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友情

 あれから数日がたったある日のこと、私は雛乃ちゃんと一緒に少し大きめの部屋の前にきていた。

 ここまで案内してくれたキリカさんは「では、わたくしは近くの書斎で仕事をしていますので、何かあればそちらへ」と言って去っていった。


「ここにいるんだよね。流々ちゃんが」

「キリカさんがいうならそういうことになるわね」


 そう、委員長である河野さんに会いに来たのだ。

 あとで行くことを伝えてもらったものの、返答があるわけでもなくタイミングを見計らっていた。

 だが、キリカさんもこのまま何もしないと良くも悪くも状況は停滞すると思い、受け入れられるか等のことはともかく、一度会ってみてくれないかという流れになった。


 体の関係で、少し大きめの部屋に移ったクラスメイトは他にもいるらしく、この通路にある部屋はそんな人達のために改装されたものらしい。


「じゃ、じゃあ、いくよ」


 そう言って雛乃ちゃんは扉をノックした。


「流々ちゃん? 雛乃だけど」


 雛乃ちゃんがそうやって声をかけると中でガタッと何かが動く音がした。


「大丈夫?」

『ひ、雛乃ちゃん?』

「うん、真琴もきてるよ」

『う、うぅ……』

「その、しばらく会えてなかったし、顔みたいと思って、えっとそれで……」


 雛乃ちゃんはなんと声をかければいいか悩んでしまっている。

 河野さんのその返事に元気がなく、少し震えているような気がしたからだ。


「中入っちゃ駄目かな?」

『だ、駄目……こんな姿、みんなに見せられないよ』

「大丈夫! あたしは受け入れるから! そりゃちょっと驚きはするかもしれないけど!」

『ひ、雛乃ちゃんはそうかもしれないけど……』

「他の人がたとえ何か言ったとしても、あたしは流々ちゃんの仲間だよ! みんなに受け入れられてもらえなかったとしても、絶対にあたしがいる!」


 そして考えるのを放棄して、本音でぶつかり始めた。

 雛乃ちゃんのこういう言葉には嘘がないのが伝わってくるし、長い付き合いの河野さんならそれがわかっているはずだ。下手な説得よりも通じるかも知れない。


『で、でも!』

「でもじゃない! あたしを信じなさい! ずっとここにいれるわけじゃないんだから! なんなら一緒に暮らそう!」


 なんかプロポーズみたい。


『…………』


 最後は無言になって、扉の鍵が開く音がした。

 私と雛乃ちゃんは一度顔を見合わせる。

 そして、ゆっくりとして扉を開いて部屋の中へと入った。

 中は昼とは思えないぐらいの暗さになっている。


「流々ちゃん?」

「……どうなってるのかしら、これ」


 念のために扉は閉めるが、光のない夜みたいに眼の前にいる雛乃ちゃん以外何も見えないほど暗い闇が部屋の中に広がっている。

 私達は一歩ずつゆっくりと進んでいくが、少しして闇は霧が晴れるように消えていった。

 そして昼の明るさが取り戻された部屋の中を見ると、小さい風呂かはたまた水かはわからない水たまりがあり、部屋の隅に上半身を布団で隠している人がいる。

 ただ隠しきれないその下半身は、人のものではなかった。


「1,2,3……10本?」

「雛乃ちゃん。デリカシーってものをね」


 その下半身は白い触手のようなものになっていた。私はそれに見覚えがある。

 これほど大きい物はいないはずだけれど、イカの足にそっくりなんだ。白く10本あるそれには吸盤もついている。

 そして雛乃ちゃんが声に出して数える度にビクビクッと反応していたところを見ると、本人の意思などで動くものらしい。


「そ、その声雛乃ちゃんと……誰?」

「真琴だよ。真琴」

「……えっ?」


 顔は見えないが上半身をひねってこちらのほうを覗くようにしてみてくる。


「美人さんになっちゃったの。ほら、こっちしっかりみないとわからないよ」

「ほ、本当に?」

「本当よ……残念ながらね」

「そ、そうなんだ……」


 私のその返答を聞くと、一度とまって意を決したように布団を手にまとめて立ち上がり、こちらを向いた。

