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対面

 目が覚めてから数日がたった。

 現在は閉じ込められてはいないものの、クラスのみんなとの交流は互いに避けている。

 これは、新しい姿を見せる心の準備やまだ薬を飲んでいない子達への配慮も含めたカグラさんからの提案によるものだ。


「よう、元気してるか?」

「なんで、気軽に私の部屋にくるんですか? 一応、王様ですよね?」

「まあ、そこまで厳格な国ってわけでもないからな。いるだけ王に近い部分もある」

「そうですか……それで、何か御用ですか?」

「あぁ、今さっきだが最後の1人が薬を飲んだ。少なくとも、環境に適応できずに死ぬということは全員避けられたってことになるから伝えておこうと思ってな。今、みんなの所をまわってるんだ」

「よかったです……では、みんなとの対面も?」

「まあ、全員戻ってきたら希望者だけってところだな。残念だが簡単には受け入れがたい奴らも出てしまってるのが現状だ。仲がいいやつだけのがいいってこともある」

「それは……そうですね」

「まあ、そういうことで、他のやつにも伝えなくちゃいけないんでな」

「お疲れ様です」


 カグラさんはそう言って足早に別の部屋へと向かっていった。

 たまに声が響き渡ってくる。


「そっか……全員無事なのね。よかった……」


 私の不安だった気持ちが1つ晴れた気がした。


 さらに時は過ぎていき、その日はやってきた。


「まあ、ひとまず全員でっていうのもあれだ。会いたいやつの名前を言っていってくれ。それで、小さい部屋だが数人ずつ対面からだいいな。一度に大勢にあっても受け入れきれんときだってある」


 カグラさんがそう提案して、私達は数人ずつのグループで集まることに決まった。

 私が名前を上げたのはもちろんというのはおかしいが雛乃ちゃんの名前だ。

 その他だと河野さんの名前も挙げておいた。

 結果的にどうなるかはわからないけれど、次に呼ばれるのを待つばかりだ。

 体感的に言えば20分ほどたっただろうか。この世界には時計がないのでわからない。

 ノックの音が聞こえてきた。


「マコト様。入ってもよろしいでしょうか?」


 どうやらキリカさんのようだ。


「大丈夫です」

「では、失礼致します」


 扉をゆっくり開いて中へと入ってくる。


「それでは、案内しますのでついてきてください」

「わかりました」


 私はキリカさんの後ろをついていく。

 少しして1つの両開きの扉の前にたどり着いた。


「この中に、ご友人の方がお待ちです。マコト様が最後ですので。ですが……まあ、見た目が変わってますし、誰だかお互いにわかるかどうかもわからないので、あまり大げさな反応はしないようするのがよいかと」

「わかりました」


 そうか。私以外だって、誰かもわからないくらいのレベルの変化が起きている可能性があるのか。

 それこそミノタウロスさんみたいになったら、判断材料が声ぐらいしかないのに、女性がああなる可能性もあるってなると、何も信じられない。

 私はゆっくりと扉を開いた。

 その部屋にはたったひとり後ろ姿が見えた。

 スラっとした体に綺麗な肌と金髪で高めの身長の女性だ。そして一番特徴的なのはその長く尖った耳だ。

 私の記憶が正しければ彼女の姿はエルフのそれと一致している。


「あっ、誰がきたのかな? ちょっと恥ずかしいんだけど」


 そう言いながら扉の音に気がついてこちらに振り向いた彼女の声と顔を見て、私はおもわず少し駆け出した。

 そして、そのまま彼女に抱きついてしまう。


「えっ、ちょっと、えっ!? あの」

「よかった……また会えた」

「もしかして、真琴!?」

「うん……」


 少し落ち着いてから、お互いに顔を見合わせた。


「美人になったね真琴……」

「あんまりかわんないわよ……あっ」

「いいよ。強制的にそうなってるんでしょ。それにあたしにとって真琴は真琴だし……むしろ、あたしも女の子らしい口調とかになりたかったな」

「雛乃ちゃん……案外落ち着いてるね」

「うぅん……あたし自身は人にかなり近くはあるからね。それに、真琴に関してもミノタウロスの人とか見ちゃった後だから、どんな姿でも大丈夫なようにイメージはしてたから……こんなに美人になってるのがさすがに予想外だったけど」

「う、うん……そこは私も驚いた」


 その後はここ数日の間どんなことをしていたのかや、体が変わってからできるようになったことにできなくなったことなど他愛ない話をして過ごした。


「真琴は、他に誰か名前出したりしたの?」

「河野さんはだしたわ」

「あれ、あたしも流々ちゃんはだしたんだけど……ってことは、他にもっとみんなに呼ばれたか。ふせぎこんじゃったかってことかー」

「心配ね……」


 どれくらい話しただろうか、2人でそんな風にしていると部屋の扉がノックされて開いた。


「その様子ですと、おふたりともお話はできたようですね」

「うん。あたしはひとまず、大丈夫」

「私も大丈夫です」

「そうでしたか。ではこの後なのですが、また別の方々と会うことも可能ですがどういたしますか?」


 私は雛乃ちゃんと目を合わす。


「それじゃあ河野さんはどこにいますか?」

「うん。流々ちゃんに会ってみたい」

「ルル様ですが……そうですね。他の方にも聞いた所おふたりは仲が良かったと聞いているので伝えておきましょう。まあ、端的に言ってしまえば、自分の姿にショックで部屋に篭ってる状態になります」


