大事故
ゴーストたちを追いかけていくうちに町の中でもひときわ賑わう場所にたどり着いた。
「えっと、それで何を買えばいいのかしら?」
「食料系はあとのほうが良いと思うから……これは、食器?」
「ってなると陶器店とか雑貨屋?」
「この世界なら彫り物とかで木の食器も作ってるんじゃない? というかそっちのほうがいっぱいありそう」
「それはたしかにそうね。じゃあ、ひとまずそういう露店からまわるのが良さそうかもしれないわね」
「だねー。まあ、商品名や種類名みたいなのは書いてあるから、流し目でも見ていけば見つかるでしょう」
市場全体をまわるくらいの勢いで、まわる終わるまでには体感的にいえば1時間弱ほどかかった。
保存状態とかを考えても最後に買ったほうが良い生ものを覗いて、ほとんどを買い終えることができた。
ただ、一つだけ見つからない物がある。
「日本語に訳されてもさっぱりなんだけど、シュキュリの花ってのが見つからないね」
「花とか植物専門みたいな露店もあったけど、売ってなかったわね」
「誰かに聞いてみる?」
「それがいいかもしれないけど、誰に聞くのよ。結構人いるからこの町の人なのか旅の人なのかもわからないけど」
「そこが問題だよね」
市場の中央にあった休憩所らしき場所で、羊皮紙とにらめっこしていると、私のドレスがくいくいと引っ張られる感覚があって、そちらを向く。
すると、腰のあたりを掴んでる、私と似た真っ白い女の子がいた。
ただ、ゴーストとは違って体も足までしっかりと人になっていて、少しボロいローブをきている。でも、浮遊している。
「あ、あの、それ……あっち」
「え?」
「花は、あっちに、売ってる……よ」
「そうなの? ありがとう……えっと、あなたは?」
「キュ……キュリ」
「キュリちゃん? ありがとうね」
しゃがんで目線を合わせて頭を軽く撫でてあげる。
「う、うん!」
すると、彼女は笑顔を見せてから消えていった。
アンデットの一種なんだろうけど、なんて種族の子なんだろう。
「真琴。今のって?」
「よくわからないけど、あっちに花売ってるって」
「ふぅん」
「うぅん。人見知りなのかしら? また、会いたいわね」
「そうだね。あたしもお礼言わせてもらいたいし。まあ、でも今は時間も限られてるし行ってみよう」
「そうね」
キュリちゃんに教えてもらった先へと向かって私達は移動し始めた。
歩いていくとそこは路地裏のようで、ほかと比べて人通りは少ない。あとは少し隠れ家的な雰囲気のある喫茶店や酒場があるから夜には賑わうのかもしれない。
「だけど、花とか売ってそうにないから、もう少し奥かな?」
「かもしれないわね。進んでみましょう」
そのまま、細い道を進んでいく。
路地裏の道は案外長く進んでいくけれど、途中で大きな建物に切り替わった。
「ここまでくると、お金持ちの住宅街ってことかな?」
「普通にお店とか宿の可能性もあるんじゃない?」
「それもそっか……あ、あれかな?」
その途中で何かを見つけたように、雛乃は足を止めて指をさす。
そこには特別販売所とわかりやすく書いてある。
「日本語で助かったけど露骨すぎないかしら?」
「まあ、でも、ここ以外は全部酒場とか宿とかに見えるし、ここじゃない?」
「それはそうかもしれないけど……」
「いいから入ってみればいいんだよ!」
そう言って店の方へと行ってしまう。放っておくわけにも行かないし追いかけて扉を開けるのを見守る。
入口を開くとそこには、少なくとも露店では見たことがないような商品が並んでいた。
ただ、どれもが取扱い注意を言わんばかりに瓶の中や特殊な容器で保管されている。
「ん? いらっしゃい」
「あの、シュキュリの花が売ってるのはここで間違いないですか?」
「あっているよ。えっと、何処の方だい?」
「一応、カグラ王に頼まれてきました」
「あぁ、王様のか。了解、ちょっと待ってね」
カグラさんの名前をだすとすぐに理解したというように、店の奥に入っていった。倉庫でもあるのか。
戻ってきた店員から商品を受け取る。厳重とは言わないまでも密封するかのように袋で包まれているけど、どんな花なのか不安だ。
「匂いは嗅ぎ過ぎちゃ駄目だよ。効果強いから」
「は、はい」
