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LEVEL3 -地図にない島-   作者: しろながすしらす
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第5話 悪鬼

 


 村人は餓えや病に苦しんでいた。


 大自然の驚異、命を脅かす危険な生物、過酷な環境下で命を落とす者は多かった。


 そんな中、この村に隕石が落ちた。隕石が落ちてから数日後、村に原因不明の病が流行し次々と死者が続出した。

 不幸が重なり、ついには村の存続の危機が訪れた。


 頭を抱えた村長は村人のみんながいつか幸せな生活を送れるようにと何度も神に祈った。


 それを、見た神様は5人の男女に特別な力を与えた。


 5人の男女は村を救うために、神から与えられた力を使い必死になった。


 5人の男女と村人が互いに協力しあうことにより、病人は減り、飢えに困る者もいなくなり村に平和が訪れた。


 しかし、平和は長くは続かなかった。


 力を持て余した5人の若者は村人のためではなく、己の欲望を満たすために力を使うようになった。


 強力な力を持っていたため、村人は逆らうことができず、従うしかなかった。


 抱えていた不安、恐怖が極限に達した一人の村人がついには悪鬼になってしまった。


 人間とは思えないような巨体、黒く染まった不気味な皮膚、獰猛な爪と牙で見境なく人々を襲った。


 悪鬼の出現に恐怖と絶望を覚えた村人は感染するかのように次々と悪鬼になっていった。


 ついには5人の若者を除くすべての村人が悪鬼になってしまった。


 悪鬼は激しい怒り、憎悪をぶつけるように5人の若者に襲い掛かった。


 焦った5人の若者は力を使い次々と悪鬼を殺していった。


 罪のない人々を殺した神様は怒り5人の若者を地獄に落とすと言った。


 5人の若者は泣きながら許してくれと懇願した。


 すると、神様は5人で殺し合い生き残った一人を助けよう。それができなけければお前らは悪鬼に食い尽くされるだろうと言った。


 5人の若者は……





 古びた大きな板に血のような色をした文字で書かれていた。

 文章は途中で途切れている。


「何これ、気味が悪い」


 一条が血の気が引いた顔をしている。


「ここに書いてある村ってもしかしてさっきの集落のことじゃねぇか?」


 圭太が俺の方を見て言った。


「さぁどうだろうな」


 5人の若者、特別な力、俺と炎を操る男以外は何も特別な力を持っていないが、もし今後こいつらも特別な力を得るとしたら、このわけのわからないシナリオに近づくわけか……


 それにしても、悪鬼とは一体……


「俺らをここに運んだやつの意図はわからんが、俺らは最後の一人になるまで殺しあわなければあの化け物に殺されるんだ」


 炎を操る男の瞳の奥には恐怖が映っているように見えた。


「あの化け物?」


 嫌な予感がした。木に刻まれた巨大な爪痕が頭をよぎる。


「ああ、俺はお前らに会う前に悪鬼とやらに殺されかけた」


「嘘だろ、こんなおとぎ話みたいなことあってたまるかよ」


 圭太が信じられないといった様子で口を開いた。


「本当だ。俺は現にこの目で見たんだ。大きな爪を持った、全身真っ黒な生き物をな」


「俺はそいつの言っていることは本当だと思う……」


「でもよー、海斗……」


「あの木にあった巨大な爪痕……、どう考えても普通の生き物じゃない」


 能天気な圭太もさすがに動揺を隠せない様子だった。


「あの特別な力って何のことなんですかね、私は特にそんなものはないんですけど……」


 端っこにいた結衣さんが不安そうに言った。


「俺は火を操れる。それにこいつも異常な速さで動くことができた」


 男は俺を見ながら言った。


「マジか、海斗!?」


「ああ、いつのまにか使えるようになってた」


「そういえば私も……、圭太危ない! しゃがんで!」


 何かを言いかけた一条が突然叫んだ。

 一条の危機迫った叫びにいち早く反応した圭太がしゃがみこむ。

 そのわずか、数秒後、圭太が立っていた位置に巨大な岩が飛んできた。

 しゃがんでいなければ、間違いなく直撃していただろう。


 岩が飛んできた方向から、不気味な唸り声とともに圭太を殺そうとしたやつが正体を現した。さっきのおとぎ話の悪鬼そのものだった。


 不気味に全身黒く染まった皮膚、むき出しの大きな犬歯、血で赤く染まったような凶悪な目つき、異常なほど発達した両手の爪、2.5メートルほどの人型の形をしていた。


「嘘……」


 結衣さんはショックのあまりその場で硬直していた。


