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異世界に落とされた

 高校で普段通りに授業を受けていたある日のことだった。

 歴史の授業の中で、教師が古本屋で見つけたという怪しげな本に書いてあった紋様を黒板に描いた。

 その瞬間、その紋様は光を放って教室を飲み込んでいった。


 次に目を覚ました時、俺たちは薄暗い空間の中に倒れていた。

 ゆっくりとみんなが目をさましていく中で、誰しもが混乱や困惑の表情を浮かべている。


「あれ……男子が少なくない?」


 目覚めた女子の中のひとりがふとそうつぶやいた。確認してみると、クラス全員はこの場におらず、目立って男子生徒の特に運動会系や成績の良かった人達がいなくなっている。

 女子も数人いないが、やはり成績優秀者等だ。


「真琴。大丈夫?」

「う、うん、大丈夫」


 僕のことをそう読んで心配してくれるのは、幼馴染の雛乃ちゃんだった。どんなときでも元気でムードメーカーである彼女も、流石にこの状況では、いつものようにはいかない。

 光も見当たらなく、これからどうしようとしている時、ふと何か石が擦れるかのような音が遠くで聞こえて、反響してくる。


「と、とにかく、まずはここからでましょう!」


 女子のクラス委員の河野さんがそう声を上げて行動を始めようとする。

 周りのみんなもそれに従うようにして壁に手をついて慎重に音が聞こえた方へと移動を開始した。

 僕は一番後ろを歩いている。

 壁を触った感じは、石垣みたいな感触だ。継ぎ目のようなものも感じることから、人工物じゃないだろうかと予想が立てられる。

 しばらく歩いていくと、道の先から小さな光と足音が近づいてくる。


「おい、大丈夫か!」

「またこのパターンか……あの国は本当にろくでもないことしかしない」


 愚痴のように聞こえるそんな声とともに、近づいてきた光は松明のものだったようだ。

 なんで、そんな原始的なものを使っているのか。そもそもここは何処なのか、色々と気になることは増えていく。


「あ、あの、助けてください!」


 僕達の中の1人が、ついに絞り出せた言葉がそれだった。それにたいして――。


「あぁ、もちろんだ。この光についてきてくれ、すぐに外にでれる。そしたら安全な場所まで連れて行ってやる。おい、ミストは殿だ」

「おう、了解だ相棒」


 こうして、救助に来たかは定かではないが、この場で出会った2人と共に、暗闇から脱出することができた。

 外に出ると、そこは廃れた教会だった。さっきの音は地下への階段の入り口を開けた音だったらしい。

 屋根も吹き抜けになっていたりと涼しい状態だ。


「魔力反応があったと思えば案の定だな……」

「では、みんな。ここにとどまっているのも危険なので、すぐに移動しよう。少し歩いた場所に馬車があるからそれに乗ってくれ」


 2人は声を聞く限りは男だけど、フルフェイスをしているので厳密にはわからない。

 そもそも、なぜフルフェイスに金属甲冑を纏っているのか不明で仕方ない。

 だが、それ以上にここが危険と言われてしまっては、僕たちはしたがって馬車に乗り、揺られていくしかなかった。

 そして最後にたどり着いた場所は、森と砂漠に囲まれた奇妙な国だった。


「あぁ……気楽にしていいぞ」


 明らかに王宮と思われる場所まで運ばれた後に、案内されたのはこれまた王の間と言えそうな場所だ。

 そして、そこには大きな椅子があり褐色でガタイのいい男が座っている。


「まあ、色々と心配事はあるだろうが……なんというか、運が悪かったとしかこればかりは説明できん」

「そ、それはどういうことですか」


 みんなを代表するかのように河野さんがそう質問する。


「簡単に言えば、信じられんと思うが、今君たちがいるこの場所は、いわゆる異世界という物になる。多分、わけのわからんところにあった穴におちたり魔法陣的な物をだれかがかいたりしちまったと思うんだが」


 みんなは顔を見合わせる。教員がかいたあれが原因だと察したからだ。


「まあ、そいつのせいで、異世界に来ちまったってわけだ。それ以上でもそれ以下でもなくて……もう少し詳しいことも話せるがその前に伝えるべきことがあるんで、今回はおいておかせてもらう」


