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LEVEL3 -地図にない島-   作者: しろながすしらす
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最終話 打ち上げ

「おせーぞ海斗! 待ちくたびれたぜ!」


 圭太は相変わらずハイテンションだ!


「おう、ひさしぶり! 早いなお前たち」


「海斗くん、久しぶりです」


 結衣さんがニコっと微笑みながら言った。


「いや、ほんとひさしぶりです!」


「海斗、久しぶり!」


「おう、ひさしぶり!」


 俺は一条に軽く挨拶を返すと一番端の空いてる席に腰を下ろした。

 席の並びは俺の隣に一条、結衣さんの順だ。俺の正面には圭太、そして圭太のとなりには真が座っている。

 テーブルには料理がすでに運ばれていた。

 大皿が3枚その上には大量の肉が盛られていた。そのほかにもサラダ、スープ、人数分の白米と飲み物が並んでいた。


「まさか、真より遅く着くとは思わなかったよ」


 俺は真に視線を移しながら言った。

 なんとなく、真は遅れてきそうなイメージがあった。


「ああ、たまたま早く着いただけだ」


 真が淡々とした口調で言った。


「おい、真嘘つくなよ! お前二番目に早かったじゃねぇか。本当は楽しみにしてたんだろう? ん? どうだ正直に言ってみろ」


 圭太がからかうように肘で真を小突いた。


「うるせぇ、てめぇ調子にのるなよ」


「みなさん喧嘩はだめですよー」


 結衣さんが二人をたしなめよう声をかけた。


「そうだぞ。真、まぁとりあえずこれでも飲んで落ちつけって」


 圭太がそう言って真にウーロン茶を差し出した。


「ったく」


 どこか納得いかない様子で真がウーロン茶を口にした。

 ウーロン茶を口に含んだ瞬間真の表情が豹変した。


「辛っ!!! くそ、てめぇ、何入れやがった!?」


 あまりの辛さに真が咳き込んでいた。


「はっはっはぁ! 実はこんなこともあろうと激辛タバスコを持ってきたんだ」


 圭太がパーカーのポケットから小さな小瓶をちらりと見せて言った。


「くそっ! てめぇただじゃおかねぇ」


「ちょっと待って、真、フォークそんな使いかたしたらダメだから、やめて! 助けてくれ海斗!」


 圭太は真の腕を掴んで必死に抵抗していた。


「二人ともすごく仲が良いんですね」


 結衣さんがほほ笑みながら言った。


「そうっすねー」


 俺も適当に相槌をうつ。


「ちょっと! 海斗なに同意してんの!? 俺絶体絶命の危機だよ!?」


 すると圭太は「仕方ない奥の手を使わせてもらうぜ」と言って能力でフォークを柔らかい物質に変えた。


「おい、圭太、人がいないからってあまり能力を使いすぎるなよ」


 俺は軽く注意を促した。

 万が一、能力を使ってる時に店員が入ってきたら色々と面倒だ。


「心配すんな、海斗ここは個室だ。それに誰かに見られるなんてヘマはしないぜ!」


 トラックに轢かれて能力使ったのはどこの馬鹿だよ。


「なるほど、確かにお前の言うとおりだな」


 そう言うと真はフォークの先端に小さく炎をまとった。


「真、それ洒落になんないやつだぞ。ちょっ、いやぁぁぁぁぁぁ!!!」


 俺は馬鹿を放っておいて結衣さんと一条に視線を移した。


「いいなー、私も猫飼いたいけど、猫アレルギーなんですよ。目のかゆみとくしゃみが止まらなくて……」


 圭太達とは違って微笑ましい光景だ。


「大丈夫ですよ。私も実は猫アレルギーだったんですよ」


「えっ! アレルギーって治るもんなんですか?」


「治りますよ。お医者さんには可能なかぎり猫と接触しないよう厳重に注意されましたが……」


「お医者さんにそこまで言われるってことは私より重度な症状なんじゃないですか?」


「そうですね。最初は猫に近づくだけで、息苦しくなって大変でした。我慢できなくなって顔をスリスリした時は、気づいたら病院のベッドで寝てました」


 命がけで猫と触れあうなんてこの人、間違いなく本物だ。


「えっ! それって結構シャレになんないやつじゃないですか!」


「猫と触れ合えるなら、軽い代償ですよ。それに今じゃ猫に触れたり、甜めたりしても何ともないんですよ! 愛さえあれば克服できないものは何一つないんです!」


 甜めたり!?