「おいおい、マジかよ。洒落になんねぇって!」


 圭太が立ちあがりゆっくりと後ずさりながら言った。


「くそっ! またきやがったな!」


 悪鬼は結衣さんの方めがけて巨体を揺らしながら物凄い速さで走って行った。


「あぶねぇ!」


 圭太は恐怖で身動きのとれない結衣さんの方へ向かって飛び込んだ。

 間一髪のところで巨大な爪から逃れた。


「くっ、痛ッ」


「大丈夫か、圭太!」


「大丈夫、少しかすっただけだぜ」


 圭太の肩から少し血が流れていた。


「おい、力を貸してくれ。やつの動きを少し止めることができるか?」


 俺は炎を操る男に言った。


「馬鹿言うな! 何でこれから殺しあうやつらに協力しなきゃいけねぇんだよ!」


「こんな状況でそんなこと言ってる場合か! このままじゃ最悪全員やられるかもしれないんだぞ! ……それに俺は別にお前のこと敵だと思っていない」


「……わかった。だが俺もそう何度も能力を使えるわけじゃない。それにあの速さだ。うまく当てれるかはわからない」


「信じる」


「そうかよ」


「海斗そっちに来るよ!」


 一条が叫んだ。

 悪鬼が俺の方へ凶悪な視線を向けてくる。


「死にやがれ!」


 悪鬼の顔の周囲が突然発火した。悪鬼はうめき声をあげながらその場で、巨大な爪を振り回して暴れている。


 今だ! 大丈夫きっとできるはずだ。

 俺が強く思い込むとスローな世界が訪れた。


 素早く悪鬼に接近し巨大な爪の軌跡を予測しながら、やつの横に飛び込みナイフで首めがけて狙いをつけた。

 やつの首元切りつける寸前にスローな世界は解けたが、死角に入っていたため、やつの凶悪な攻撃を避け、頸動脈を掻っ切ることに成功した。


 悪鬼は噴水のように血を流し、その場を何歩か動いた後、断末魔をあげゆっくりと倒れていった。


「やったか?」


「ああ」


 悪鬼はピクリとも動かず倒れていた。


「何なんのこいつ……」


「わからない、とりあえず、ここは危険だ。一旦さっきの集落に戻ろう」


 俺らは集落に戻ることにした。


 炎を操る男、竜神真は俺と同い年だった。

俺らに会う前に悪鬼に遭遇したらしい。その時に突然炎を操れるようになり、炎で悪鬼を巻いて逃げ出した時に偶然あの木の板を見つけたらしい。


 その後、俺らを発見し俺らを殺さなければ悪鬼に殺されると思い込み襲ってきたらしい。真もこの島に来るまでの記憶を失っており、気づいたらこの島にいたとのことだった。


 やっぱり俺らと同じ状況であることに変わりはなかった。

突然使えるようになった謎の力、悪鬼の存在、それにあの板に書いてあること……、まるであのシナリオを再現しようとしているみたいだ。


 謎は深まるばかりだ。

殺し合いをして最後の一人が生き残っても助かる保証はどこにもない。話し合いの結果、何か別の助かる方法を探すことにした。


 俺らに敵意むき出しだった真も納得してくれた。


「なぁ、その能力使うってどんな感じなんだ?」


 圭太が俺の方を見ながら言った。


「んー、何ていうか口じゃ説明しづらいな」


 すると真が代わりに答えた。


「手足を動かすような感じとなんら変わりない。視線を送った場所に炎が燃えるのをイメージするだけだ」


「マジかよ。そんな簡単にポンポン出せたりすんの?」


「能力を使うにはある程度の集中力が必要だ。それに体力も消耗するし何度も使えるわけじゃない」


「へー、それにしても何で海斗と真だけが使えるんだろうな。さっきの話だと、全員使えるみたいな感じだったのになぁ」


「私も、もしかしたら使えるかもしれない……」


 圭太の話を聞いていた一条が呟いた。


「へっ、マジ!」


 圭太が驚いた顔をしながら一条の方を向いた。


「うん、何ていうか周りの気配に敏感になる時があるの、それにたまに数秒先の出来事が見えることがあるの」


「あっ、じゃあさっき俺にしゃがめっていたのも?」


「うん、岩に直撃して木に押しつぶされた圭太の姿が見えた」


「マジかよ! こっわ、いやー助かったよ葵ちゃん、今度ジュースおごるぜ!」


「結衣さんは何か変わったことある?」


 俺が尋ねると結衣さんは首を振った。


「いえ、何も特別変わったことはないと思います」


「そっか―、じゃあこんなかで一般ピーポーは俺と結衣ちゃんだけかぁ」


「何で突然こんな妙な力が使えるようになったんだろうな」


 考えても謎は深まるばかりだった。今日は夜遅いためとりあえず寝て、また明日何か脱出するヒントがないか探すことにした。


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