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LEVEL3 -地図にない島-   作者: しろながすしらす
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第1話 ここはどこ?

視界を覆い尽くすように広大な自然が広がっていた。


青く澄んだ空、力強い生命力を感じさせる木々、見慣れない植物が生い茂っている。都会ではあまり自然に触れ合う機会がないので普通であれば心を落ち着けリラックスすることもできたと思う。


 しかし、自然に触れ合おうと自ら進んでこの場所に訪れたわけではない。気づいたら自分は大自然の中で眠っていたのだ。


 どこだ、ここは?


 当然の疑問に対し答えは見つかりそうになかった。

最初は夢だと思っていたが体中の感覚器官が現実であることを教えてくれる。


 何故自分がこんなところで寝ているのかまったく思い当たる節がない。

気分は最悪だった。何故だか頭が重い、それに視界が少しぼやけた感じがする。その辺の道端で寝ていたためか、服は泥で汚れ、露出している肌が少し擦り剥けていた。それに早朝のためか少し肌寒い。立ち上がり、体に付着していた汚れをはたく。


ゆっくりと歩きながら周囲を見渡す。人気はまったく感じられない。


「くそっ! どうなってんだ」


 ばんやりした頭で昨日までの記憶を遡ってみる。

昨日はいつも通り学校に行った。たしか金曜日だったかな?

普通に授業を受けて、いつも通り適当に友達と寄り道しながら帰ったはずだ。

特に変わったことはなかったはずだ。


 それで帰った後に着替えて、どっかに出かけて…………。何してたんだっけ?

何故かその後の記憶は切り取られたようにすっぽりと抜けていた。


 だめだ。思い出せない。


「そうだ!」


 何かヒントになるものはないかとジーパンのポケットをまさぐる。


 あった! 


 俺はポケットからスマホを取りだしホームボタンを押した。日付を見て一瞬見間違いかと思った。


「6月19日?」


 どういうことだ?


 真新しい記憶から2日も経過している。

 俺は2日間も見知らぬ場所で眠っていたとでも言うのか?


 あまりにも現実離れした出来事に頭がついていけない。

 電波を見ると圏外と表示されていた。これでは誰かと連絡を取ることもできないしGPS機能で現在地を知ることもできない。


 電話やメールのやりとりを見ると6月17日で途絶えていた。

毎日友達と何かしらのやりとりをしているため、二日前から俺は誰とも連絡を取れない状況であることがわかった。


 俺は誘拐でもされたのか?

 仮にそうだとしても目的はなんだ?

 金持ちでもなければ、どこぞのいい生まれでもない。俺を誘拐するメリット何て何一つないはずだ。


考えても答えは出そうになかった。


「腹減ったな……」


 さっきからずっと頭がぼんやりしているのは空腹のためか、それでも変な薬でも飲まされたのだろうか?


「どこだよここ? こんな自然だらけで、電波も通らないって、どんだけ田舎なんだよ」


 目的もなく彷徨っているとあることに気づいた。

 さっきまで理不尽な現状で頭がいっぱいで気がつかなかったが、これだけ自然に覆い尽くされているのにもかかわらず、今自分が歩いてる道は雑草がちょこちょこ生えているだけで、ほとんど土が続いていた。 