「結衣さんすごい愛猫家なんですね……」


 勢いに圧倒されて一条の顔が若干引きつってる気がする。


「猫のいない生活なんて考えられません。そういえばこの前も海斗くんとユングの可愛さについて語り合ってたんです」


「あっ! この前写真で見たロシアンブルーの子ですね! 口元が微笑んでるみたいですごく可愛いかったです!」

「そうなんです! さすが葵ちゃんです! ロシアンブルーっていったらエメラルドグリーンの瞳が良いって言う人が多いんですけど、私は何と言ってもロシアンスマイルが好きです! そういえば葵ちゃんは猫のパーツでなにが好きですか?」


「パーツでですか? ……うーん、パーツかぁ……」


「海斗くんはどうですか? どのパーツが好きですか?」


「へっ?」


 突然、振られて思わず気の抜けた声が出てしまった。

 結衣さんを見るとすごく期待に満ちた目をしている。

 どうしょう、適当に答えれる感じじゃない。

 てかパーツって何? 猫ってそんな部位ごとに魅力が違うの?

 迷いに迷った俺は無難そうな回答をした。


「に、にくきゅうかな……」

「グレートです! 肉球のプニプニした感触たまらないですよね。でも海斗君知ってますか? 肉球もいいですけど、肉球と指の間こそが至高なんです。肉球の間は毛が密集しててすごく柔らかいんですよ。そこに指を入れるともふもふとぷにぷにが同時に味わえるんです!!! これが何にも例えがたい気持ちよさで……、そう言えば肉球ってかわいいだけじゃないんですよ! あれにはちゃんと役割があって獲物に接近する時に気付かれないように足音を消す働きがあるんですよ。そのほかにも高いところから飛び降りた時に衝撃を和らげる役割があるんです! 足音を消してゆっくりと近寄るその姿は……」


 どうしょう正解したけど、変なスイッチ入っちゃた!

 俺一人では結衣さんの暴走は止めるのは不可能と判断し、一条に視線を向け助けを求めてみた。


「あっ! みんなお喋りもいいけど、そろそろ料理食べようよ! 私お腹すいちゃった」


 意図を読み取ってくれた一条が助け舟を出してくれた。


「……ハッ! それもそうですね。話すのに夢中で忘れてました」


 ナイス一条!


「おっ、葵ちゃんの言うとおりだぜ! そういうわけだ。真とりあえず飯でも食おうぜ」


「お前、後で、覚えとけよ!」


 お前らまだ争ってたのかよ!


「一条の言うとおりとりあえず食おう。せっかくの食べ放題だしな」


 ようやく俺たちは食事に手をつけることにした。


「かーうめえ、やっぱ肉は最高だぜ!」


「おい、圭太! それ俺が育て上げた肉だぞ」


「ホントにほっぺたが落ちそうなくらい美味しいです!」


「さすがに有名なだけはあるな」


「……」


 一条、何かさっきから一言も発さず何かに取りつかれように食ってるけど、そんなにお腹が空いていたのか……


「結衣ちゃん、そこの皿とってもらっていい?」


 端っこに座ってた圭太が結衣さんの近くにおいてある大皿を指さして言った。

 まだ、手はほとんどついておらず大量の肉が盛られている。


「はい、どうぞ」


 結衣さんが大皿を片手で軽々と持ち上げ、対角線上にいる圭太のほうに手を伸ばした。


「サンキュー、あっ――」


 手を滑らした圭太が思わず声をあげた。

 まずい! このままじゃ料理が!

 俺は反射的スローを発動した。


 近くにあった未開封の箸を素早く開封し右手に持った後、床に向かって中身をぶちまけるように下を向いている大皿を左手ですくい上げるように持ち直す。

 落下するはずだった肉を大皿て受け止める。

 さらに、大皿では受け取めきれなかった肉を素早く、箸で次々回収し皿の上にのせていく。

 すべてを完全に回収しきった後、俺はスローを解除した。


「あぶなかった……」


 俺の活躍っぷりを見たみんなが「おお!」と歓喜の声をあげ拍手をしていた。


「さすが海斗、俺の見込んだ男だ! 実は俺はお前の能力が衰えていないかテストしたんだ。けっして俺がうっかり皿を落としたわけじゃない」


「嘘つけ! お前思いっきり焦ってたじゃねぇか!」 


 みんなで料理を舌鼓、あれだけあった料理も大分減ってきた。

 正直、大皿一枚で3〜4人前近くあるので結構お腹いっぱいになってきた。

 大皿が残り一枚になったところで一条が店員を呼んだ。


「すいません、特選盛り5人前ください」


「いやいやいや、ちょっと待って! 男三人とはいえさすがにそんな食える自信ないぞ!」


「えっ? だって一人皿2〜3くらいは食べるでしょ?」


「いやいや、そんな食えないから」


「ふーん、海斗って少食なんだね」


 えっそうなの? 俺がおかしいの?

