決意
その日はみんな疲れて寝てしまったようだ。
次の日の朝に目が覚めて、朝食もだしてもらえた。ただ、みんなの表情は晴れない。
夢であったら良かったのにとすら思っているぐらいだろう。
朝食の後は、外に出るような意識もなく、それぞれが今後どうするかを話していた。
だが、グループの主軸となってた人がいなく、孤立してしまっている人たちもちらほらと見える。
「真琴はどうするの?」
「うぅん……どうしよう。まだ、混乱してて簡単に決めるのも難しいんだよね」
これを現実として受け入れようと頑張って入るものの、どこか浮世離れという意識がぬけない。次に目を覚ましたときには日常に戻っているかもしれないとすら思うほどにだ。
「でも、決めないといけないんでしょ……」
「実質選択肢はないものだと思うけどね……雛乃ちゃんはもう覚悟? は決まったの?」
「微妙かな。だけど、死ぬ覚悟はもっと決まりそうにないから……って思えば、選ぶことに躊躇はないかも。人じゃなくなっても、あたしはやりたいことがあるもん」
「……そっか。そうだよね……でも、ごめん。僕はもうちょっと時間かかりそう」
「仕方ないよ。考えすぎて倒れるなんてことはやめてよね」
「うん……」
その後他の人達とも話をするといって雛乃ちゃんは去っていった。
僕はといえば、一人になってからは王宮の2階にあったバルコニーで外の風景を眺めながら、ボーッとしている。
「どうした、少年」
「えっ!? うわっ……王様?」
「堅苦しいのは抜きにしようぜ。俺の名前はカグラ・カガミだ。元の名前でいえばカガミカグラと読むわけだが、お前たちと同じ世界だろうか? 正直、よくわからんのだ」
「えっと、多分同じだと思います……そういう言い方だと僕はマコト・ヒビキノになりますね」
「マコトか! それで、こんなところでどうした……みんな不安で1人でいることは避けているというのに」
「そうなんですか?」
「あぁ……俺やミノタウロスになったあいつは良くも悪くも1人でこの近くに投げ出されたようなもんだった。だから、覚悟はすぐにきまった。だけど、お前たちみたいに複数人で来る場合はたいてい、リーダーがいなくなっていることだろう。そしたら普通は不安になるもんだ」
「……そう、ですね」
カグラさんはそう言うと、僕の横まできて柵に腕を置いた。
「ここの景色はどうだ……幻想的だろう」
「そうですね。この規模の砂漠とか森なんてテレビでしかみたことありません」
「そうだろうそうだろう。ってことは、俺がいた時代からあんまり変わってないのかもしれんな。もしくは、こっちとあっちで時間の進みが違うか……まあ、今となってはどうにもならんとだ」
「あの……王様は」
「カグラでいいぞ」
「カグラさんは……この世界で生きていくことは怖くなかったんですか?」
「ふむ……」
カグラさんは腕を組んで少しうなりながら考え始める。そして、考えがまとまると僕の方をまっすぐみてきた。
「怖かったさ。こんな誰も知ってるやつがいないような世界だ。しかも、俺には生きていくすべがなかった。怖いに決まってる……だけど、死ぬのはもっと嫌だったっていうんかな。それと、この国があった。良くも悪くも話せる奴らがいた……一緒に気持ちを共有できる奴らがいた」
「共有できる人達が……」
「お前だっているだろ。一緒に来た人や。そうでなくとも、この街にいる奴ら全員と気が合うなんて言わないが、誰か仲良くなれるやつだっているはずだ。あと、下世話な話だけどな……俺はこの世界でのほうがモテる。現実じゃ全くモテなかったのにな」
「えっ……ふふっ」
「な、笑うなよ! でも、やっぱりそういうことなんだよ。俺の居場所が作れる場所だから、今生きているのは楽しい。元の世界に戻りたくなるときもないとはいわねえけど、この世界に絶望することはすぐになくなったんだ。だから、俺たちがお前達もそう思えるように全力を尽くしてやる。だから……生きてほしいんだ」
「カグラさん……」
「へへっ、しっかし……お前ももしかするとこの世界だとモテるのかもしれんな」
「えっ? どういうことですか?」
「こいつをかけてみろ」
カグラさんはそういうと懐から眼鏡をとりだした。ただ少しレンズの色が不思議ないろをしている。
「これは?」
「この世界の環境に適応していないと見えない奴らがいる。そいつらが見えるようになる」
「はぁ……」
僕が眼鏡をかけてみると、目の前に小さい女の子がいた。
「うわっ!!?」
「はははっ! 周りを見てみろ」
