表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

彼とタバコ

作者: れく

私はタバコの臭いが嫌いだ。

以前、付き合っていた彼氏はタバコを吸っていた。当時の私は彼がタバコを吸う度に「臭い」と嫌味を垂らしていた。彼も彼で「習慣なんだから仕方がないだろ」と反論し、私達は毎日のように言い争いをしていた。私はタバコを吸う彼が何より嫌いで、何より大好きだった。彼のタバコを口に加え、馴れた手つきで火を付ける動作がどこか不思議と魅力的で素敵だったのだ。だから彼の喫煙を止めようとはしなかった。

私達が付き合い始めて一年を過ぎた頃に彼は癌で亡くなった。

中学時代から喫煙を常習化していた彼の身体はボロボロだった。

呆気なかった。

人間ってこんなに呆気なく死んじゃうんだなと思った。勿論悲しかった。悲しくて泣いた。涙が尽きるまで泣いた。

彼の葬儀を終え、二人で過ごしていたアパートに帰った私は、タバコの臭いが染み付いた一室の、テーブルに置かれたままのタバコの箱を手に取ると、中からタバコを一本取り出し、それを咥える。そして彼の愛用していたライターに慣れない手つきで火を付け、思い切り煙を吸い込んだ、と同時に咽せてしまった私は息が出来なくなるほど咽せこんだ。

やっぱり私には向いていないみたい・・・けれど、「なにやってんだよ」と彼の笑い声が聞こえたような気がして私は思わず笑ってしまった。それと同時に尽きたはずの涙が再び瞼から溢れ出し、テーブルに置かれたタバコの箱を濡らし始めた。

 

それから一年が経った今も私は、同じアパートで暮らしている。タバコの臭いが染み付いたこの部屋のテーブルには、今も彼の吸っていたタバコの箱とライターが置かれている。

 

私はタバコの臭いが嫌いだ。

それでも彼の残した、この思い出の匂いと共に私は生きていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