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運命の日

 運命の日が訪れた。

 朝起きて朝食を食べたあとに、僕と雛乃ちゃんに河野さんを含めた数人は王の間の奥にある扉を叩いた。


「おう、入ってくれ」


 中からカグラさんの声が返ってきて部屋へと入る。


「きたか……ひとまず、お前たちは決めたってことでいいか?」

「はい……で、ですが、まだ他の子たちは」

「あぁ、わかってる。こちらとしても無理強いするつもりはない。悲しいことだが死んだほうがマシと考えてしまう人がいることだって、現実なんだ。今までだってあった……それじゃあ、ひとまずお前らからはじめていこう。ついてきてくれ」


 カグラさんはそう言うと、立ち上がって部屋から出ていった。僕達もそれについていくと、たどり着いたのは地下だった。

 ランタン等で明るくなっていて、扉がいくつも存在している。


「薬の効果だが、すぐに出るやつと徐々に出るやつがいる。だから、薬を飲んで数日はすまんがここで過ごしてもらう……上で、効果が発揮されて錯乱しても周りを危険に晒すだけだからな」

「錯乱って……やっぱり危険な薬なんですか?」


 それを聞いて河野さんは恐る恐る聞いた。


「いや、死ぬことは絶対にない。そうだんげんできるものだ。だが、少し考えてみて欲しい……たとえば、薬を飲んで次の瞬間に自分の下半身が蜘蛛になっていたらどう思う?」

「それは……」

「錯乱っていうのはそういうことだ。そんで、場合によっては筋力とかがしゃれにならないやつらもいるからな。落ち着くまではできるだけ、周りに被害がでないようにする措置で、お前たちを牢屋にいれてどうこうしたいってわけじゃないんだ」


 説明を受けると納得がいったというような雰囲気だ。

 僕としては、昨日ゴーストなどを見たせいもあってか少し落ち着いていた。


「そんじゃあ、まあ……始めるとするか。これから薬を渡す。部屋に入ったら飲んでくれ。部屋の様子は細かく俺や王宮の奴らが確認しに来るし、1人はこのフロアの常駐させる。何かあれば言ってくれ」