 人工的に手が加えられている。

きっとこの道を辿っていけば人に会えるんじゃないかと思うと歩幅が少し大きくなった。


 しばらく道なりにそって進んでいくと、集落が見えてきた。


「何だここは?」


 映画やゲームでしか見たことないような、どっかの民族が住んでいそうな古臭い木造の家がぽつぽつとあった。

 家は全部で8軒ほど、年季が入っているためか、どの家もかなりぼろかった。

 人が住んでいるというよりは、人が住んでいたという感じがする。


 どの家も黒っぽいシミのようなものが広がっていた。台風にでも直撃したのか、あちこちが破損し木材の破片が落ちていた。

それに何故か家の一部が不自然に削り取られていたりしていた。家の周囲を観察したがまるで人気はない。


「お邪魔します」


 誰もいなそうだが、一応一声かけゆっくりと扉を開け家に入ってみる。

 木で作った家具らしきものや、食べ物を入れる器、手製のナイフ、ちょうど人ひとりが寝れるサイズの御座のようなものがあった。


 部屋を物色していると、背中に気配を感じ反射的に振り向いた。

 振り向くと俺と同い年かちょっと下くらいの制服を着た女の子がいた。

 黒く艶のあるショートボブ、ぱっちりとした瞳にシャープな顔立ちをしており、どこか気品あふれる感じがする。

 やっと人に会えたと、安心したのも束の間だった。


「あなた、誰?」


 少女は大きな鉈のような刃物を両手で握りしめながら、こちらに警戒した視線を向けてくる。

緊張のためか手はかすかに震えている。


「待ってくれ。とりあえず落ち着いてくれ」


 俺はなるべく、相手を刺激しないよう後ろにゆっくりと後ずさった。

 後ろは壁だ。もし、ここで襲われでもしたらひとたまりもない。


「もしかしてあなたの仕業なの?」


 少女は何かを確認するように聞いてきた。


「ちょっと待ってくれ。俺も何が何だかわからないんだ。気づいたらここにいて……、とりあえずその刃物を降ろしてくれ。君に危害を加えるつもりは全くないんだ」


 少女は刃物を降ろさず、何かを探るようにじっとこちらを見つめている。どうやらまだ警戒は解けていないらしい。


「あなたも記憶がないの?」


「ああ、わかったらその刃物を降ろしてくれ。とりあえず落ち着いて話し合おう」


「……悪いけど今は誰も信用できない。そこから動かないで……、一歩でも近づいたらただじゃおかないから!」


 まるで、自分より大きな体格を持った相手に弱みを見せまいと必死に威嚇する小動物みたいに見える。


「わかった」


 俺は危害を加えないことを証明するために手をあげその場にゆっくりと座った。


「あなたは本当に何も覚えてないの?」


「何も覚えてない。2日前にいつも通り学校に行って帰ったところまでは覚えているんだが、そこから先は思い出せない」


「ここがどこだかわかる?」


「さぁ、まったく見当もつかない」


「あなたはどこから来たの?」


「気づいたらそのへんの道端で寝てたんだ。電話も繋がりそうにないし、とりあえず人を探そうと歩いてたらここにたどり着いたんだ」


「ふーん」


 少女は少し考えるような様子で顔をしかめた。


「今度はこっちから質問してもいいか?」


 少女は無言で頷いた。


「まず君も俺と似たような状況ってことでいいんだよな?」


「うん」


「何か思い出せることは?」


「……学校帰りに友達とぶらぶらして帰ったところまでしか覚えてない……」


「やっぱり俺と似たようなもんか」


 何か知っていることを期待したがどうやら彼女も同じ状況らしい。


「どうやら、本当に何も知らないみたいね」


 少女は小さくため息をつくと緊張が少し解けたのか、さっきまでカチカチになっている肩の力をゆるんでいるように見えた。すると、きゅーと小さな音が彼女のお腹から聞こえてきた。


「そういえば腹減ったな」


「別に空いてない!」


 俺が独り言のようにぽつりと言うと彼女は頬を赤くしそっぽを向きながら言った。

 いやそこは別に意地を張らなくてもいいんじゃないかと思ったが下手に刺激すると俺の身が危ないので触れないようにした。


「そうか、この家に何か食べるものでもあればと少し期待したんだが……」


「なにもなかった……」


 残念そうな顔をしながら小さく呟いた。


「残念だ」


 そう言いながらポケットをまさぐるとパーカーの右ポケットに袋のようなものに触れた。取り出してみると、小さな袋に入ったチョコがあった。大きな袋に何個か小分けされてるタイプのやつだ。


「あった!」


 そういえば、友達から貰ったんだっけ。良かったあの時すぐ食べないで。

 袋を開け一粒取出し口の中に放り込んだ。


 うまい! 思わず袋の中身を全部口の中に放り込みたい衝動にかられたが、こんな状況では貴重な食料だ。

 我を忘れ二つ目に手を付けようとしたところで、ふと少女の視線を強く感じたような気がした。


 少女の方へをやると、まるで獲物を見るようにじっと俺の袋を見つめていた。


「良かったら食べるか?」


「食べようとしたところ襲い掛かるんじゃないでしょうね?」


「そんなつもりないって、いい加減警戒を解いてくれよ!」


「もしかして、毒でも入ってるんじゃ……」


「落ち着け、そしたらまず俺が死ぬだろ」


 少女は警戒しつつも、生理的欲求にはかなわないのかゆっくりとにじり寄ってきた。

 俺が手を伸ばし袋を差し出すと、少女はそこから一粒取出し口に入れた。


「おいしい……」


 少女は感動のあまり頬が少しほころびていた。


「それは良かった」


 少女は警戒を解いてくれたのか俺から50センチほど離れた場所にちょこんと座り込んだ。


「あなたが悪そうな人じゃなくて少し安心した」


「俺は殺されるかと思って気が気じゃなかったよ」


「ごめんなさい。何が何だかわからない状況で気が動転してたみたい」


「気にするな、俺も同じだ。制服着てるってことはどっかの学生か?」


「うん。高校一年生の一条葵です」


 一条という少女はぺこっと小さく会釈しながら言った。


「俺の一個下か、俺は海堂海人だ」


 少し沈黙が続いた後、一条が口を開いた。


「ねぇ、ここどこだと思う。私たちこれからどうなるのかな?」


「スマホの電波が全く入らないから、ここがド田舎の山奥ってことぐらいしかわからないな」


「そっかぁ。外の様子は?」


「まだ少ししか探索してないから、何とも言えないけど、見渡す限り森で何もなかったな」


「この場所って奇妙じゃない? それに何ていうかすごく気持ち悪い感じがする」


 同感だった。うまく言葉にできないが得体のしれない何かがある。根拠はないが体が目に見えない危険なサインを感じ取っている気がした。


「たしかにな。何ていうか人が住んでいた形跡はあるけど、今は誰もいない呪われた地って感じだよな」


「こんなところ日本に存在するのかな?」


「どうだろうな。さすがに国内だと思うけど……」


 たかが悪ふざけのために、国外まで運ぶっていうのはさすがにないはずだ。

 一条は不安そうに俯いている。


「まぁ、今は考え込んでも仕方ない。とりあえず、外を探索して人か町を探してみないか? まずは身の安全が最優先だ。何故俺らがここにいるかは後で考えよう。それにそのうち何か思い出すかもしれない」


 自己暗示をかけるようになるべく明るい口調で言った。そうでもしなければ気が狂いそうだった。


「それもそうね」


 俺達は家を出た後、俺が来た道と反対方向へとまっすぐ進んだ。

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