向かって、いったいどういうつもりですか!? あなたが今こうして生きているのは奇跡なのですよ!」

「違う……」

「何が違うというのですか! 怪物は皆残虐な生き物です! 例え一瞬無害に見えたとしても、必ず牙を剥きます! 我々人間と怪物は! 全く別の生き物なのですよ! あなたはそれを分かっていない!」

「違うの! あの子は……マークは、確かに理性があった。ほんの少しだけど、心も通わせる事が出来た! なのに殺すなんて酷過ぎる!!」


 すると、アルベールがオレリアとコレットの肩に手を置いた。


「オレリア、もしかしたらオレリアの言う通り、彼には理性があったのかも知れない。意思の疎通が出来たのかも知れない。でも、だからと言って安全とは言えないんだ。

 パパの昔の友達に、子熊を育てていた人がいたんだ。彼は子熊を大事に大事に育てて、2人は仲良しのまま子熊は大人に成長した。大人に成長しても、その熊は本当に甘えん坊で、友達にべったりだったんだ。でもある日、その友達は庭に骨が散乱した状態で発見された。近くで見つけた熊の糞から、友達の髪の毛が出てきたんだ。

 つまりこういう事だ。いくら心を通わせられたと思っても、こっちは人間、相手は化け物だ。2つの間に、本物の友情なんて絶対に生まれっこない」


 オレリアはうつむいたまま、黙って話を聞いていた。


「ごめんなさい。もう2度としない」


 そう言うと、コレットはオレリアを優しく抱きしめた。アルベールも、2人を思いっきり抱きしめた。

 しかし、オレリアは決心していた。怪物の正体はいったい何なのか。怪物にも心はあるのか。それを必ず突き止めてやると、堅く心に誓った。

 MONSTER第1話、読んでいただき心から感謝します。楽しんで頂けたでしょうか。

 きっと皆さんは、フェリックスと倫太郎の酒場での会話でうっすら気が付いたと思いますが、私は異世界転生というジャンルが好きではありません。

 なのにどうして異世界転生を書いたんだ、バカじゃないの? と皆さんお思いでしょうが、はっきり言います。この小説の始まりは、ただの思い付きでした。

 異世界転生を好まない私が異世界転生を書いたらどうなるんだろう。

 それが全てのスタートです。まず最初に考えたのが、「主人公が騙されて、ほとんど強化されずに周りが敵だらけの地に落とされる」というものでしたが、ハードモード過ぎて却下。しかし、その発想をベースに、私の好きな人外要素をぶち込んだり、主人公3人にしたり、色々弄っていたらとても私好みのストーリーが完成してしまいました。

 私の苦手な異世界転生で、私好みの世界観が出来たとなると、もう文字に起こすしかないなと思い、「MONSTER」が完成した次第であります。


 さて、長々とした後書きでしたが、皆さんもこの話を教訓にして、あえて苦手な事にチャレンジしてみてはどうでしょうか。もしかしたら違った世界が見えてくるかも知れませんよ?

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