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LEVEL3 -地図にない島-   作者: しろながすしらす
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第8話 悪鬼再び

日は完全に落ち暗くなっていた。集落に向かう途中一条が何かを感じ取ったようだ。


「待って、何かが来る」


 その場にいた全員が動きを止め身構えた。

 やがて草をかき分ける音とともに、あの悪夢のような唸り声が聞こえてきた。


「くそっ! マジでまだいやがったのかよ」


 真が吐き捨てるように言った。


 悪鬼は俺達の存在を認識すると同時に雄叫びを上げた。

 激しい憎しみと憎悪が混じったような不気味さに思わず体が震える。


 落ち着けやつの動きをよく見るんだ。


「おい、くせ毛野郎狙いはお前だ。気をつけろ!」


 真が叫ぶ。


「圭太! 右から爪を振り下ろすように攻撃が来るよ!」


 真に続いて一条が悪鬼の動きを先読みし叫んだ。

 圭太が素早く移動すると同時に悪鬼が飛び掛かり巨大な爪で圭太の後ろにあった木をなぎ倒した。


「くそが!」


 真が悪鬼を睨んだ瞬間、悪鬼の全身を包み込むよう炎が出現した。

 初めて見た時よりも、大きく、強力になっている。

 悪鬼はたまらず全身を激しく動かし暴れた。


「圭太! 急いでそこを離れろ」


 しかし、俺の問いかけは少し遅かった。

 暴れた悪鬼の腕が圭太に直撃し圭太が吹き飛ばされる。

 運の悪いことに圭太が吹き飛ばされた先は崖になっていた。


「うぁぁぁぁぁぁ!」 


 嘘だろ……


「圭太! くそ! この野郎がぁ!」


 俺はスローを発動し悪鬼に接近しナイフで怒りのままに全身を滅多切りにし崖めがけて渾身の力で蹴りつけた。


 スローを解除する。

 悪鬼は血まみれの状態で崖の方へ落ちていった。


「はぁはぁ、くそ! 何でこんなことに……」


「嘘……、そんな……」


 結衣さんが青ざめた顔をして崖の方を見ていた。


「ごめん、私が悪鬼の動きをもう少し予測できていれば……」


「一条は何も悪くない……、気にするな……」

 

