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LEVEL3 -地図にない島-   作者: しろながすしらす
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第3話 同じ境遇

 日も落ち少し暗くなってきたため、俺らはあの集落に戻ることにした。集落に戻ると一人の子供が家の周りをうろうろしていた。


 何かを調べている様子だ。

近づいてみると、向こうもこちらの存在に気づいたようだ。


「おーい、お前も迷子か、とりあえず仲良くしようぜー」


 俺は手を振りながら大声を出している圭太のわき腹を肘で小突いた。


「おっふ、ちょっと海斗何すんの? 肋骨折れたらどうすんのよ?」


「別にどうもしねぇよ。お前が話すと警戒されるし、話が面倒臭くなるから黙っててくれ」


「ひどいよ。海斗くんー」


 圭太はとりあえず無視することにした。

 

「大丈夫? あなたも気づいたらこの島にいたの?」


 一条が優しく少女に声をかけた。


「あっ、はい、気づいたらこの島にいました。どうしてここにいるのかはまったく覚えていなくて、それで歩き回っていたら偶然ここを見つけて……、あなた達もそうなの?」


 一人でこんな場所にいてとても不安な思いをしていたに違いない。混乱してもおかしくない状況にもかかわらず、物静かで落ち着いた様子だ。


 一条何て出会いがしらに俺を殺そうとしたし、圭太は人として色々アウトだったし……


 幼い見た目とは裏腹にしっかりした印象だ。

小学生くらいの女の子で背丈は一条より頭一個分くらい小さく、たぶん130センチあるかないかだろう。幼い顔つきに長い黒髪、クリッとした大きな瞳、まるで人形みたいだ。


「やっぱりそうか。俺たちも全く同じだ」


「そうなんですか!」


 少女の顔が少し明るくなった。同じ境遇の人がいてよほど安心したのだろう。


「ああ、俺らも正直何が何だかわからない。とりあえず互いに知ってる情報、覚えていることを話そう」


 とりあえず、家の中に入り話し合いをしたが、大した情報は得られなかった。

 共通しているのはこの場にいる全員記憶がすっぽり抜けており、誰ひとりこの島に来るまでの出来事を覚えていないことだった。


 小学生みたいな子、東雲結衣はおどろくことにこの中でも最年長で大学一年生だった。

妙に落ち着いた様子も納得だ。


「えっ! 結衣さん大学生なんですか!?」


 一条が思わず大きな声を出した。


「はい、こんな見た目なのでいつも小学生に間違われるんです。この前何か……」


 結衣さんの表情がだんだん暗くなっていく。表情に合わせて語尾も少しずつ小さくなっていく。どうやらよっぽど気にしているらしい。


 それを、見た一条があわててフォローしようとする。


「あ、いや、えーと、そういう意味じゃなくて、何ていうか結衣さん年齢の割には少し若く見えるというか、高校生ぐらいかなーと思いました。でも物静かで落ち着いていて理想の大人って感じですよ」


「えっ! 高校生に見えるんですか!? それは初めて言われました!」


 結衣さんは希望あふれる満面の笑みで聞き返した。


「はい、見えますよ」


「そっか、高校生、理想の大人かー、えへへ」


 正直、見苦しい言い訳だなと思ったが、結衣さんは思いのほかご機嫌な様子だった。


「なぁ、海斗俺知ってるぜ。これって合法ロ――」


 俺は圭太が言い切る前にわき腹を小突いた。


「ぐっは! ちょっと海斗君さっきより威力上がってるんだけど! 俺泣いちゃうよ! いいの!?」


「お前は物事を少し考えてから発言した方が良いぞ」


「なんか小学生の頃、先生にまったく同じこと言われた気がするぜ」


 悲しいことに圭太は小学生のころから何も進歩していなかったらしい。

 ふと一条の方へ視線を向けると結衣さんと楽しそうにお話ししていた。女の子同士気が合うのだろう。女の子がもう一人いて本当に良かったと思う。


 こんな状況とはいえ男だけだと、きっと心細いはずだ。それに女の子同士だからこそ腹を割って話せることもあるだろう。


 そうだ! 念のため結衣さんにも今後のことを話さなきゃ。


「あっそういえば、結衣さん」


 結衣さんは「はい?」と短く答え首を傾げた。何か小動物みたいで愛くるしい。


「明日から何かこの島を脱出できるヒントがないか探索するつもりなんですけど、ちょうど4人いるので二手に分かれて行動しようと思っているんですけど、結衣さん協力してもらってもいいですか?」


