第6話 腹ごしらえ
「こいつで最後だ。さっさと運んじまおう」
「何か××のやつがえらく機嫌が良かったな。今回は大収穫だって」
「また例の……でやるのか?」
「ああ、…………なら誰にもばれることなく……できるしな」
「それにしても、××のやつも考えたもんだよな。あそこなら……に最適だ。それにうまくいけば…………だって……できる」
ボンヤリした意識の中で二人の男が会話している。
何だ、何の話をしてるんだ。
薄れゆく景色の中、俺はどこかに押し込まれる。
扉がゆっくりと閉まり、視界が徐々に暗闇に支配される。
視界が真っ黒になったところで、俺は意識が覚醒した。
……夢なのか? 夢にしては少し生々しい気がする。やっぱり俺は何らかの方法で意識を奪われ誘拐されたのか?
「おっ! 寝坊助目覚ましたか?」
「他のみんなは?」
圭太が親指で家の外をさした。
「ちょっと、外の空気吸ってくるってよ」
「そうか」
俺は圭太と一緒に家を出た。
「おはよう」
「おう、おはよう」
俺は一条と結衣さんに挨拶を返した。
真は二人と少し離れた場所にいた。
昨日のことがきまずいのか、少し距離をおいている。
どうやら、まだみんなとは打ち解けてないらしい。
昨日の出来事、少し威圧的な風貌と言葉使いからか一条と結衣さんも少し距離をおいていた。
俺はあいつは不器用なだけで、本当はそんなに悪い奴じゃないと思う。
一人であんな化け物に殺されかけたんだ。よほど怖い思いをしたに違いない。
真を初めて見たとき、攻撃的な態度とは裏腹に何か強い不安に怯えてるような印象を受けた。あいつはきっと自分の身を守るために必死になっていたんだろう。
これからみんなで協力していくんだ。どうにかみんなと仲よくやっていけるようにしたいと俺は思った。
「おーい、真そんなとこで何してんだ。わかった、小便だろ?」
こういう時、圭太の無神経さはありがたい。普段は少しうっとおしいが……
「ちげーよ! てかこれからどうすんだ?」
「俺らをこの島に連れてくるのに恐らく船やヘリを使ったはずだ。俺らを連れ去った犯人はもうこの島にいないかもしれないが一応調べてみる価値はある」
連絡手段を絶たれた今、何かしら、この島を脱出できそうな乗り物を探すしかない。
しかし、俺らの中に船やヘリが操縦できるものは恐らくいないだろう。
それに、ここが日本からどのくらい離れているのか検討もつかない。
問題は山積みだが、これ以上先のことは考えてもしかたがないので、とりあえず移動手段を探すことにした。
「でもよー、俺が島をぐるっと周った時は船なんかなかったぜ」
圭太が両腕を頭で組みながら言った。
「もしかしたら、私達の様子をこっそり確認するために犯人が戻ってきたりしないかな?」
一条が、自信なさげな顔をして言った。
「可能性としてはゼロではないと思います……」
結衣さんが一条の意見に同調したが、あまり期待はしていない様子だ。
「浜辺を探す側とヘリの着陸できそうな場所を探す側で二手に別れるか?」
真が周りに視線を配りながら言った。
「いや、だめだ。もしかしたら、悪鬼がまだこの島にいるかもしれない。二手に別れるのは危険だ。それに今唯一、悪鬼に対抗できるのは俺とお前だけだ」
「それもそうか」
「悪鬼ってあの一匹の他にいるんですかね……」
結衣さんが不安そうなに視線を泳がせている。
「わからない。あの一匹だけかもしれないが、念のためだ」
俺達は川で水分補給した後、浜辺に向かうことにした。
「腹減ったー」
「私も……」
「私もお腹ペコペコです」
「そういえばもう何日もまともに食事とってないな……」
人間は水さえあれば、しばらく食べなくても生きていけるというが、さすがに体力的にも精神的にも辛い。