 みんなそれぞれが薬を受け取ると、部屋へと入っていく。

 僕もまた部屋へと入ったあとに、一緒に渡された水つかって錠剤を飲み込んだ。

 部屋の中にはベッドに机と椅子が置いてある。その他にもなにやら筋トレ道具のようなものや、縄跳びとして使えそうなものなどが置いてあった。


「一応、時間つぶし道具みたいな感じなのかな」


 それから体感で数時間がすぎても、僕の体に反応はない。どうやらすぐにはでないタイプのようだ。

 暇で仕方がなく、置いてあった知恵の輪で時間を潰す。

 その後も変化はなく1日目が終わりを告げようとしていた。夕食も食べ終わり、外から時間感覚を狂わせないためにと、普段の就寝予定時間になったという声がかかる。

 三つ目の知恵の輪をやりながら僕は部屋にあったベッドに寝転がる。

 そして、だんだんと眠くなってきた時に、突然胸に違和感を感じ始めた。


「んっ……なんでっ……」


 若干苦しいという感覚があったが、その不快感が消えた。

 だが、先程まで以上の眠気が突如襲いかかり、そのまま眠りについてしまった。

 これが人間の響野真琴の最後となった。


 ***


 どれくらい寝ていたのか。

 ふいに意識を取り戻して目を開く。長い間寝ていたのか、視界はぼやけている。


「んぅ……んっ?」


 自分からでた声が高い気がする。


「どういうこと?」


 ひとまず起き上がることにしよう。

 腕に力を入れてベッドを椅子のようにして座る態勢になる。

 少しして視界が戻ってくると、自分の視界にうつっていたのか髪だった。それも背中側から肩を乗り越えるような長髪で色も銀色だ。


「どういうことなのかしら?」


 よく見れば手も人間と同じ姿形だけど、色白を通り越して雪のように白くなっている。


「私、何になったの?」


 事前に聞いていた説明もあって混乱することはないけれど、純粋に自分が何になってどんな姿になっているかが気になった。


「少なくとも……」


 手や髪を確認している時に、ずっと強調していた物に手を触れる。

 触ってみればたしかに自分の体だとわかる――強調の強い胸ができていた。

 服のサイズも合わなくなっていて、かろうじてシャツが引き伸びつつも隠してくれている状態だ。


「つまり女になったってことよね……そういえば、口調も自然と……これが影響ってやつかしらね」


 違和感はない。自分で修正力と言われていたことを思い出して、やっと自覚するレベルに違和感を感じずこの口調で話していた。


「ひとまず……声をかけようかしらね」


 鍵が外側からかかっている扉をノックする。


「ん? 起きたか? 具合のほうはどうだ?」


 外に常駐している男性が扉の前までやってきてくれた。


「大丈夫。自分の姿がどうなってるかもよくわからないのだけれど、どのくらい寝てた?」

「2日ほどだな。この薬だと、何度かあったことだから、体調を見つつだったが。この夜に一気に変化したか」

「昨日寝る前は変化はなかったってこと?」

「そうなる。まあその落ち着きようなら大丈夫そうだな。鍵をあけるからすこしまってくれ」


 そう言った後に、持っていた鍵束に手をかけたのか金属がぶつかりあう音がして、扉の鍵が音を立てて空いた。


「よし、それじゃあ、これからカグラ様にも声をかけてってうおぉっ!?」

「なにかしら?」

「い、いや……その、服をだな」

「体が変化してサイズが合わないんだから仕方ないでしょう」

「そ、そうだな。カグラ様より先にメイド長のほうに声をかけて服を用意してもらおう」


 そう言うと、男はそそくさと上に上る階段を登っていった。

 ここ放って置いて大丈夫なのかな。いや、まあ何かするつもりは全くないけど。


『女王様お目覚め、お目覚め』


 そこらへんにあった椅子に座りながら人が戻ってくるのを待っていると、どこからか声が聞こえてくる。

 周囲を見渡してみると、壁をすり抜けるようにしてふわふわとした雲のような塊がやってくる。


「ゴーストの一種かしら?」

『ボク、リッチ様。つくった、ミニゴースト』

「リッチって子がつくったミニゴーストってことかしら」

『そう! リッチ、女王様、たのしみ! 会いたい!』

「ふふっ、じゃあ、もう少し落ち着いたら会いに行くって伝えて」

『やった! バンザイ! アリガトウ!』


 ミニゴーストはそういった後に、今度は天井を突き抜けて上へと消えていった。


「おまたせいたしました……わお、これは驚きですね」

「えっと……はじめまして?」

「はい。あなたとは初めましてですね。この王宮にてメイド長をしております、ハイフェアリーのキリカともうします。皆様と同じような境遇ですので、何かあれば気軽にどうぞ」

「私は真琴……って、性別変わっちゃったから名前そのままでいいのかしら?」

「真琴なら、中性的ではありますしよろしいかと」

「じゃあ、そのままにしておこうかしら」

「それでですね……予想以上に胸が大きいですね。それに雪色の肌で……これならドレスのほうがいいかもしれませんね」

「着方しらないのだけど」

「修正力は随時働いていきますし、働かない部分についてもわたくしが教えて差し上げますので……そうですね――」


 その後、キリカさんはこの場をいったりきたりして、服を選んでくれた。そして着方や髪のまとめ方も教わり、体感的には1時間近くたった。


「これで、完璧です!」

「これはちょっと、露出が多いのでは」


 目の前にカガミが用意されて、自分の姿が丸見えになっている。

 そこには、前の自分より少し身長が高く、美女といえるような雪白肌の女性がたっていた。

 紫のふくらはぎほどまであるロングドレスで、片側の腰部分あたりから切れ目がはいっており、うごきやすさが確保されているが、大きく動けば見えてはいけないものが見えてしまう気がする。

 それに上半身も、肩出しで胸の谷間がみえてるどこから、北半球が見えている。

 それに、太ももの中ほどまでのソックスとハイヒールだ。

 靴に関しては、すぐに修正が働いたようだが、露出の多さに関してはまだ恥ずかしさが残る。

 これは羞恥の問題かもしれない。

 それにしても、ボンキュッボンになっちゃったな。


「まるで氷の女王ですね。目も赤く光ってますし」

「ちょっと、思ったけどいわないでほしかったわ……」

「まあ、少し恥ずかしくなれない部分もあるでしょうが、着替えに予想外に時間がかかり、カグラ様をすでに長い時間待たせているので、一度あっていただけると」

「それを先にいってちょうだい! ……もう仕方ないからいいわ」

「では、入り口ですわってますので呼んでまいりますね」


 数分程度たって、カグラさんが降りてきた。


「マコト。ようやく起きたか……って、おぉ。聞いていたが予想以上に美女になってるな」

「自分でもびっくりです」

「しかし、その体の感じだと……少し待て」


 そういうとカグラさんは手に持っていた分厚い本を開いて何かを探し始める。


「ふむ……あった。おぉ……まさかだな。ゴースト達に好かれていたのも納得だ」

「どういうこと?」

「お前がなったのは『クイーンファントム』と呼ばれる希少種だな。本来はアンデットを束ねることも多い種族なわけだが、本人に集団を作る意思がなく、勝手に回りに集まってきていることもざらということらしい」

「聞いてもいいなら、その手に持った本は?」

「遠くからかなり前に取り寄せたこの世界にいる魔物を網羅した図鑑だな。とはいえ、ハーフとか突然変異とかでさらに種類は増えたりしているから、一概にはいえんが。お前の場合特徴が一致する。白い肌に麗しき見た目。そして、その肩からたまに見え隠れしている霊体の腕な」

「えっ!?」


 言われてから初めて気がついた。

 たしかに自分の肩から透けている人とは少し違う腕があった。自分の意志で動かせるようで、腕の形も人の腕に変えたりもできるようだ。もちろん消すことも可能らしい。


「まあ、体に違和感がないなら、無事適応ができたってことだな! そんじゃ、まあひとまずこれからよろしくな。マコト……ようこそ、この世界へ」

「……よろしくおねがいします」


 私は握手を求めてくるカグラさんの手をその手で握り返す。

 ここからクイーンファントムとなった私の新たな人生が始まる。


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