第17話 帰還
あの悪夢のような島から俺たちは無事に日本に帰ることができた。
『消息不明の中高生無事帰還! 気づいたら見知らぬ無人島に!』俺たちが帰還してしばらくの間ほぼ毎日のようにニュースで報道されていた。
警察に色々事情聴取されたが、ありのままの出来事を話してしまうと、混乱を招くか、頭のおかしい連中だと思われそうなのであの島での出来事は黙っておくことにした。
警察には気づいたら5人とも無人島にいて5人で島を彷徨っていたらたまたま船を見つけ適当に進んだら偶然日本にたどり着くことができたと伝えた。
あの後、俺たちは一つの約束をした。
超能力を人前で使わないこと。悪用しないこと。
個性豊かだが、みんな根は真面目でしっかりした人間なので後者に関しては全く心配いらないだろう。
しかし、無事に帰還して一か月を過ぎたくらいの頃だった。
ニュースで「トラックに跳ねられた少年まさかの無傷!」と大々的に報道されていた。
トラックに轢かれた少年はインタビューに対し「いやー、よくわかんないけど助かったぜ! 俺ってラッキーボーイだな! あっはっはっは」と高らかに笑っていた。
あの馬鹿! あれほど気をつけろと言ったのに!
俺たちは別れる前に連絡先を交換しちょくちょく連絡を取り合っていた。
一条とは学校であった些細な出来事や最近のブームなどの話をしていた。一条はメールするたびに「いつかみんなの予定が空いたらまた会いたいね」というのを何度も書いていた。
それに関しては俺も同感だ。
結衣さんは重度の愛猫家でユング、フロイト、アドラーという3匹の猫を飼っている。
たまに猫のベストショット写真を送ってきたり、猫に対する熱い思いを画面が全部字で埋め尽くされるほどの長文で送られてくる。
正直全部見ていたらきりがないので何となく目を通し、強調されてる文章に対し適当に相槌を打つことにした。
真からは一切連絡がないが、こちらからメールすると結構な長文で返事が返ってくる。メールになれていないためか、絵文字や記号などは一切なく、かなり堅苦しく遠回りでわかりづらい文章で送られてくる。
しかし、かみ砕いて解釈してみると、俺は基本的に暇人だから、もしみんなが集まるときは呼べばすぐ来れるとのことだった。わかりにくい文章だがみんなに会いたいという気持ちがひしひしと伝わってくる。
圭太に関しては「ツチノコっていると思う?」「今からコンビニでアイス買ってくるぜ!」「最近気がついたんだけど俺の右手の薬指が左手に比べて少し長いかもしれない……」「宇宙と性欲って限りなく近い存在だと思うんだ」とわけのわからない、くだらない内容をほぼ毎日スパムメールのように送ってくる。
最初はいちいち返していたが、途中から面倒くさくなって返信していない。
それでも、嵐のようにメールが送られてくるので迷惑メールに振り分けることにした。
みんなとのやりとりで共通していたのはあの出来事を体験した後だと、毎日あれだけ必死に生きていた日常がすごくゆるく感じるとのことだった。
俺同じようなことを思った。
あの出来事を通して少し成長したのか、ちょっとした事では動じなくなったし、余裕を持って行動できるようになった気がする。
俺はベッドから起き上がり時間を確認した。
「7時か」
少し早いけどそろそろ準備するか。
一階に降りて、洗面所で寝癖を少し整えた後、俺はいつも通り歯を磨くことにした。
無人島にいた時、歯を磨けないのはとにかくつらかった。
歯を何より大切にしている俺にとっては最大の苦痛だった。
俺は歯を磨けなかった出来事がトラウマになり、あの日以降、外出する際は必ずマイハブラシを携帯するようにしている。
命の次に大切なものは? と聞かれたら俺は間違いなく歯と答えるだろう。
それぐらい俺は歯に気を使っていた。
歯ブラシは歯科医師推奨品のもの、歯磨き粉はフッ素濃度が995ppm以上、研磨剤、発泡剤が入ってないものじゃないと気が済まない。
15分以上しっかりと時間をかけて歯の上部、表面、裏面を磨いた後、ちゃんと歯間フロスで歯垢を除去し、仕上げにマウスウオッシュでゆすぐ。
これを一日3回。
俺はこの黄金パターンを何年も続けてきた。
そのため虫歯は一本もなく、歯茎の健全状態も最高クラスだと自負している。
もちろん月一回の歯科検診も忘れない。
このことを友達に話したら何故か友達の顔が引きつっていた。
俺何かおかしなことでも言ったか?
「ちょっと、お兄ちゃんいつまで歯磨いてんの? そこ邪魔だから退いてよ」
振り向くと、ひまりが俺の朝の聖なる儀式を妨げようとしていた。
「うるせーな、歯くらいゆっくり磨かせてくれよ!」
「いや、お兄ちゃん普通に歯磨きすぎだから、お兄ちゃんの独壇場じゃないんだから5分くらいでちゃちゃっとすませてよ」
ひまりが呆れた様子でこちらを見てくる。
正気かこいつ!?
たった5分で何が磨けると言うのだ。
「お前は歯に対する意識が低すぎるんだよ!」
「いや、お兄ちゃんが歯に対して異常なまでに執着してるだけだから」
「そんなことはない、大体お前は……」
「チッ、あーもう、はい、はいわかりましたー」
ひまりは諦めたのかそのまま去って行った。
「まったく、人の神聖な儀式を邪魔するなんてとんでもないやつだ!」
俺は儀式をすませた後、外出するため服を着替え玄関に向かった。
「お兄ちゃん、どっか行くの?」
後ろから突然ひまりに声をかけられた。
「ああ、ちょっと友達会いに行くだけだ。どうかしたか?」
「いや、お兄ちゃんいつもより、妙にうきうきしてるから何かなーって思っただけ」
俺そんなに表情に出てたのか?
「じゃあ、いってくよ」
「いってらしゃーい。あっ! 帰りにアイス買ってきて」
ひまりが思いだしたように言葉をつけたした。
「ああ、良いけど帰り遅くなるかもしれないぞ」
「んー、わかった」
俺は家を出ると駅に向かった。
あれから3か月、みんなで予定を調整して会うことになった。
圭太は岐阜、結衣さんと真は北海道出身だった。
俺と一条はすぐとなりの県なのでたいした距離はない。
みんなで話し合った結果、東京に集まることになった。
東京についた後、バスに乗り目的地から少し離れた停留所で降りた。
スマホで目的地を確認しながら歩いて5分ほどするとすぐにたどり着いた。
ビルに入り店員に声をかけ予約されている名前を言うと個室に案内された。
個室の前に立ち扉を開けるとすでに俺以外は全員そろっていた。俺も少し早めに来たはずだが、みんなはそれよりも早く来ていたらしい。




