第13話 特異体質
俺は表紙をめくった。
するとそこには……
ボルディア族と未知のウイルスの関連性について
調査から数日後、村人達の間で原因不明の病が流行していることが判明した。
多くの村人が感染しているらしい。現在のところ感染経路は不明だ。
症状としては皮膚に黒色の斑点が出現し徐々に広がっていくことだ。掻痒感や疼痛などはなく健康面においても深刻な問題は見られない。他に自覚症状もこれと言ってない様子だった。
私は特に心配はいらないだろうと考え経過観察とした。
20日ほどたって、村を訪れると多くの村人が黒色の小さな斑点が広がり全身が真っ黒になるまで症状が進んでいた。
中には幻覚や妄想などの症状、異常な攻撃性などの精神面において著しい変調を来すものもいた。私は念のため村人全員の採血をし血液データを調べることにした。
村人達の話によると一ヶ月ほど前に落ちてきた隕石が村に良くないものを運んできたと言っていた。現場に案内してもらうと直径50センチほどの大きさの隕石があった。
私は隕石を持帰り調べることにした。隕石を調べると驚くことに今まで見たこともないような新種のウイルスを発見した。
村人達の血液にもまったく同じものが見られた。
幸いなことに空気感染性のウイルスではなかった。おそらく小さな傷口や粘膜などから接触感染したことが原因だと考えられる。
数週間後、村に訪れると、私は驚くべき光景を目の当たりにした。人とは思えないような化物の死体があちこちに転がっていた。
化物は個体差はあるが体長はどれも二メートルを大きく超えていた。犬歯と両腕の爪は大きくかなり発達している。
村人は一人の少年を除き全員死亡していた。
生き残った少年の話しを聞くとみんな化け物になり殺し合いをしてしまったとのことだった。私はよくこんな危険な環境の中で生き残ることができたなと少年に言うと、少年は突然超能力のようなものに目覚めて何とか見を守ったとのことだった。
試しに見せてもらうと、少年が前に手をかざすと巨大な竜巻が出現した。私は少年の見に起きた現象を調べることにした。
そこにはボルディア族が滅んだ明確な理由が記載されていた。
「これって悪鬼のことじゃない……、それにこの少年ってまるで私たちと同じ……」
信じられないことに隕石が未知のウイルスを運んできて村人を悪鬼に変えてしまったとのことだった。
「こんなことあり得るのか……、作り話じゃないよな……」
こんな恐ろしい話認めたくない。
作り話であってほしいと俺は強く思った。
俺はさらにページをめくった。
NdT症候群
少年の血液を調べると村人達と同じように新種のウイルスが発見された。しかし少年は症状を発症することはなかった。それどころか超能力としか思えないような超常現象を目の当たりにした。
調べるうちに少年にはウイルスに対する特殊な抗体があることがわかった。私は原因解明に努めようとしたが、不幸なことに悪鬼たちの戦いで弱っていた少年は数日後に亡くなってしまった。
私は研究を進めるために同じような抗体を持った人間と抗体を持たないものを手配するよう例の人物に依頼した。
実験の結果、抗体の持たないものにウイルスを投与すると、最終的にあの化け物になることが判明した。症状の進行段階を簡潔に記す。
LEVEL1…皮膚に黒色の斑点が出現
LEVEL2…全身の黒色化、幻覚、妄想、著しい精神の変調、人格の破綻
LEVEL3…犬歯、爪、全身の骨格筋肉の以上発達、凶暴な攻撃性
LEVEL1からLEVEL2に移行するまでは比較的緩慢だがLEVEL2に移行するとわずか1〜2日ほどでLEVEL3に移行することがわかった。
下垂体ホルモンの異常分泌でもここまで体格が急激に変化することはまず考えれない。それに、これだけの代謝亢進に必要なエネルギー源も不明だ。一体どのような過程を得てこのような短期間で体が発達するのか大変興味深い。
さらに、LEVEL2の患者に高濃度のウイルスを投与するとかなりの短時間でLEVEL3に移行する。症状の進行具合は人それぞれで、かなり個人差があった。症状の進行を誘発する要因についてはもう少し調べる必要がありそうだ。
私はこの巨大な発達した爪を持つ悪魔のような風貌からNdT(Nagel des Teufels)症候群と名付けた。
そこには人が悪鬼に変貌するまでの生々しい経過が書かれていた。
「何てことだ。悪鬼は実験によって生み出されたんじゃない! 未知のウイルスに感染した重篤患者だったんだ!」
「特殊な抗体を持った少年は超能力のような力を身につけた……、これってまるで私たちのことじゃない。でもそうなると……」
一条の顔がどんどん青ざめていく。
「ああ、きっと抗体を持っていた俺たちは未知のウイルスの実験台にされたんだ」
「でも抗体があるかどうかなんて一体どうやってわかるの?」
「それは……」
一瞬言葉に詰まったが、俺は唐突に最初にこの島に来たときの圭太との会話を思い出した。
「……献血だ。献血なら人助けを建前に抗体があるかどうか調べることができるんじゃないか?」
「たしかにそれなら……、ねぇ私たちどうなっちゃうのかな。私たちの体の中にもこのウイルスがいるんでしょ? ……もしかしていつか悪鬼のような化け物になっちゃうのかな?」
一条が泣きそうな顔で俺を見つめてくる。
「……大丈夫だ。ここに書いてある話じゃ抗体の持っているものは発症しないはずだ。それに何一つそれらしき症状は出ていない」
俺は一条を慰めるように頭を手に置き心配ないと言い聞かせた。
それは不安と恐怖に支配されそうになる自分にも言い聞かせるためでもあった。
「……うん、そうだよね。ありがとう少し落ち着いた」
資料は次のページで最後だった。
紙の右端にクリップの後がついていたことを考えるとまだ、資料はまだ続きがあったように思える。誰かが持ち出したのか?