 男は淡々と話していく。

 ただ、僕は状況がつかめずにいた。

 どこか現実離れしてしまっている。だけど目が覚めてから見たものの殆どが現代では、教科書やゲームなどでしか見たことがないようなものだった。

 少なくとも現代らしいマンションやアパートがあるわけでもビルが立ち並んでいるわけでもなく、そもそも日本っぽくもなかった。

 それらを踏まえると嘘だと簡単に切り捨てることもできない気がする。


「まあ色々言いたいこともあるだろうが……聞いてくれ。それで、この場にいるお前たちは、この世界の環境に適応していない体のままになっている。簡単に言えば、このままいれば、毒を吸いすぎて死んだり、外国の水が合わずに体調を崩してそのまま死んだりするみたいなことになる」


 その言葉を聞くと、少しざわつく。

「そんな」「じゃあ、このままじゃ死んじゃうってこと」等といろいろと憶測が飛び交ってしまう。

「だが、まあ聞いてくれ。この国はそんな奴らが集まってできている国だ。もちろん、それを阻止する術を持っている」

 そういった後に、その男は指を鳴らした。すると、奥にあった扉からこれまた大柄な男が入ってくる。だが、上半身はなぜか布で隠していて、その手にはお盆と小さい錠剤がのっている。


「それがこいつだ。この錠剤には、体をこの世界に適応させる効果というか成分が入っている。毒じゃない証拠は俺がこの場で生きているということとか、その他にも街の人間の同じような境遇の奴らが生きていることでしか証明できない。……ただ少しだけ、人によっては問題と思うものがある。おい、みせてやれ」


 彼がそう言うと、大柄な男は上半身を覆っていた布を外す。

 そこにいたのは人間のように二足歩行して腕や脚もあるが、体や顔は牛のそれになっている、ゲームなどでよく見るミノタウロスだった。

 下半身は人と同じような鎧のブーツなどをつけていて、わからなかった。


「こいつによって適応される場合、人間ではなくなるばあいもある。まあ、人によって適応というか、この世界にもし生まれた場合に近い修正によるものと考えているが、実際にはわからない」


 男がそう言い終えると、ミノタウロスの人が一歩前に出て話し出す。


「お前たちと同じ世界か定かではないが、オレももとかこの世界とは違った世界の人間だった。だが、この世界にオレは落ちて、環境に馴染めずに死にかけていた時に、薬を飲まされて一命を取り留めることができた」

「えっと、お前らの世界にゲームってあったか?」

「は、はい。ありました」

「そんなら、話は早い。多分、あると思うがファンタジーゲームと似たような世界だと思ってくれればいい。だから、今までの例だとワーキャットやワーウルフなどの獣人やエルフにドワーフ等の亜人、ラミアやアラクネやヴァンパイアみたいな例も少ないけどなきにしもあらずってところだな。ちなみに男が女になる場合や女が男になる場合もある」


 とにかく人型か半人半獣で、知能が人間に近い物になる可能性があるっことらしい。

 ただ彼のように人であり続ける場合もあると考えられる。


「まあ、今簡単にできる説明は以上だ。すぐに決断しろとは言わないが、人によっては早くて3日で環境の影響がでてくる。可能ならば俺はお前たちを助けたい。数は十分にあるからしっかり考えて欲しい。少しの間ならこの王宮に空き部屋が大量にあるんでな。世話してやれる」


 みんないろいろなことがありすぎて、考えがまとまっていない雰囲気だ。彼のこの提案はとてもありがたい。

 かくいう僕だって、簡単に受け入れられているわけではない。


「質問がなければ部屋まで案内しよう。まずはゆっくり休んでくれ」

「あ、あの、それじゃあひとつだけ聞きたいことがあります」


 委員長は、顔が青くなってるようで、やられてしまっている。しかし、何か使命を果たそうとするように、声を上げた。


「なんだ? 俺が応えられることなら答えよう」

「その薬を飲んで、人ではなくなる可能性もあるんですよね……この世界から元の世界に戻れる方法はないんですか」

「……残念ながら見つかっていない。この世界に最初に勇者が召喚されたとされるのが400年ほど前。それ以降、魔王と人族は争いを続けてきている。一説には魔王を倒すことができればとあるらしいが、達成されたこともなければ確証も得られていない話だ。高望みは厳しいことだがしないほうがいい」

「そ、そうですか……ありがとうございます」

「いや、いいさ。よく聞いてくれた。俺も大事なことなのに説明していなかったからな。それじゃあ部屋へと案内しよう」


 その後、各自部屋へと案内されて、ゆっくりとする時間が取れることになった。

 このクラスでいえば先頭に立って、率先して行動を促すようなタイプの人は、ほぼ勇者として呼ばれてしまったんだろう。

 雛乃ちゃんはムードメーカーであれど、前に立つというよりはみんなの中に入って盛り上げるタイプだ。

 河野さんが頑張ってはくれているけど、それも長くは続かないだろう。


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