 気になり周りを見渡すとみんな明らかに箸のペースが落ちていた。


「お前、以外に食べるんだな」


「そうかな?」


 一条がキョトンっと首を傾げながら言った。


「……一条、お前すげえな」


 真が呆れ半分、感心半分といった様子だ。


「葵ちゃん、ライオンより食事量多いんじゃないの!?」


「いっぱい食べるんですね、うちのフロイトと一緒です」


 一条の隣の大皿がどんどん積み重ねられていく。

 10枚は軽く超えてるのに一条のペースはまったく落ちない。

 胃の中にブラックホールでも飼ってのかこいつは?


「なぁ、一条もうそろそろいんじゃないか?」


 泣きそうな顔で料理を運んでくる店員の気持ちを少しは考えたほうがいいと思う。


「うんそうだね、腹八分目って言うしね」


 これで腹八分目かよ。

 本気出したら牛一頭くらいいけるんじゃないかこいつ。

 腹ごしらえをした俺達は店を出た。


「さて、腹もいっぱいになったし、どっかで適当に遊ぼうぜ!」


「そうだな、まだ時間もいっぱいあるし」


 どうせ、帰っても暇だしな。それに今日はみんなと遅くまで遊びたい気分だ。


「みんなどこか行きたいとこありますか?」


「俺はどこでもいい」


「私も特に希望はないかな」


「何だみんな行きたいとこなしかよ! んじゃあボーリングで決定な! 一番になったやつは何でも命令できる。ビリになったやつは罰ゲームな!」


「いいぜ! のった! お前のその発言死ぬほど後悔させてやる!」


 圭太の提案に対して真も乗り気の様子だった。


「決まりですね!」


「ボーリング場だったら確か、ここからバスで15分くらいのとこにあったはず、あっ! バスがきてる」


 一条がバスを指差した。バスは後、数十メートルで停留所に着きそうだ。

 この距離なら歩いても十分間に合うだろう。


「急ぐぞ、お前ら! ビリは罰ゲームだぞ」


「なっ待ちやがれ!」


「待ってください!」


 圭太がバス停に向かって全力で走った。

 それにつられるよう真と結衣さんが走っていく。


「あいつら元気いいな」


「ふふっ、ほんとだね」


「おーい、お前ら何やってんだ。おいてくぞ!」


 圭太が振り向き俺と一条に大げさに手を振っている。


「ったく、そんな焦んなくても大丈夫だろ」


「ホントだよ。まったく」


 一条はどこか楽しそうだ。


「海斗くん」


「ん?」


「私ね、あの時は不安と恐怖で頭がいっぱいで、何もかもが嫌になりそうですごく辛かった」


 あの時とはおそらく無人島の出来事のことだろう。


「うん」


「でも、今はあの出来事があって良かったと思う」


「俺もそう思うよ」


 あの出来事がなければ俺達はこうして会うこともなかっただろう。


「本当に仲の良い友達ができたし、それに海斗くんとも仲良く慣れたしね!」


 一条が俺の方を見てニコッと笑った。


「へっ?」


 俺は不意打ちに見せられた笑顔に思わず、一瞬心を奪われた。


「ビリは罰ゲームだよ」


 そう言って一条はみんなのいる方へ走っていった。


「あっ! ちょっと待って、卑怯だそ!」


 俺も遅れて走り出すが、タイミングが完全に遅かった。


「罰ゲームは海斗で決定だね!」


 みんなあの時からは想像もつかないくらいの笑顔だった。


 不思議だ。

 あの時は何もかも辛くて大変で良いことなんてまるでなかった。あるのは先の見えない不安と絶望だけだった。

 なのに、今ではあの時の体験が宝物のように大切に思える。


 きっと、辛いことだけでなく、良いこともたくさんあったはずだ。

 ただ、追い詰められて目の前の出来事しか見えていなかった俺は暗闇に隠れた小さな光に気づくことが出来ていなかったのだと思う。

 暗闇だからこそ目を凝らし小さな光を見失わないようにしたい。心からそう思った。


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