俺たちは最後のページに目を通した。
Uウイルスと特異体質について
抗体を持つものは希少なためサンプルは4体しか手に入ることが出来なかった。
抗体を持つものにウイルスを投与するとNdT症候群を発症するものと発症しないものに分かれた。
詳しい原因は不明だがどうやら年齢が大きく関係しているらしい。
研究を繰り返すうちに30歳以上のものに投与すると70%ちかい確率でNdT症候群を発症することがわかった。
20歳未満の場合NdT症候群を発症するものは3%にも満たなかった。
ウイルスを投与しNdT症候群を発症しなかったものを徹底的に調べ、経過観察したが少年のような超常現象は起きなかった。
あの村での環境、出来事が大きな要因ではないかと考えた私は様々方法でアプローチをかけた。
その結果、精神的な強いストレス、恐怖を与えることによってウイルスが崩れた恒常性を保とうと活発になり、より過酷な環境に適応化するかのように変化を引き起こし特異的な体質になることが判明した。
私はこの特徴的な新種のウイルスをU(Unendliche)ウイルスと名付けた。
より強いストレスや恐怖を与え続けたり、超能力を使用しづけることによってウイルスはさらに進化することがわかった。
能力は人によって千差万別で多彩なものだった。その人の持つ気質や深層心理が大きく関連しているのではないかと考えられる。
私はUウイルスの謎を解明するために様々な実験を行った。
そのなかでも特に私が注目しているのは特異体質を持った人間達だ。
サンプルの中で、ある程度能力を使いこなしUウイルスが体に馴染んだものに高濃度のUウイルスを投与すると、個体によって異なる反応が見られた。
80%近くは投与後、すぐに意識レベルがGlasgow Coma Scale3まで低下し死亡してしまったが、中には特異体質がさらに多種多様に変化するもの、LEVEL3とはことなる外見をもつものなど様々な変化を示すものがいた。
サンプルS41の例に関しては体の一部分だけがLEVEL3に近い状態になるという大変興味深い結果となった。
私は研究とテストを何度も重ねるうちに抗体を持たないものにも特異的な体質変化させるウイルスを開発することに成功した。
まだ試作段階だが、ためしに私は自分自身に投与してみた。
しかし思うような結果は得られなかった。人間離れした力を手にすることができたがサンプル番号A12、L27、G4などに比べるといまいちと言わざるを得ない。
それに後遺症のためかわからないが痛覚を失ってしまった。
ウイルスに関してはまだ未知の部分が多い。今後、様々なものに応用するためにまだまだ研究が必要だ。そのためにはもっと優秀な研究サンプルが必要だ。
最初は半信半疑だったが、すべての書類を目に通して、今自分たちに起きていることが現実であることを実感した。
悪鬼の正体、何故俺たちが特殊な能力を見つけたのか、この島に連れてこられた目的、すべての謎がどんどんつながっていく。
それにこのままいくと俺たちは……
「なるほどな、俺たちのような抗体を持った人間を集めて、実験を繰り返していたのか。……いかれてる! こんなの普通の人間のすることじゃない!」
「S41ってさっき私たちが見たあの子のことじゃない?」
「ああ、たぶんあいつも元は俺たちと同じウイルスの影響で特殊能力を持った人間だったんだ」
事実を知った俺たちは急いで元の部屋に戻ることにした。
「ねぇ、ちょっとだけあの部屋を見てきていい?」
一条が1とでかでかと書かれた扉の前に立ち止まり言った。
「何でだよ。何か用があるのか?」
「うん、ちょっとね。海斗くんはここで待ってて。大丈夫1分もかからないでもどってくるから」
そう言って一条は扉を開けた中に入っていた。
俺が「なるべく早くしろよ」と言い扉の前で待っていると30秒ほどで一条が戻ってきた。
「何かあったのか?」
「ううん、何でもない。念のためというか何というか」
「念のため?」
一条は一体何のことを言っているんだろう?
「いや何でもないの。それより早くみんなが帰ってくる前に戻らなきゃ!」
一条の言っていることが少し気にかかったが今はそんなことより、ここから離れるのが最優先だ。
「そうだな」
俺と一条は急いで地下室から出ることにした。




