第4話 炎を操る男
化け物ではないことに安心した俺はその場にナイフを置き外に出た。
「あんたも、もしかして迷子か? 実は俺達も迷子なんだ。何か知っていることがあったら教えてくれないか?」
男は背丈180近くあり、体格もしっかりしている。力強い目つき、短髪で前髪は後ろ側に流しているため男らしい顔立ちが際立っている。
「俺達? 何人いるんだ?」
男は低い声で言った。警戒しているのか敵意むき出しの視線をぶつけてくる。
「俺含めて4人だ」
「海斗くん、危ない!」
後ろから覗いていた、一条が俺に向かって飛び込んでくる。突き飛ばされた俺は一条と一緒に倒れこんだ。
すると次の瞬間俺が、先ほど立っていた場所が突然爆発するように発火した。
何が起きているのか全く理解できない。何だ今の爆発は?
爆発した場所にはまだ宙に炎が浮いていた。炎は空中の酸素を焼き尽くすようにその場をとどまっていた。
「お前らを殺せばいいのか……」
男がそう言ってしばらくすると先ほどまで宙を浮いていた炎は消えていた。
「待て! 何言ってんだ。さっきの炎はお前がやったのか?」
「悪いが死んでもらう」
「うわっ!」
男が言い放った瞬間、俺のすぐ横の位置が激しく発火した。一歩ずれていたら顔を焼き尽くされていただろう。
「くそっ! まだうまくコントロールできないか」
何が何だかわからない。何でこの男は俺達を襲ってくるんだ。
それにさっきの言動……、炎を操れるのか?
「何で俺ら狙う! 何か恨みでもあんのか?」
「とぼけんな! お前らも能力者なんだろう。やられる前にやるだけだ。死ね!」
能力者?
何の話をしてるんだこいつは?
ヤバい! このままじゃ本当に殺される。
そう思った瞬間、まるで時間の流れが遅くなったかのように周囲の空気、音、男の表情動き、目に映るすべての景色がスローモーションに見えた。
そういえば交通事故などの生命の危機にスローモーションに見えるって話を聞くがあれは本当だったんだな。
あれはたしか脳が生命の危機を察知した時、他の部位の機能を低下させてまで脳の機能を最大限にしようと爆発的に情報処理速度が上がるんだってな。
その結果目から入った情報をうまく処理することができずコマ送りになり、スローモーションになったかのように錯覚するって話だったな。
俺は死ぬのか……
目の前に小さなマッチの炎のようなものがぽつりと現れた。小さな炎ゆっくりと徐々に大きくなっていった。
なるほどこの小さな炎が驚異的な速さで広がって爆発したように見えたのか。
避けなければ、焼き尽くされる。どうにかして体を動かさなければ。
俺の身体は何故かスローに見える世界でいつも通りの感覚で動くことができた。
そしてこれから発火するであろう場所を避けた。スローの世界はまだ終わらず、炎はまだゆっくりと動いている。
さっきからいったい何が起きているんだ?
今は原因不明の現象について考えても仕方がない。
とりあえず、あの男を止めるのが先決だ。
俺は男の方へ走った。炎をかわされた男は焦り右手で握り拳を作り殴りかかる体制に入った。俺は殴るモーションに入る前に、男に接近し、渾身の力で男の鳩尾に狙いを定め殴りつけた。
殴り終えると、ほぼ同時のタイミングでスローな世界が終わり、いつも通りの時間が流れた。
男はその場でゆっくりと崩れ落ちた。
「はぁっはぁっ、何だったんだ今のは!? それに……」
「海斗くん! 大丈夫!?」
一条が駆け寄ってくる。
「ああ、大丈夫だ」
「海斗くん、普通じゃ考えられない速さで動いてたよ。どうなってるの?」
「俺にも何が何だかよくわからない」
スローな世界で動いていた俺は実際はとんでもない速さで動いていたのか。だとしたら体中があちこちが痛いのはさっきの妙な力の反動なのか。
「どうしたんだお前ら!」
「何があったんですか!」
圭太と結衣さんが慌てて駆けつけてきた。
「何かすごい爆発音みたいな音が聞こえたぞ」
「そこに倒れている男の人は誰ですか?」
「わからない。いきなり襲い掛かってきたんだ。よくわからないが、炎を操っていた」
「人が炎を操る? そんなのありえんのか?」
圭太が驚いた様子で聞いてくる。
「俺も信じられないが実際にこの目で見た」
「で、何でその男は倒れてんだ?」
「海斗くんが倒したの」
俺の代わりに一条が答えた。
「お前よくそんな危なそうなやつ倒せたな」
「まぁ、ちょっと色々あったんだ」
「海斗くん、この男の人、気絶してるみたいだけど、どうする?」
「とりあえず、家まで運ぼう。目を覚ましたら色々話を聞いてみたい」
「本気で言ってるの? さっきまで私たちを殺そうとしてた相手だよ! もしまた襲われでもしたら……」
「そん時はそん時だ。それにこいつは何か色々と知っている感じだった。この島を脱出するための何かを知っているかもしれない」
「でも……」
一条が心配そうに見つめてくる。
「大丈夫だ。俺が何とかする。信じてくれ」
話せば分かり合える。なんとなくそんな気がした。
それにあれだけの勢いで殴りつけたんだ。相手だってそれなりに深手を負ってるはずだ。そう簡単に手出しはできないはずだ。
「……うん、わかった」
少しためらう様子だったが一条は頷いてくれた。
「それにしてもイカチー男だな」
圭太が倒れている男をじろじろ見ながら言った。
俺たちはとりあえず男を家に運んだ。一条と結衣さんは警戒してるためか、男と離れた位置にいた。
しばらくすると男は目を覚ました。
「……お前、ッく!」
男は苦しそうに腹をおさえた。さっきの一撃がよほど効いていたみたいだ。
「起きたか」
「何故俺を殺さなかった、絶好のチャンスだろうが」
「別にお前を殺す理由は何一つないしな、お前は何で俺達を襲ってきたんだ」
「生き残るために決まってんだろ。それ以外に何がある?」
「どういう意味だ? 何で俺らを殺すことが生き残ることにつながるんだ?」
「はぁ? 何言ってんだ!? お前ら能力者なんだろう? だったら最後の一人になるまでやるしかないだろう」
「さっきも言ってたが能力者って何のことだ。何でお前は炎を操れるんだ?」
男は怪訝な顔でこっちを見てくる。
「何で使えるか何て知るかよ、確かなのはこの力を使って最後まで生き残った奴が助かるってことだろ。これはゲームだ」
「ゲーム?」
「ああ、お前らあの薄気味悪い掲示板を見なかったのか? 5人の能力者で殺しあうんだ。そのうちの一人だけが生き残れる」
「掲示板?」
どうやら掲示板とやらに何かしらのヒントがあるらしい。
「ああ、この村の外れにあっただろう?」
俺は確認のためみんなの方に視線を送ったが全員首をふっていた。
「そうなのか?」
「お前ら、そんなことも知らないのか?」
「とりあえず、その場所に案内してくれ」
「はぁ? 何で俺が」
「だってお前しか知らないだろう。このまま話してもらちが明かないし、それに目的もわからずに殺し合いさせられるなんて御免だ」
「……わかったよ。こっちだ」
男は納得いかなそうな顔でゆっくり立ちあがった。