「この高さだと、助からないかもしれないな……」


 真が悪鬼と圭太が落ちていた崖を見下ろしつぶやいた。


「あいつが偶然空飛ぶ能力に目覚めて助かったりしてないかな?」


 そんな都合よくことが運ばないことはわかってる。

 でも言葉にせずにはいられなかった。


 みんな気まずそうに下を見て俯いている。


「俺ちょっと下見てくるよ。もしかしたら生きてるかもしれない」


「早まるな、今行ったら危険だ。悪鬼がまだあと何体いるかわかんないだぞ! それにこの暗闇だ。奇襲を受けたらひとたまりもない」


「そんなことはわかってるよ! だからって圭太を見捨てるってのか!?」


「違う! この状況で行ったら俺達全員に危険が及ぶんだぞ! これ以上犠牲者を増やすきか! お前らしくもない少しは頭を冷やせ!」


 真のこれまでにない気迫に思わず言葉がつまる。


「お前の気持ちはわかる…………、でも今は、……わかってくれ……」


 真が絞り出すような声で言った。暗闇で表情はよく見えなかったが、心から心配してる様子だった。


「……すまない、取り乱してしまって」


「いや、俺の方こそすまない。つい感情的になってしまった。明日の朝一であいつを探しに行こう。……大丈夫、あの脳天気野郎のことだきっと生きてるはずだ」


「ああ、きっとそうだよな……、絶対、……生きてるよな」


 集落に戻ったあと、みんな眠りについていた。

 俺は色々な出来事が重なったせいか、なかなか眠りにつくことができなかった。


「……」


 みんながしっかり眠りについていることを確認してから、俺は足音を立てないようゆっくりと家を出た。


「すまない、みんな」


 心配して気にかけてくれて申し訳ないが、俺はどうしても圭太をあのまま放っておくことができなかった。

 大丈夫だ。悪鬼に遭遇したとしても、俺にはスローがある。


 コツもつかめて任意で発動できるようになったし、最初は2〜3秒ほどしか使えなかったがさっきは5秒ちかくスローな世界で動くことができた。


 大丈夫だ! これなら悪鬼に襲われても対抗できるはずだ。

 それに俺一人なら万が一犠牲者を出すこともない。

 俺は右手に持ったナイフを強く握りしめ集落の外へ歩いていった。


 歩いてる途中、肩に何かが触れ反射的に振り向いた。


「私だよ。そんな怖い顔しないでよ」


「一条!? お前なんでここに?」


「それはこっちのセリフでしょ! みんなが寝てるのをいいことにいなくなっちゃうんだから」


「何で俺の居場所がわかったんだよ」


「普段はいつも冷静な海斗くんが気づかないなんて重症ね。そんなスマホのライト照らしながら移動してたら、私じゃなくても気づくわよ」


「あっ」


 しまった! 全然気付かなかった。


「とにかく、お前は早く戻れ! ここは危険だ」


「冷静さを失った海斗くんを放っておくなんてできないよ」


「俺は別に平気だ」


「海斗くんのそういうところ良くないよ。自分は平気だって言って周りのことを考えないの」


「はぁ? 別にお前に迷惑はかけてないだろ?」


「海斗くんは周りを傷つけないことばかり考えて、自分のことはまったく何も考えてない」


「いいだろ、俺の体だ。俺がどうなろうと勝手だろ」


「海斗くんがもし死んだらすごく悲しいよ……、勝手に死なれて置いてかれる人の気持ちも少しは考えてよ」


「いや……、だって……」


 これ以上言葉は出そうになかった。

 一条が空いてる方の手を握ってくる。


「いいから、行くの! ついていくのも私の勝手でしょ」


「お前それはずるいって」


「ずるいのはどっち?」


「ごめん……、そのありがとな」


「良いってことよ! 無事この島から出たら何か奢ってよ」


 一条はがそっぽを向きながら言った。


「ああ、奢るよ、何でも」


「ありがとな一条。本当はちょっと心細かったんだ。一条が一緒にいてくれて心強いよ」


「そう。べべつに、その何ていうか、ただの気まぐれだから全然気にしないで」


 改めて礼を言われたのが照れくさいのか、動揺して声が少し震えていた。

 無意識なのか一条が握っていた俺の左手を先ほどより強く握りしめてくる。


 しばらく歩くと圭太が落ちたであろう崖の下にたどり着いた。

 しかし、そこには悪鬼の死体以外は何も見つからなかった。


「圭太どこに行ったんだ? ここじゃなくてもう少し離れたところか?」


「あの化物の死体からそう離れたところじゃないと思うけど」


 一条が俺と反対側の方向を歩きながら言った。


「こっちは何もない、そっちは――」


 最悪な光景を目の前に思わず言葉が詰まった。

 俺から離れた位置にいる一条の近くに血のように赤く染まった2つの光が見えた。


「一条早くこっちに来い!」


「えっ!」


 気配を殺し身を隠していた悪鬼が一条に飛びかかり木をなぎ倒すほどの凶悪な爪を振り下ろした。


 くそ! 間に合ってくれ!


 俺はスローを発動し一条目がけて全速力で走った。

 その間に悪鬼の凶悪な爪が一条の首元にどんどん近づいてくる。

 間一髪のところで一条を押し爪の射程内から遠ざける。自分も射程内から離れようとした瞬間にスローが解けてしまった。


 まずい! この距離じゃ避けれない。


「ぐぁっ!」


 スローの解除のタイミングを予測できなかった俺は悪鬼の攻撃をもろに受けて吹き飛ばされてしまう。当ったのがやつの爪ではなく手の平の部分だったのは幸いだ。


 もし一歩ずれてあの爪に直撃していたらと思うとゾッとする。


「痛っ……」


 致命傷はまぬかれたが、あの巨体から繰り出される攻撃は俺の体の自由を奪うには十分だった。


「海斗! やばい早くそこから逃げて!」


 だめだ。体が思うように動かない。

 悪鬼が不気味に低い唸り声を上げながら、殺気をむき出しの邪悪な視線をぶつけてくる。

 悪鬼がものすごい速さで巨大な爪を地面に引きずりながら俺の方へ向かってくる。


 ダメだ。もう終わったと思った瞬間、突然視界の横から巨大な岩が現れ悪鬼を吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた悪鬼が立ち上がろうとするが、ダメージが深いためか膝をついたまま、うめき声を上げている。

 さらに、倒れてる悪鬼を包み込むように突然発火した。


 悪鬼は断末魔を上げながら焼き尽くされていった。


「ったく、あれほど行くなっつったのに、先走りやがって!」 


「二人とも約束は守らなきゃダメですよ!」


「真、それに結衣さんまでどうして!?」


「私がたまたま起きた時に葵ちゃんが外に出ていくのが見えたんです」


「そうか、助かった二人とも!」


「助かったじゃねぇ、このバカ! 二度と勝手な行動とるんじゃねぇ! 次やったらお前を消し炭にするからな」


 真が手を差出してくる。俺は真の手を掴み立ち上がった。


「すまない」


「くせ毛野郎はいなかったのか?」


「ああ、この辺を一通り探したが見つからなかった」


「そうか……」


「みんな早く戻りますよ」


 結衣さんがこっちを見ながら手招きをしている。


「あっ、はい」


 俺らはあの集落に戻ることにした。


 帰りにもう一度周りを見たが圭太の姿はどこにもなかった。

 圭太死んでないよな……


 帰り道の途中、となりを歩いてた結衣さんに服を引っ張られた。


「ん? どうかしました?」


 すると結衣さんは一番前を歩いていた真の姿を確認したあとに、俺の方を見上げ片手を口元に当て口をパクパク動かし俺を見上げた。


 どうやら耳をかせってことらしい。


 俺は結衣さんの身長に合わせて姿勢を低くした。


「真くん、あんなこと言ってたけど、実は海斗くん達のこと凄く心配してたんですよ」


「そうなのか」


「うん、起こした時、すごく慌てた様子で今からあいつらを探してくる。ここにいたらあんたも危ない、悪いが一緒に来てくれって必死だったんですよ。それに海斗くん達を探す間、ずっとそわそわして落ち着きがなかったです」


「そうか、悪いことしちゃったな」


「そうですよ、海斗くん! 次こんなことがあったら今度は私が怒りますよ」


 そういって結衣さんは両手の人差し指を頭の後ろに当て鬼の真似をした。


「以後気をつけます」


「おい、お前ら何チンタラ歩いてんだ。早くしろ」


「はーい」


 結衣さんがこっちを見てウィンクした後、小走りで真について行った。

 俺もついて行こうと思ったら、今度は一条に服を引っ張られる。


「ねぇ、何の話してたの?」


「真が俺らのことかなり心配してたらしい」


「それだけ?」


「そんだけだよ」


 一条が小さくほっとため息をついたあと「そっか」と小さく呟いた。


「さっきはありがとね」


 そう言った後、一条は結衣さん達の方へついて行った。


 集落についたあと、俺らは今度こそ眠ることにした。


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