おつかい
3人での再開から更に数日がたった。
全員との面会がすまずとも、引きこもり気味になっていた子も友達数人とは面会できるくらいにはなったらしい。
そんなある日のことだった。
私と雛乃ちゃんはカグラさんに呼び出された。
「ようっ」
「どうかしたんですか?」
「いや、何、最近の現状を聞いているところでな。特に精神的にも不安定さが最初からないメンツを呼んで聞いてるってところだ」
「そういうことですか。でも私達の現状を言われても……」
「まあキリカとかあいつらが結構よく見てるから、なかったりするのも事実なんだよなぁ……」
そういいながら椅子の上でだらける王の姿がそこにはあった。
「つうわけで、本題はこっちだ」
カグラさんは椅子の上に置いておいた丸まった羊皮紙をこちらに渡す。
そこには読めない言語とその下に書かれた日本語で、何かの名前らしき物が書いてあった。
「買い物いってきてくれ。ついでに、この世界の雰囲気を味わってきてみろ。それが売ってる町はうちの領土だから、特に魔物とかエルフだとか気にしねえから」
「は、はあ……」
町の名前は一番上に書いてある。そして大雑把に道も書いてあった。
「明日、その他の買い物もあるっていうからキリカと一緒に行ってきてくれ」
「わかった! 真琴、頑張るよ!」
「前向きね……別にいいけど」
「つうわけで、ついでに選別だ」
カグラさんは指を鳴らした。すると、メイドさんが出てきてその手に持った物を手渡してくる。
「これは?」
「一応、自衛道具だ」
数本のダガーと、それをしまうだろうベルトだった。ただ、腰につけるには小さい。
「失礼します」
「えっと、ひゃんっ!」
「真琴。すごい声出すね」
いきなり太ももを触られて思わず声を出してしまった。
慣れてない部分が敏感と言っていた、流々の気持ちがわかったかもしれない。
ベルトは太ももにまかれて、ダガーが収納できるようになっている。まるで暗器だ。
「そして、王様」
「カグラさんでいいぞ」
「カグラさん。あたし渡されたのは良いけど使い方わからないよ?」
雛乃が渡されたのは弓と短剣だった。短剣は矢筒とくっついている鞘にしまって腰に装着できるみたいだ。
ただ雛乃は別に弓道部に入っていた経歴などもない。
「まあ、エルフってそういうイメージじゃん? あと今までも経験ないけど、エルフになったやつら大体感覚だけで上達して狩りできるレベルになったから大丈夫」
ものすごい感覚的な答えだった。
「つうわけでよろしくー」
そして翌日の朝、王宮の入口で待っているとキリカさんは馬を操りやってきた。
馬車ではなく、でっかいリアカーとでも言うべきなリアカーだったけれど、買い物だしそんなものだと納得した。
「すみません。王の勝手な思いつきに付き合わせてしまって。世界に慣れるなら城下町でよいでしょうに」
「いえいえ、もう結構長くお世話になっていますし」
「そうそう。これくらいしか今のあたしたちにしかできないしね……ていうか、キリカさん」
「はい、なんでしょう。ヒナノ様」
「帰ったらでいいんで、この世界の読み書きを教えてもらえませんか」
「それは私もお願いしたいわ」
「わたくしでよろしければ、喜んで」
「「ありがとうございます」」
その後、若干不安定な荷車に揺られていると遠くに木造の建物や露天と思われるテントが多くある町が見えた。
「目的地がみえてきましたよ」
「やっぱり、日本とはぜんぜん違うわね」
「ゲームとか教科書とかでみた風景だね。楽しみと不安が多いよ」
「この国の領地では、今使っている言葉でも大体は通じますので、そこはご安心ください」
つまりこの国の領地の共通語は日本語ってことなのか。
現代の人がしったら驚くだけじゃすまなそう。
町の隅にある馬屋で馬と荷車を一時的に預けてから町の中へと入ることになった。
「わたくしは町長に王の手紙を届けてきますので、夕刻にまた馬屋の前に集合ということでお願い致します」
「わかりました」
「ここに書いてあるぶんの買い物は任せて!」
町に入ってすぐにそうしてキリカさんとも分かれて2人で歩くことになった。
「露天に売ってるのかしら?」
「多分、そうだと思うよ。なかったら雑貨屋とかがあるんじゃない?」
「そうね。まあ、時間は限られてるし行きましょうか」
道を歩いていると、いろんな種族の人達が見える。本当にこの国は他種族国家になっているようだ。
「この中のどのくらいの人があたしたちと一緒なんだろうね」
「どうかしらね。普通に難民も受け入れていると言っていたし、案外少ないかもしれないわね」
下半身が馬のケンタウロスみたいな種族もいれば、猫屋敷さんと同じような猫耳に尻尾のワーキャットや犬耳のワーウルフなどの姿もある。
ゲームなどでもみたことがない種族も多くいて、目移りしてしまう。
「あんまりキョロキョロしない」
「ご、ごめんなさい。どうしても気になったものでね」
そうして歩いていると、ふわふわと子供の姿のゴーストがよってきた。
『女王様。きた』
『女王サマー!』
「大人気だね」
「そういう種族だからね。こんにちは」
『コンニチハ!』
『何しに来たの?』
「お買い物よ。露店が何処にあるか知ってるかしら?」
『コッチ!!』
聞いてみると、先導して案内してくれるみたい。
「真琴の人徳もある気がするけどね。優しい雰囲気っていうかあるし、甘えたくなるのかも」
「そうかしら?」
「あたしも……」
「雛乃?」
「なんでもない! ほら置いてかれちゃうよ!」
「そんなに走らなくてもいいじゃないー」
そう言いつつも小走りになってゴーストと雛乃を追いかけた。