 その姿は、顔等は河野さんのままだけれど、肌の色が白紫とでもいうような色になっていて、下半身は先程のとおりに10本の触手になってしまっていた。

 記憶で一番近いかもしれないと思うのがクラーケンだけれど、人型も存在するのかはわからないから確信にはいたらない。


「流々ちゃぁぁん!!」


 そしてそれをみると、雛乃ちゃんは河野さんにむかって抱きついた――いや、その胸に飛び込んだ。

 もともと膨よかな胸だったけど、さらに成長している気がする。


「ひ、雛乃ちゃん!?」

「流々ちゃんよかった……やつれてたりしたらどうしようかと思ったけど、たわわに実りおって!!」

「えぇ!? きゃぁっ!」


 そう言って、雛乃ちゃんは揉みしだき始めた。

 一応私は目をそらしておく。

 そのまま少しして落ち着いてから改めて河野さんを向き合った。


「ま、真琴ちゃんなんだよね?」

「うん」

「……大変だったよね」

「えっ!? ちょっと……河野さん!?」


 何故か河野さんは涙を流して私に抱きついてきた。


「性別変わるなんて、大変だったよね……それくらべたら私なんて……私なんて、辛かったよね」

「い、いや、それは人それぞれだと思うし、下半身がそうなるほうがショックだと思うわよ」

「そんなことない! そんなことないよぉ……」


 私はただ河野さんを抱きしめ返すしかなかった。


「んぅ……ごめんなさい。取り乱しちゃって」

「いや、大丈夫よ」

「うん……でも、これからどうしよう」

「これからって?」


 入りにくかった空気だったのか離れていた雛乃ちゃんも戻ってくる。


「この姿受け入れてもらえるかな……」

「大丈夫! クラスの絆もなめちゃいけないよ! それに、たとえ全員じゃなくても、ここに2人。いるからね」

「……雛乃ちゃん」

「そうでしょ、真琴!」

「そうね……むしろ、私が誰かを受け入れてもらうほうが難しいかもしれないし。何人かまだ話してないから」

「そういえばそうだったね。でも、大丈夫! 真琴のことだってここに2人! 絶対に理解する人がいるからね!」


 雛乃ちゃんはそう親指を立てサムズアップして言う。


「むしろ、あたしたちの絆は今回のことによって更に深まったの! ということで、真琴!」

「なに?」

「今日から名前で呼びなさい!」

「えっ? どういう流れなの?」

「これからはクラスメイトを越えた、一緒に生きていくという気持ちが強くなった仲になるんだから、苗字呼びなんでまどろっこしいのよ。それに流々ちゃんはともかくあたしより大人っぽい見た目になってちゃん付けされるとすごい違和感」

「すごい個人的理由ね……ひ、雛乃って呼べば良いのかしら?」

「そう! じゃあ次」


 雛乃ちゃんはそういって視線を河野さんに向ける。


「る、流々って呼んでもいいかしら?」

「は、はい……」

「ふふっ、じゃあ、改めてよろしくね」

「こちらこそ」


 なんか気恥ずかしい。


「流々ちゃんはなんか、ちゃん付けって雰囲気があるからいいかな。そしてあたしはもともと真琴のことは呼び捨てだからよしっ!」

「すごい、理不尽じゃないかしら。この一連の流れ」

「細かいことは気にしないのよ! それじゃあ!」


 雛乃はそう言うと、私達2人の肩を集めるように組む。


「これからこの世界で生きていく仲間としてがんばるわよー!」

「お、おー?」

「雛乃のノリは変わらないわね」

「それぐらいじゃちょうどいいの! それじゃあ、ひとまず第一段階として今日はこの部屋に泊まるよ。真琴はキリカさんに言ってきて!」

「はいはい」

「えっ?」

「真琴も今はもう女の子だからいいじゃない」

「そ、そうかもしれないけど、えぇ!?」


 状況が一気に動きすぎて戸惑っている流々だけど、最初の暗い雰囲気は何処かへ行ったので良かった。


 私が部屋を出ていく時に後ろからは、

「ちょっと、足触らせて」

「ま、まって、まだ触られるのに慣れてなくて敏感だから」

「問答無用」

「い、いやああああ!!」


 悲鳴が聞こえたけれど、これは気にしないことにしよう。

 ひとまず、3人でまた顔を合わせて話せるようになったことを今は喜ぶだけだ。


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