「そうだな、探索する前にまず飯でも食うか」
真が当たり前のように言った。
「えっ! 真、何か食い物持ってんの?」
圭太が期待するような眼差しで真を見た。
「あるわけねぇだろ、調達してくんだよ」
「何を?」
「魚だ」
「魚? でも俺ら何も道具持ってねえぞ」
「魚捕まえんのに道具何て必要ないだろ」
「えっ、お前マジで言ってんの?」
すると真は俺達から少し離れ、海が見えるちょっとした崖になっている場所へ移動した。
崖の下を覗き込むみ頷いたあと、ズボンのポケットから小さな網のようなものを取り出した。少し古びた感じからしておそらく、あの集落に置いてあったものだろう。
そして、俺らの方へ振り返った。
「俺は魚捕まえてくるからお前らは先にあっちの浜辺で待っててくれ。三十分くらいしたら俺もそっちに向かう」
「あっ、おい!」
真は浜辺を指差したあと、俺の問いかけを聞かずに海に飛び込んでしまった。
「あいつ、何もん?」
圭太がさっきまで真が立っていた場所を見ながらつぶやいた。
「魚って素手で捕まえれるものなの?」
「いや、普通の人は無理だと思います」
一条の疑問に結衣さんが答えた。
俺たちは浜辺に向かった。
すると三十分後くらいに真が戻ってきた。
真はこっちに向かいながら、右手に持った網を持ち上げどうだと言わんばかりに戦果を見せた。
網はには、はちきれんばかりの大量の獲物がいた。
「おー!」
浜辺座り込んでいた一条と結衣さんが立ち上がり、まるで子供のように歓喜の声をあげていた。
「お前最高だ、愛してるぜ!」
圭太が真の方へ走り抱きつこうとしたが、真は「ええい、気持ち悪い、寄るな!」と左手で遮りよけた。
「まさか、本当に捕まえてくるとはな、しかも大量じゃないか」
俺は素直に驚いた。
「まあな」
真はまんざらでもないと言った感じで微笑んだ。
俺らはその辺の燃えそうな枝、どこから流れついたかわからない木材を集めた。
木材をナイフで切り串の形になるようげずった後、魚の頭から尾の方へ向けて串刺しにする。
それを寄せ集めた木の枝の中心を囲むように立てた。
準備が完了すると真が、木の枝に発火し火をつけた。
「真くん、すごいね。道具もないのによくこんなたくさん魚捕まえることができましたね」
結衣さんが感心した様子で言った。
「子供の頃よく、親父と兄弟でよく魚捕まえてたからな。このくらいはわけない」
真はどこか照れくさそうだ。
「へー、真くんの地元はよく魚とれるの?」
一条が真のほうを見て言った。
「まあな、俺の地元は漁業が盛んでな。親父が漁師やってて幼い頃にいろいろ教わったんだ」
「何かすごいね。今時珍しい」
話してる間に魚はいい焦げ目がつき、身からは内側からあふれでるように油が滲み出ていた。風がふくたびに食欲をそそる香りが鼻孔を刺激してくる。
「やっべ、超うまそー、そんじゃお先にいただきまーす」
待ちきれなくなった圭太が魚にかぶりついた。
「うおぁぁぁぁ!! うまい、うますぎる! 何なんだこのうまさは」
圭太のリアクションを見た一条と結衣さんが思わずゴクリっと唾を飲み込み、魚に手を伸ばした。
「美味しい!」
二人とも満面の笑みで魚を頬張っていた。
みんなの美味しく食べる姿につられて俺も魚を頂くことにした。
「こっこれは!?」
うますぎる!
久々のご馳走にありつけた俺たちは何かに取り憑かれたように黙々と魚を食べていった。
あれだけあった魚もすぐに食べ終えてしまった。
「ぷはっー、食った、食った!」
「すごく美味しかった」
みんな満足げな様子だ。
「本当だな、真がいなけりゃ俺たち全員飢え死にしてたかもな」
「そうですね。真くんの――」
言いかけた結衣さんが突然後ろを気にするように振り向いた。