「もちろんです! お役にたてるかどうかわかりませんけどよろしくお願いします」


「いえいえ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 何かさっきから誰かにじーっと見られてる気がする。視線の感じる方向を向くと一条がこちらをジトーっと少し不満げに視線を送っていた。


「どうした。一条? 俺の顔に何かついてるのか?」


「海斗は結衣さんのこと下の名前で呼ぶんだね」


「へっ? いや、だって苗字だとちょっと呼びにくいだろ」


「ふーん」


「なっなんだよ、別にいいだろ。てかお前だって下の名前で呼んでるだろ」


 何だろう。何も悪いことしてないのに何か追い詰められてる気分だ。

 せっかくできた仲の良い友達を下の名前で呼ぶのがどうにも気に入らないらしい。


「おっ! 何々、葵ちゃんもしかして、やき」


「ごっふぁ!」


 一条は突然、しゃしゃり出てきた圭太をあばら目掛けて肘で結構強めに打ちこんだ。圭太は大げさにじたばたともがき苦しんでいる。


「海斗、俺はもうダメだ。こりゃ肋骨が30本ちかくいっちまってる」


「一応言っとくが肋骨は30本もないからな。肋骨より頭の心配した方がいいんじゃないのか?」


「ひどいぞお前ら! もう本当に泣いちゃうよ!?」


「みなさんとても仲が良いんですね」


 そんなやりとりを見ていた結衣さんがほほ笑みながら言った。


「いや、そんなことないです」


 俺、一条、圭太がほぼ同じタイミングでハモる。


 その姿を見て結衣さんは笑いながら言った。


「やっぱり仲良いいじゃない」


「それにしても何か俺ら選ばれしものって感じだよな」


 圭太が両手を背中側に回し床に手をつけ体を支えるような姿勢で言った。


「何がだよ?」


「いやだって、知らない間に無人島ツアーに連れてこられるって、なかなかないと思うぜ」


 なかなかというか絶対ないと思う。


「ありがた迷惑な話だな」 


「そういや、何か映画であったよな。前科もちの人間を集めて殺し合いみたいなのさせるやつ」


「お前は前科でもあんのか?」


「馬鹿言え、俺は善良な市民だぜ」


 一とおり、明日のことや、雑談をした後、みんな静かに俯いていた。

無理もない。食料もなく、先の見えない不安な状況、慣れない環境によるストレスでみんな疲弊している様子だった。 


 すると、突然寝っころがっていた圭太が何かを思い出したように起き上がった。


「そうだ! そういえば俺良い物もってるぜ」


 すると圭太はポケットからどこからか拾ってきたかわからない木の実を取り出した。


「お前それ食って大丈夫なやつか?」


「心配ない。お前らに会う前に5個くらい食ったけど何ともなかったぜ」


 本当かな……、もしかしてこいつ、これ食べたせいでこんなハイになってるんじゃないだろうな?


「……ひとつちょうだい」


「一つと言わず、3つくらい食っていいぜ。葵ちゃんは痩せすぎだからなもう少し食った方が良い」


「それでは、私もお言葉に甘えて一つ頂きますね」


 結衣さんもつられて一口いただく。


「じゃあ、俺も」


 ついつられて、俺も一口頂く。


 甘酸っぱくてシャリシャリした触感がして意外とうまかった。一個食べると止まらず、もう一個とみんな手を伸ばしていく。木の実はあっという間になくなってしまった。


 みんなで腹を少しばかり満たした後、眠気が襲ってきたのか、まだ日は完全に落ちていないにもかかわらずみんな眠っていた。

 俺も一休みしようと目を閉じる。うとうとしてきたところで、誰かに肩を叩かれた。


「ねぇ、海斗くんちょっと起きて」


 一条がみんなを起こさないよう耳元で小さな声で話しかけてくる。吐息があたって少しくすぐったい。


「何?」


 振り向くと目があった。顔の距離が近い、整った顔立ちと大きな瞳に思わずドキッとしてしまった。表情を読み取られるのが嫌で慌てて正面を向きなおした。


「その何か足音聞こえない?」


「足音? 全然聞こえないけど」


「確かに、聞こえるの。それに何かすごく気配を感じる」


 真面目な顔で心配している様子だったので俺は一条の野生の感を信じてみることにした。俺は昼間の爪痕のことを思い出し役に立つかわからないがナイフを握りしめた。


 そして外をゆっくりと覗いてみる。一条が俺の背中の後ろに隠れるようにぴったりとついてくる。


「どのへんだ?」


「あっち」


 一条の指指した方向を見ると、まだ少し明るいためか少し離れたとこから人影が見えた。


こちらの集落に向かってくる。もしかしたら俺らと同じ境遇の人間かもしれない。

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