「えっ!?」
周りをそのまま見渡してみると、空中に浮いた女の子達が数人いる。その他にも、遠くから僕を見ている子達だっている。
「こ、この子達は?」
「アンデットのゴーストだな。この世界ではアンデットは不死の象徴でもあるが、生者と同じように生きているものだ。記憶を失って新たな生を受けているに近いやつらも多い」
「そ、そうなんですか。でも、なんで僕の周りに?」
「お前を気に入ったか、お前から何かを感じているのかもしれん。薬を飲んだら、あんがいアンデット種の何かになるのかもな。ヴァンパイアとかキョンシーもアンデット種の一種だしな」
「笑い事じゃないですよ!」
「なぁに、多少、吸血とか体の動きの問題はでるが、生きているのと変わらん。それにあれによって変わる場合は記憶も残るしな……まあ性別が変わると口調とかある程度は修正されるわけだが」
「は、はぁ……まあ完全に男の精神のままよりはいいと思いますけど」
「ま、お前のことを気にしてくる奴らが少なくとも俺を含めてこんだけいるんだ……あんまり怖がんないでくれよ」
「……はい」
なぜかわからないけれど、恐怖や考えていた事が晴れた気がする。
多分、僕はこれを選択したことであとで後悔するかもしれない。元の世界へかえることや、元の体に戻れるかどうかとか色々と考えることはあるだろう。
だけど、今生きているということに対して、今誰かとともに入れることに対して、カグラさん達のように前向きになれればその公開は、悪い後悔ではない――そう思えたんだ。
その日の夜のことだ。
僕はまた夕食の後にバルコニーにきていた。
「見えないけどみんなまわりにいるのかな? ……もし、僕がどんな姿になっても、手助けしてくれたら嬉しいな……って、ちゃんと話したこともないのに都合がいいかもしれないけど頼みたいんだ。僕だけじゃない人達にも……」
僕がそう言い終わると、返事をするかのようにネクタイが解かれてしまった。
「……物には干渉できるってことなのかな?」
科学技術が発展していないこの世界の、きれいな星空を目に焼き付けたあと僕は王宮の中へと戻った。
途中で、みんなの部屋から話し声が聞こえる。
盗み聞きもよくないので、耳を済ませることはしないけれど、何か決意を決めたかのような声も聞こえた。
そして自分の部屋となっている場所の扉の前までいくと、雛乃ちゃんが立っていた。
「あ、外にいたんだ。通りでノックしても返事がないわけだ」
「どうしたの?」
「ちょっと、話がしたくて……部屋入ってもいい?」
「……うん。僕も話したいことがあったんだ」
僕たちは部屋に入るとベッドの上に座って、少しの静寂が部屋の中に訪れる。
「あたしさ。決めたよ……他のみんなとも話し合ったの」
「そっか」
「委員長達とも話して、誰かが最初にやらないと決意ができない子だって多分いる……だから、あたしたちは決めた。明日、王様に言うつもり……それが話したかったの」
「うん……僕も決めたよ」
「えっ? で、でも昼に悩んでて」
「あのあと、2階にあるバルコニーで何をすることもなく外を眺めてたんだ。その時にカグラさん。あ、王様と話す機会があって……多分、怖いことだし簡単に決められないことかもしれないし、受け入れられないことかもしれないけど……だけど、選ばないと進めない。それに僕は一人じゃないってわかったから……だから、進もうと思うんだ。正しい道かはわからなくても」
「……そっか。安心した……本当は、真琴を置いて先にやっていいのかなってちょっと悩んでたりもしたんだ」
「そうなの?」
「だって……幼馴染だし」
これはどう受け取ればいいんだろう。
「ま、まあ、いいの! そういえばきいた! 真琴! ここのメイドさんから聞いたことなんだけど!」
「な、なに?」
「この世界って一夫多妻とか一妻多夫とか、同性婚とかほとんどが認められてるんだって! 重婚は認められてるけどあんまりよくないらしいけど」
「へ、へぇ……そうなんだ」
「だ、だから……まあ、女の子の真琴になっても真琴は真琴だし。男とかのあたしになったとしてもあたしはあたしだからね!」
「う、うん。そうだね」
「そ、それじゃあ、明日薬がどんなふうに効くのかとかよくわからないし、早めに寝ておかないとだね! おやすみ!」
雛乃ちゃんはそう言うとそそくさと部屋から出ていってしまった。
「どうしたんだろう……」
人間最後の日になるとおもうと、引き止めてももう少し話しておけばよかったのかな。
そう思ってしまう僕もいた。