 やっぱり、そうなっちゃっていたか。


「こうなってくると、どうしてもわたくしたちでは対処できないので、受け入れられるのを待つか友人の方たちと話すことで落ち着くかしか思いつかないのが難点です」

「流々ちゃんに一体何が……」

「まあ、わたくしもああなったら、困惑は絶対にしますね」


 アラクネとかみたいに虫の下半身とかそういうことの可能性が高そうだ。もしくはミノタウロスのような形で男性で人とは少し遠い種族も考えられる。


「すぐに会うのも難しそうかな」

「そうね。でも、あとで会いに行くって伝えておいてもらえると嬉しいです」

「それはもちろん。ではルル様には夕食時等におふたりが後で会いに来ると伝えておきます。では改めて他の友人の方とは?」

「真琴はどうする?」

「会えるなら、会っておきたいかしらね」

「じゃあ、会いたいです!」

「では、2階のバルコニーの方に、更に交流を望む方は集まっていますので、それ以降は自由にしつつ過ごしていただければ幸いです。念のために体に異変がおきないかもうしばらくは王宮で過ごしていただきたいと思っております」

「あてもないし、あたしたちとしてはありがたい限りだよね」

「本当にそうね」


 部屋を出て2階に上る階段前でキリカさんと別れた。

 そして階段を登っていき、2階のバルコニーにたどり着くと、見覚えのある顔と人ではない特徴を持った人あわせて4名ほどが談笑していた。


「あ、雛乃! うわぁ……綺麗になったね」

「そ、そうかな? 香織は人間のままだったのね」

「良かったのかはわからないけど、そうみたいね。さすがにこれ以上様子見ても変化はないから人間だろうって。特に環境に不適応で体調崩すこともないから、自由になったのよ」


 雛乃ちゃんの友達の羽島香織さん。どうやら彼女は何も変わらずに人間のままだったみたいだ。


「それで、後ろの美人さんは?」

「真琴」

「……え?」

「だから、真琴」

「……えぇっ!?」


 羽島さんは驚きの声を上げると、何度か雛乃ちゃんと私の顔を交互にみて、こちらに走ってきた。


「ま、マコっちゃん!?」

「こんな風になっちゃったわ」

「超美人さんじゃん! むしろ憧れる! ボンキュッボンでなにこの最強の容姿!」


 さすがにそこまで褒められると照れる。


「ふふぅん、たしかに真琴は美人さんになったかもしれないけど、それでもわたしにはかなわないわ!」


 2人で話していると自尊心の強そうな声が響き渡ってくる。

 猫屋敷姫子さん。何事にも自信満々に挑んでいくチャレンジャーだけど、失敗も良くする。彼女は髪と同じ色の猫耳と尻尾が生えて、手足も猫らしくなっていた。


「ワーキャットの可愛さに勝てるものはいないにゃー。なんて……あれ、滑った?」

「まあ猫、かわいいわよね」

「哀れみの目で見るなー!」


 それでも比較的本人とすぐわかる容姿だ。


「猫屋敷さんは相変わらずだね」

「その声は……」


 バルコニーの橋で遠くの風景を眺めていた、狐のような尻尾をいくつも持っている人がこちらへと振り返る。


「そうだ。君もご存知、狐塚遥輝だ」


 眼鏡を光らせながら遥輝くんはそう名乗った。

 クラスでよくクイズをだして良くも悪くも愛されていた遥輝くんは、大きめの狐の尻尾が九本ある。いわゆる九尾っぽい姿になっていた。


「普通にかっこいいわね」

「も、もと男とは言え美人に言われると照れるぞ!」


 純情だな。


「はっはっは! お前は相変わらず女子態勢ないな!」

「う、うるさい! お前みたいに男女関係なく友情作れるわけじゃないんだ!」

「戒斗くんは人間のままだったんだね」

「まあな。とりあえず、ここらで一段落だな。そんで、女子は女子で戯れているし、男子……いや、元男子組は俺たちで雑談といこう!」


 気づけば、女子は3人でたしかに雑談し始めているのが見えた。邪魔してもいけなさそうだ。


「しかし、まさか僕らがこんなライトノベルのような事件に巻き込まれるとわな」

「ラノベ? あんま読まないから知らねえけど、こういう題材のもんがあるのか?」

「たしかにいくつかはあったかもしれないわね」

「いくつかどころではないがな……ただ、そういう場合は勇者として召喚されて、とても強い能力をもらえたりするのが世の常だが、まさか世界の環境にすら耐えられない状態でスタートとは、現実は非情であるとはよく言ったものだ」

「ま、あくまで物語は物語っつうことだな……つか、こんなにいっぱい勇者がいてもだめだろ」

「まあ、勇者過多になるわよね。ひとクラスぶんの人数なんて呼んだら」

「まあ、そういうものもたまにあるが……もしかすると、ここにいない人達は勇者としてどこかの国に呼ばれたのかもなんてな」

「……そんな都合がいいことあるか? いや、でもたしかにあいつらなら勇者かはともかく、何かやってくれそうな気はするか」

「そうね。何か秀でているものを持っているひとがことごとくいないからね。都合がいいかもしれないけど、ありえない話じゃないかもしれないわ。げんに私達は人間じゃなくなったりするぐらいなんだから」

「まあ勇者となって生きていてくれればいいが……最悪どこかに投げ出されていたら終わりだ」

「また、クラス全員で揃えるといいな」

「そうね。そのためにも今を生きるために頑張らないとだけど」


 そう話ながら私はふと空を見上げた。

 雲がまばらにある青空だけをみれば、元の世界と変わりない。ここにいないみんなは今何をしているのか。ちゃんと生きているのだろうか。


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