花粉とか匂いとかに効果があるアロマとかに近い花なのかな。でも、王様がわざわざ注文するって考えると、違和感がないわけじゃない。
他にも使用用途があるのかそれとも……。
「まだちょっと早いかもしれないけど、荷物多いし戻ってキリカさん待つ?」
「そうね。それが良いと思うわ」
こういう時に現代の鍵付きの車やコインロッカーの存在を嫌でも認識してしまう。
考えないほうがいいのはわかってるけれど、便利だったんだな。
歩いてきた路地裏の道を戻っていこうとしたその時のことだ。
遠くで何か悲鳴が聞こえる。
それに反応するかのように轟音が近くでなった。
「な、なに!?」
「わからないけど、良いことではないと思うわ」
「そ、そうだよね」
こういう場合には急いでこの場から離れたほうがいいのか、一旦音が収まるまで待ったほうが良いのか対応がわからない。
そんなことをしているうちに、轟音は何故か近づいてくる。そしてあたりを土煙がただより始めた。
「ま、真琴あれ!」
「雛乃?」
「あれ!!」
雛乃が見ている方向には大きな建物が並んでいた。だが、奥の方から倒れるかのようになくなっている。
そして建物が視界から消える度に轟音が響き渡る。
さっきからなり続けている音はこれか。
「こっちきてない?」
「雛乃、走って!」
「う、うん!」
私達は走り出す。このままの流れだといずれ目の前の大きな建物が崩壊する。
それを止めるすべなんて持ってないんだから、私と雛乃は道を走り出した。
幸か不幸か人通りの少ない道で、邪魔するものはない。
ただ、建物の壊れていく速度も連鎖するように早くなっていっている。
「だ、だめだよ。真琴追いつかれちゃう!」
雛乃の声を聞いて少し後ろを振り返った時には、目の前の建物は倒壊を始めている。
それも瓦礫はこちらに降ってくるような形で倒れてきている。
「雛乃!」
「真琴!」
私は雛乃を抱きしめるように引き寄せて地面に伏せた。
後は運次第だ。
周りに瓦礫が落ちてくる音を聞きながら、目を閉じて時がすぎるのを待つ。
そして短いはずだけれど、とても長く感じる時間が過ぎて周りが静かになり目を開ける。
すると違和感があるほどに私達の周りにだけ瓦礫が落ちてこない状態にあった。
「雛乃? 大丈夫?」
「う、うん」
私はすぐに雛乃のことを確認すると、少し泣いてはいたけれど怪我はない。
「あ、あの……女王様、だ、大丈夫です、か?」
雛乃ちゃんに寄り添いながら立ち上がって周囲を確認しているとそんな声がする。
声の聞こえた方に振り向くと、そこにはキュリちゃんがいた。
ただ、先ほどは持っていなかったツボを持っている。
『おぉ~。新たな女王様だ!』
「わっ……え、えっと、あなたは誰かしら?」
ツボの中からは半分透けている少女がでてきた。
『列記とした名前はないです! あえていうならポルターガイストと呼ばれていますが、いわゆる物に取り付いた強いゴーストと思っていただければ!』
元の世界だと怪奇現象だったものも、この世界に存在すれば魔物やアンデットになるんだ。
『いやぁ、突然、キュリちゃんに持ち出されたと思ったら驚きましたよ。なにせ家が崩れまくってるんですもん。この町規模のポルターガイストである私にかかれば、多少の物をあやつることはできますが。倒壊そのものは無理でした。ですので伏せてくれていて良かったです』
「ってことは、あなたが助けてくれたの?」
『はい! 女王様に落ちてくる瓦礫を横にそらしただけですが』
「いえ、助かったわ。本当にありがとう。キュリちゃんもね」
「う、ううん……建物壊れたの見えて、あっち、お店あったから。心配、だった」
「ふふっ、ありがとう」
「は、はい」
キュリちゃんは顔を俯けてしまった。けれど、もともと白い肌もあって、耳まで赤くなっているのがバレバレだ。
「あたしからもありがとう!」
『いえいえ、ですがまた何が起きるかいまはわからないので、早めに露店のでてる大通りくらいまでは移動したほうがいいですよ! では!』
「ま、また……どこかで」
そう言うとキュリちゃんはポルターガイストを持って去っていってしまう。
一緒にいてくれてもいいんだけどな。
「ま、真琴ぉ……怖かった」
「そうね。大丈夫だから、ひとまず戻りましょう」
「うん……」
ひとまず瓦礫や周りの建物に気をつけつつ、私達は大通りまで戻ることができた。